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65:グレジハト村戦線-3

「ふっ、せっ……」

 『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・フュンフ』。

 それはスィルローゼ様の魔法の中でも特に使い手が少ない魔法だ。

 基本的な効果としては、装備品に攻撃を行った時に特殊な追加効果……特殊な薔薇を生じさせるというもので、分類上は付与系の魔法になる。

 この魔法で生じた薔薇は一定時間経過か衝撃が加わる事で破裂して衝撃波を生み、効果を発揮した場所の近くに居たものを吹き飛ばし、怯ませる性質を持っている。


「中々の……」

 と、これだけならば使い手もそれなりに居るのだろうけど。

 問題は……武器の威力への付与ではないため、この魔法だけでは薔薇の衝撃波でしかモンスターにダメージを与えられない点。

 そして、スィルローゼ様の付与魔法にはもっと使いやすく入手しやすい基本五魔法の『スィルローゼ・ウド・エクイプ・エンチャ』と武器を鞭に変える『スィルローゼ・プラト・エクイプ・ベノム=ソンウェプ』がある点。

 加えて、『Full Faith ONLine』では魔法をセットするためのスキルスロットの数にも制限があったし、スィルローゼ様の魔法には他にも優秀な魔法や有効な魔法が数多くあった。

 これらの要素が合わさった結果として、使い手が極めて少なくなっているのである。


「暴れ馬……ね!」

 しかし今、私は『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス』に新たな使い道を見出す事が出来た。

 私は、私の意思に従って全身あらゆる部位が自由自在に動かせる茨の馬の足に短剣を仕込み、その短剣に『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・フュンフ』をかけた。


「でも……」

 そして足の内部で茨を動かして、足の中にある短剣で足元の空気を攻撃。

 すると『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・フュンフ』はその効果を遺憾なく発揮し、茨の馬の足裏部分の空中に薔薇の花が生じる。

 私は即座に茨を動かして、その薔薇の花を踏みつけ、砕く。

 そうする事で薔薇の花は衝撃波を放つという効果を発揮して……


「いけるわ!」

 私の乗る茨の馬の体を足場が無いはずの空中で跳ねさせ、直撃するはずだった金属の塊による地上からの攻撃を回避する。


「見ていてください!スィルローゼ様!!」

 勿論、口で言うほど簡単な方法ではない。

 四本の足を、それぞれ別に、二段階に分けて、素早くけれど正確に操作する必要があるのだから。

 ほんの少し足の方向やタイミングを間違えただけでも、こちらの想定以上に大きく跳ねてしまったり、逆に跳ぶ力が弱まって勢いが削がれるだけになったりと、私の意思通りに動いていてもなお暴れ馬としか言いようがないほどである。

 出力の都合もあって私以外にはまず不可能な方法であるが、それを抜きにしてもまず他人には薦められない方法だ。


「私は……空を……駆けます!!」

 だが、私の意思通りに動いているからこそ、回数を重ねれば重ねるほどに、茨の馬は私の意図したとおりに正確な動作を行い、空を跳ね回り……それはやがて駆け足に変わり……遂には薔薇の花弁を撒き散らしながら空中を走り始める。


「「「ーーーーー!!」」」

「さあ、行きましょうか!!」

 私はアイテム欄から槍……スペアアンローザを取り出す。

 地上からは攻撃だけでなく、様々な種類の声が聞こえ始めている。

 グレジハト村の面々は壁に取り付いているモンスターに対する防御に専念している。

 モンスターたちは……一部は私の攻撃の混乱から立ち直り、一部は逃げ、一部はまだ戸惑っている。


「すぅ……」

 ならばやることは単純。

 私は槍を顔の横にまで持ち上げ、穂先と視線の先が一致するようにする。

 そして、その視線の先に周囲のモンスターたちに指示を出しているヤルダバオト神官を捉える。


「『スィルローゼ・プラト・ワン・ベノム=ソンボル・フュンフ』」

「っ!?」

「「「ーーーーー!?」」」

 私は魔法の詠唱と共に、少しずれた場所へ向けて槍を突き出す。

 すると、槍の穂先から巨大な茨の棘が勢いよく射出され……直撃したヤルダバオト神官の頭を消し飛ばしして、残った体を液体に変える。

 どうやらミナモツキの能力による複製体だったらしい。


「『スィルローゼ・プラト・ワン・ベノム=ソンボル・フュンフ』、『スィルローゼ・プラト・ワン・ベノム=ソンボル・フュンフ』、『スィルローゼ・プラト・ワン・ベノム=ソンボル・フュンフ』。ちっ、流石に難易度が高いわね」

 で、流石に最初の一撃は偶々うまく行っただけであるらしい。

 その後は目標には殆ど攻撃は当たらず、10発程撃ったところで私はこの方法による攻撃を止める。

 まあ、空中を自由自在に跳ね回り、攻撃を避ける馬の上から、偏差射撃による狙撃なんてトンデモな行為だ。

 ラッキーパンチで一回決まっただけでも十分な成果だろう。


「「「ボオオォォ!!」」」

「「「ガアガアッ!!」」」

「「「アアアアァァァァァ!!」」」

「奴を殺せええぇぇ!!」

「と、直接攻撃ね」

 ここで、フクロウに烏、それから幽霊の姿をしたモンスターが私の方へやってくる。

 地上に居る敵の声もはっきりと聞こえるようになってきている。

 どうやら私の居る場所の高さはそこまで下がっていたらしい。

 とは言えだ。


「『スィルローゼ・プラト・エクイプ・ベノム=ソンウェプ・ノイン』」

「「「!?」」」

 所詮は複製体、それも私の最初の攻撃の後に急造したであろう個体である。

 槍が変化した鞭の一振りで、地上の敵も含めてまとめて薙ぎ払い、水に変える。


「こっちも限界か」

 と、ここで私は足の中の短剣が砕けてしまったのを感じる。

 どうやら、色々と無理な運用をしていたせいで、急速に劣化が進んでしまったらしい。


「しょうがない」

「奴が降りてきたぞ!」

「囲んで叩け!」

「所詮は一人だ!!」

 なので私は手近な地面に大した衝撃もなく着地。

 ついでに茨の馬も解体して、本来の姿である茨の領域へと変化させ……


「『スィルローゼ・ファイア・フロト・イグニ・アハト』」

「にっ……」

「まずっ……」

「あっ……」

 私の周囲に居た敵をまとめて焼き払った。

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