63:グレジハト村戦線-1
「それじゃあ、アタシことゲッコーレイちゃんによる『巡礼枢機卿』カミア・ルナ様の歓迎ライブはっじめるよー!」
「「「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」
「「「……」」」
そう、グレジハト村に着いた私たちは確かに歓迎された。
アイドルプレイヤー、ゲッコーレイによるライブと言う思わぬ形でもって。
「それじゃあ、まずは一曲目。旅の疲れを癒す歌『命育む賛歌』、いっきまーす!」
「「「ふうううううううぅぅぅぅぅ!!」」」
呆然とする私たちそっちのけで、ゲッコーレイのキャッチーでポップな感じの歌が始まる。
踊りでサイドテールでまとめられた薄緑色の髪を激しく揺らし、青い目を輝かせながらマイクもなしに周囲一帯に響き渡る声を放ち、自分の歌を歌う。
「ルナ、彼女は?」
「あー、彼女の名前はゲッコーレイ。グレジハト村守備隊の隊長を務めてもらっているプレイヤーで、レベルは60。この世界に飛ばされてくる前から、アイドルプレイヤーとして活動していたプレイヤーだ」
「アイドル……歌と偶像の神だったかしら?」
「それに加えて舞と交友の神も信仰しているし、メインはルナリド様だ」
「なるほど」
ルナの説明と、ステージ上で行われている歌の出来と踊りのキレから、私は彼女……ゲッコーレイが私と同じように我が道を行っているプレイヤーだと理解する。
まず間違いなく彼女はアイドルになるために『Full Faith ONLine』を始め、アイドルになるために二つのサブ信仰を手にしている。
そして、この世界を現実のものとして捉え、自分に出来ることを考え、実践しつつ生きている。
でなければ、今ステージ上で行われているような歌と踊り……ゲーム内で設定されていた歌と踊りから明らかに逸脱しつつも、ゲーム時の効果である回復効果を残す、なんて真似は出来ないだろう。
うん、実に素晴らしい神官だ。
「人柄良好の上にバフデバフ能力は一流。事務や実際の指揮は適当な人材を付ければいいんだし、隊長を務めるには十分な人材ね」
「……。どこで人柄を見ぬいた?」
「え?歌と踊りの出来とステージ周りにいる彼女のファンたちの表情からだけど?魅了とかじゃなくて、心の底から喜んでる。うん、本当に素晴らしい神官ね」
「エオナ様がべた褒めしてる……」
「まあ、私の目は確かだったと思っておくか……」
なお、歌と偶像の神と舞と交友の神の組み合わせは俗にアイドル構成と呼ばれている。
そしてアイドル構成は、それぞれの神の魔法が超広域かつ敵味方を判別して行われるバフデバフであるため、都市間模擬戦争のようなレイドを超える様な数のプレイヤーが動く戦場では一人は欲しいとされる形式でもある。
で、優秀なアイドル構成プレイヤーは、そのまま多くのプレイヤーからの人気を集めるアイドルプレイヤーでもあった。
ゲッコーレイは……ほぼ間違いなくアイドルプレイヤーの中でも特に素晴らしい部類だろう。
「みんなありがとー!それじゃあ今夜も張り切ってグレジハト村を守っていこー!」
「「「おおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」
「「「……」」」
プレイヤーとしての実力以上に、アイドルとして、人々に戦うための力を与えているのだから。
「す、すみません。ルナ様。出迎えが遅れてしまって……」
「来たか。ヤマスラ。ああ、こっちはグレジハト村守備隊副長のヤマスラだ」
「ど、どうも、自分はヤマスラと言います」
と、ここで長身の茶髪の男性が私たちの方に駆け寄ってくる。
うん、この人がゲッコーレイのマネージャーだろう。
なんかもう、雰囲気からして、そんな感じの気配が漂ってくる。
「ヤマスラ、状況は?」
「分かりました。お伝えします。ただ、此処では何ですので、楽屋の方へどうぞ」
「よし、とりあえずグレジハト村が全体的に平和で、貴様が骨の髄までマネージャーになっているのは分かったな」
「……。スタ……ごほん、他のギルドメンバーへの訓示も後でお願いします。皆、喜ぶと思いますので」
「そうだな。お前らが弛んでいるようならそれも考えておくとしよう」
どうやらゲッコーレイの影響は想像以上に大きいらしい。
あるいは元々がそう言う事に免疫のない廃人プレイヤーだったからこそ、此処までの影響になってしまったのかもしれないが。
「以上が、ここ数日のグレジハト村の状況になります」
「なるほど。敵は連日連夜攻めてくるが、対処は特に問題なし。近隣のダンジョンのモンスターにも妙な動きは見られない、か」
「ええ、いっそ不気味なほど平和と言っていいくらいです」
なお、ヤマスラたちはきちんと自分の仕事はこなしているようだった。
どうやら、ゲッコーレイはかなり真面目な性格のようで、自分の仕事をきちんとやらない
うん、やっぱり隊長として適切な人員だった。
「まあ、グレジハト村は元々狩猟を生業の中心としていた村。つまりはNPCたちの戦闘能力が高めの村だったからな。そこにゲッコーレイと戦闘能力に優れたプレイヤーたちの支援が加われば、問題が起きる方がおかしいか」
「そうですね。なので、グレジハト村はもう暫くは大丈夫でしょう。ですから……」
「心配しなくても敵への対抗策は練っている。直に反撃開始だ」
「分かりました。では、その時をお待ちしています」
そうしてルナとヤマスラの話は特に問題なく終わりそうになる。
「いえ、どうやら今日はただでは済まないようよ」
「は?」
「何?」
「へ?」
だがその時だった。
私の感知範囲にヤルダバオト神官が入ってくる。
それも一人や二人ではなく、数十人単位で。
モンスターも含めれば……
『全ての村人とプレイヤーに通達!大量の敵がグレジハト村に近寄ってきてるよ!!全員叩き起こして迎撃準備に入って!!』
千は確実に超えている。