66:グレジハト村戦線-4
本日は二話更新になります。
こちらは一話目になります。
「まったく、複製された時に知能でも落とされたのかしら。幾ら何でもそれはないでしょう」
私が放った炎が収まっていくと共に、その炎の向こうに居たヤルダバオト神官たちの姿が見えてくる。
だが、その姿を見た私は思わずため息を漏らしてしまっていた。
「黙れ化け物……」
「チーターが……」
「ぶっ殺してやる……」
彼らの持っている武器がバラバラなのはいい。
彼らはミナモツキの能力によって生み出されたプレイヤーの複製体であり、どんな武器が得意かはプレイヤーごとに異なるからだ。
だが、その武器に宿っている光がバラバラである事と、彼らの足並みが揃っていない上に勇み足気味なのはいただけない。
「死ねええぇぇ!エオナアアァァ!!」
「ぐちゃぐちゃにしてやらあぁぁ!!」
「俺らの邪魔をするんじゃねえぞおおぉぉ!!」
「はぁ……」
今、この戦場は私が放った『スィルローゼ・ファイア・フロト・イグニ・アハト』の影響で土属性の力が満ちている。
であるならば、私が木属性に偏っていて、金属性に弱い事を考えるまでもなく、五行思想の土生金を利用して金属性の魔法を使うのが正しい。
しかし、彼らにはそれをすると言う考え自体が無いようだった。
複製体である影響なのか、別の要因があるのかは分からないが、これはひどい。
「ま、楽でいいと思っておきましょうか」
「「「!?」」」
まあ、敵が弱いに越したことは無い。
私は手にした鞭を一振るいし、『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』の効果によってそれを操作。
目にも止まらぬ速さで動き回る鞭はヤルダバオト神官たちの間を駆け巡り、致命傷を負わせ、その体を水に変えていく。
「ちくしょう!なんだ!あのふざけた攻撃……はぎゃ!?」
「人間大のレイドボスなんて聞いてね……えじょ!?」
「殺してやる!殺してや……びゃ!?」
私は鞭を振るいつつグレジハト村の方へ視線を向ける。
するとグレジハト村に居る人間たちは壁に取り付いたモンスターたちを始末し終えたのだろう。
少しずつ壁の外に出て、反撃を始めているようだった。
これならば、後は……
「ひっ……へ?」
「むっ……」
その時だった。
確実に複製体の頭と胸を撃って始末するはずだった鞭が、相手の体に当たったにも関わらず効果を発揮しない異常が起きる。
「クハハハハッ!流石ハえおなヨ!我ラガ主ノ警戒モ当然ヨナ!」
それと同時にくぐもった声が響き、強いモンスターの気配が私の方へと近づいてくる。
「我ガ名ハわんおばとー。サア、我トノ決闘ヲ受ケテ貰オウカ」
そこに居たのは身長が3メートル近い上に全身を金属の鎧で覆われた大男。
右手には両刃の大きな剣が握られ、左手ではその巨体を半分以上隠せる大きさを持った金属の盾を持っている。
ワンオバトー、私の記憶が確かなら、フルムス内のとあるクエスト出てくる1対1の戦い……決闘を強要してくるボスモンスター、だったか。
そして、決闘の最中は補助魔法を含めて、外部への干渉も外部からの干渉も受け付けない。
今のように多数対多数の戦いにおいては、様々な面で厄介な能力だと言える。
で、それが何故か……
「タダシカシダ」
「我ラハ三人デ」
「貴様ハ一人ダガナ」
私の前には三人居た。
どうやら、ミナモツキの能力によって自分を複製したらしい。
ヤルダバオトの力によって自分の都合のいいように枷も外しているだろうし、これはもう一対三で戦うほかないだろう。
そして、よく見てみれば、戦場にはもう何人かワンオバトーが居て、それぞれに行動を始めているようで、時間をかければそれだけ被害が増しそうな気配があった。
で、力の大きさからして……私の前に居るワンオバトーの一人は本体と思ってよさそうだ。
「「「死ヌガイイ!!」」」
ワンオバトーたちが三方向から私に向かって迫ってくる。
「ふんっ!」
「せいっ!」
「はあっ!」
「ま、これも好都合ね」
対する私はワンオバトーの攻撃を冷静に回避していく。
避け切れず当たってしまう攻撃も、冷静に槍で防御すればダメージは大して受けない。
そして、隙を見て槍を振るえば、それなりのダメージは与えられる。
こう言うところは所詮、強制一対一の上に適正レベル50以下のボスである。
「何ガ好都合カ!」
「貴様ヲ足止メ出来ルダケデモ!」
「我ラニトッテハ大戦果ヨ!!」
だが、ワンオバトーもそれは分かっているらしい。
どうしてか知性を失っている連中と違って、冷静に立ち回り、私への攻撃を仕掛けつつも防御を忘れていない。
しかしだ。
「『スィルローゼ・ウド・エリア・アルテ=スィル=エタナ=アブソ=バリア・ツェーン』」
「「「ヌオッ!?」」」
ちょうど三人のワンオバトーが固まったタイミングで私はスィルローゼ様の究極封印結界を発動して、その動きを封じ込める。
勿論、これだけでは決闘状態は解除されず、私は他のモンスターたちに攻撃できないままであるし、ワンオバトーたちを普通の魔法で傷つけることも出来なくなったが……
「動ケン!」
「ダガ、攻撃モ出来ナイハズダ!」
「ナラバ……」
「茨と封印の神スィルローゼ様。貴方様が代行者であるエオナが求めます」
「「「アッ……」」」
封印ならば差支えなく出来る。
「悪と叛乱の神ヤルダバオトが眷属、ワンオバトー。彼のものを金剛の茨を以って蒼き薔薇の園へと導く力を。無間に極彩色の薔薇が包み込む牢獄へと繋ぎ止める力を。彼のものを糧にすると共に、永久の安寧と封印を齎す力を我に与え下さいませ」
「「「待テ……!?」」」
「『スィルローゼ・ロズ・コセプト・スィル=スィル=スィル・アウサ=スタンダド』」
と言う訳で私はワンオバトーを封印。
この世から消滅させる。
すると概念ごと封じられたためなのか、ミナモツキの能力による複製体たちも、一斉に消え去る。
「さて、次は……」
「「「ーーー!?」」」
そしてこの瞬間、敵の行動は大きく四つに分かれた。
一つ目のグループの行動は、該当者に知性が無いか低いためだろう、それまでと変わらずに攻撃を続けようとした。
二つ目のグループの行動は、私を特に危険な存在と認識したのだろう、目標を目の前の相手から私に切り替えようとした。
三つ目のグループの行動は、私の力を相手にしてはいけないものだと判断し、この戦場からの離脱を図り始めた。
そして、四つ目のグループの行動は……
「な、何が起きた……」
「なんでワンオバトーが消えて……」
「ど、どうすれば……」
戸惑うと言うモンスターらしからぬ行動を取った。
戸惑って、自分と同じ立場か、自分よりも立場が上である者にどうすればいいかを顔を向けて尋ねようとしていた。
その動きを以って私は断じた。
「見 つ け た」
最も多くのヤルダバオト神官の視線が向いた先に居た一人の小柄な女。
銀髪に赤い目、煽情的と言うよりも下品と言った方が正しいような露出度の高い服装を身に着け、長い杖と水盆のような物を持ったヤルダバオト神官。
あの女こそがこのモンスターの集団の長である、と。
「『スィルローゼ・プラト・ラウド・スィル=ベノム=ソンカペト・アハト』『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』!」
故に私は茨の馬に乗って、その女目掛けての突撃を始めた。