69:グレジハト村報告会-2
本日は二話更新です。
こちらは二話目になります。
「とまあ、こんなところね」
「なるほど。ちなみにエオナ、貴様は『ルナリド・ムン・フロト・ファトム=ミ=イメジ』は使えるか?使えるなら、ファシナティオの姿を出してみてくれ」
「えーと、ああうん、大丈夫。使えるわ」
『ルナリド・ムン・フロト・ファトム=ミ=イメジ』は、自分が思い描いているイメージを幻影として目の前に出現させる魔法である。
普段使わないので忘れていたが、確かに私が見た相手がどんな姿を伝えるのに適した魔法だろう。
「じゃ、使うわ。『ルナリド・ムン・フロト・ファトム=ミ=イメジ・フュンフ』」
魔法が発動。
私の目の前に半透明のファシナティオが現れる。
ただ、私のイメージを実体化させると言う魔法の特性なのか、現れた幻影と記憶の中のファシナティオを改めて比べると、幻影の方が本物よりも微妙に顔があくどい物になっているし、衣服が若干控えめになっている感じもする。
「やはりファシナティオか」
「敵の一部が名前を叫んでいましたが、まさか生きていたとは」
「うっ……嫌な記憶が……」
まあ、些細な違いだろう。
ルナたちにファシナティオを名乗ったヤルダバオト神官が、少なくとも姿はファシナティオと同じであることが分かれば十分である。
「で、ファシナティオの持っている水盆がミナモツキだな」
「ええそうよ。どうにもフルムス……と言うよりクエストで目にする場所から持ち出して、好きなように使っているみたい」
ファシナティオの手には杖と水盆が握られている。
この内、水盆が複製体と言う形でモンスターや元プレイヤーのヤルダバオト神官を増やしている源であるミナモツキである。
「となると、ミナモツキ自身に意思はなく、ただ使われているだけの可能性もあるが……さて、その辺の設定はどうだったかな……」
「スィルローゼ様との関係も薄いから、私も流石に覚えていないわねぇ」
「自分もそう言う方面はちょっと」
「クエストをこなすだけなら必要のない話題は語られない事が多いですよねぇ『Full Faith ONLine』」
ミナモツキの裏設定は……流石に誰も把握していないようだった。
これでミナモツキの根本的な力の源がヤルダバオトなら封印間違いなしなのだが、本来の力の源は別にあってヤルダバオトには影響を受けた程度であるならば、使い手が変われば私たちの味方になる可能性も高いと言う事もあり、厄介な問題である。
「後で考察班に聞いておくか」
「そうね。それでいいと思う」
もしくは神託魔法を使い、スィルローゼ様経由で神様たちに尋ねてみるのも手かもしれない。
スィルローゼ様に迷惑をかけるのは心苦しいが、結構重要な問題だから、答えてくれる可能性はあると思う。
「で、後は要救助者が確認された件ね」
「シュピー、だったか」
「ええそうよ。どうにも脅されているみたい」
話はシュピーの件に移る。
「ミラビリスの魔法を使える複製体。にも関わらずヤルダバオトの加護も受けている。でしたか」
「正確にはスィルローゼ様、ミラビリス様、それからヤルダバオトね。他にもあるかもしれないけど……此処までは確定でいいわ。魔法の使用と私の個人的な能力による判別だから、偽証も有り得ないし」
「理解しがたいですね。ヤルダバオトの加護を受けているにも関わらず、他の神から力を授かれるものなのですか?」
ヤマスラさんの疑問はある意味当然の物と言えるだろう。
だが、少し考えれば、この疑問は簡単に解消される。
「信仰の強要、でしょうね。ヤルダバオト自身は個々人の信仰が心の底からのものかなんて気にしていないでしょうし。自分に祈りを捧げるのであれば、人も獣も植物も、それこそ物であっても構わないだろうから、誰かに強制されて捧げられた祈りでも受け取って、加護を授けるのよ」
「ですが、それならば……」
「だからこそ、スィルローゼ様とミラビリス様の魔法を使う能力は残るの。表面上はヤルダバオトへ祈りを捧げていても、心の奥底ではお二人に祈りを捧げているのだから。ミラビリス様がどのような御方かは知らないけれど、スィルローゼ様はこの程度で信徒を見捨てたりはしないわ」
「……。なるほど」
これは実際にヤルダバオトにあった私だから断じられることだが、ヤルダバオトは祈りの内容も状況も考慮しないし、まだ、それだけの思考能力もない。
それ以上に、悪と叛乱と言う司るものの都合上、区別する必要もない。
だから、本当に心の底からヤルダバオトを信仰している神官たちが、他のそうでないプレイヤーたちにヤルダバオト信仰を強要し、祈らせても、ヤルダバオトは加護を授ける。
とにかく祈りと、そこに込められた力さえ手に入ればいいのだから。
「筋は通っているな。それにシュピーと言う少女が本当にスィルローゼとミラビリスの信仰を持っているなら、レベルが低くても精神系状態異常への耐性はかなり高い方だろう。それならば、魅了ではなく脅迫で従わせると言うのも分かる」
「そう言えば、脅迫もファシナティオがよく使っていた手でしたね。従わなければ闇討ち……いや、今のフルムスの状況なら公開処刑ってところですか」
どうやらファシナティオと言うのは人間だった頃からヤルダバオト神官だったと断言していい相手であるらしい。
『満月の巡礼者』の一員として関わった事があるのだろう、ヤマスラさんの表情がそう言っている。
「恐らくな。もしかすると……ああいや、これは止めておくか」
「何かあるの?」
「ちょっとした懸念事項と言うか、可能性がな。まあ、今は考えなくていいだろう」
「そう」
他にも何かあるようだが……ルナがこの場で語らないと言う事は、今は気にしなくても問題の無い話なのだろう。
「とまあ、私からはだいたいこんな感じね。そっちは?村の防衛の様子もそうだけど、可能ならファシナティオが処刑されて死んだ時の前後についても詳しく知りたいわ」
「分かった。どちらも説明しよう」
そうして私からの話は終わり。
次はルナからの話である。
ただ、ルナの表情は……どことなく億劫そうなものになっていた。
05/27誤字訂正