60:情報交換-3
本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
「知っての通り、敵にはミナモツキが居て、プレイヤーだった者たちやモンスターたちを複製、外への攻撃に充てている。そして複製とは無関係に敵はリポップ能力を有している。つまり、一度に出せる戦力に限りはあれど、底は無い状況と言う訳だ」
「まあ、マトモにやり合ったらどうしようもないって事よね」
「そう言う事だな。だから私たちは守りを固めつつ、この状況をどうにかする手が無いか八方手を尽くしていた」
そう言うとルナは幾つかの駒……フルムスから出てきた駒や、味方の駒近くのダンジョンに置かれた駒をぶつけ合う。
どうやらアタシプロウ・ドンが間抜けだったからグレジファム村は平和だったようだが、他の村では既に近場のダンジョンからモンスターが出て来て、近くの村へ攻撃を仕掛け始めていたらしい。
「まあ、連中をどうにかする手段については、今日ようやく見つかった。私が代行者になるかはともかく、これで反撃も可能にはなるだろう。問題はだ……」
とは言え、そちらへの対処は今のところ問題ないらしい。
ルナは手に持っていた駒を置くと、別の駒……特に大きく厳めしい駒を手に取る。
「フルムスを潜入調査していた部隊が、ありがたいが厄介な報告を持ってきた」
そして、その駒を勢いよくフルムスの上に置いた。
「ありがたいが厄介?どういう事?」
「魔骸王メンシオス。覚えているか?」
「っつ!?」
「……」
ルナの出した名前にビッケンは目を大きく開き、私は眉をしかめる。
魔骸王メンシオス、それは『Full Faith ONLine』に無数に存在しているレイドボスの一体、推奨レベルは70から80。
魔蟲王マラシアカよりも格上のレイドボスである。
「どうやら、いつの間にか移動してきていたようでな。フルムスの一角を自分の研究所として改造し、日夜何かしらの研究を続けているそうだ」
「まあ、あのダンジョンの中だと色々と不便そうだし……メンシオスの裏を考えたら、そこまで妙ではないわね……」
魔骸王メンシオスはフルムスから少し離れた場所にある高難易度ダンジョン、月下の墳墓の最深部に居た。
この月下の墳墓は……はっきり言って、かなり面倒なダンジョンである。
なにせ夜間しか出現しない上に、罠が豊富で、マップ構造も複雑、敵の強さも相応の物。
おまけに内部で独立して存在する月齢に応じて、内部構造とダンジョン全体にかかるバフデバフが変化する性質があるのである。
なのでドロップ品は美味しかったが、攻略はそこまで積極的に行われていないダンジョンであり、性質がそのままなら、魔骸王メンシオスがダンジョンを捨ててフルムスにやってくるのも納得する程度には住みづらい環境である。
「裏?」
「あら、知らないの?魔骸王メンシオスは元ルナリド神官。禁忌に触れる研究をしていたことからルナリド信仰を失くし、代わりにヤルダバオト信仰に目覚めた元人間なのよ。で、ヤルダバオト神官となったが故にメンシオスは他の神官たちによって殺されるが、禁忌の術を既に修めていたメンシオスは殺しても殺しても復活する。だからルナリド様を筆頭に、スィルローゼ様を含む複数の神々の力を借りた当時の神官たちによって月下の墳墓に封印された、と言う設定があるのよ。で、この設定があるからこそメンシオスは『スィルローゼ・ウド・エリア・アルテ=スィル=エタナ=アブソ=バリア・アハト』のスキルブックを落とすの」
「「……」」
何故かルナもビッケンも頭を痛そうにしている。
一体どうしたと言うのだろうか?
ちなみに魔骸王メンシオスは他にも強力な魔法の高等級スキルブックを高確率で落とす。
なので、月下の墳墓は積極的に攻略が行われないが、誰もが訪れては辟易とするダンジョン、と言うのが正確な評価となる。
「どうしたの?」
「いや、流石は狂信者だと思ってな……」
「話を戻すぞ。ゲーム時代のメンシオスとの戦闘経験はここに居る三人とも持っているし、メンシオス対策は後で話し合えばいいことだ」
なお、魔骸王メンシオスはその名の通りにアンデッド系のボスである。
そして、ゲーム時代から多種多様な特殊攻撃を持ち、攻防共に隙が少ない万能型であった。
現実となった上に、一月以上経過した今では……間違いなく、推奨レベル90の超高難易度レイドボスに分類するべき相手だろう。
うん、誇張抜きに危険な相手だ。
ダンジョンの面倒さと距離からうっかり忘れていたが、これはちょっと拙い。
「さて、話が前後するが、今のフルムスは入るのは簡単だが、出るのは城壁の上から放たれる無数の攻撃を凌がなければならないと言う状況になっている」
「情報封鎖か?」
「マンハントと言う名の娯楽ね。悪趣味だわ」
「エオナの方が正解だ。連中は自分たちにリポップ能力があることもあって、警戒心の類はまるで持っていない。だから、内部に入ってからの調査も、殺し合いに巻き込まれたり、誘拐や盗難に遭わないように注意する必要はあるが、調査そのものは一部区域を除いて簡単な物となっている」
ルナはそう言うとフルムスの中を細かく記した地図を広げ、そこにメンシオスを示す駒を置き、その周りを赤い線で囲む。
どうやら、この線の中が先程言っていたメンシオスの研究所らしい。
「つまりメンシオスの研究所は警備が厳重な場所、と」
「そうだ。まあ、本人の実力が感知能力含めて桁違いだから、人員は殆ど居ないようだがな」
メンシオスの実力なら確かにそうだろう。
「問題はフルムスの中にもう一か所、異常に警備が厳重なところがあるという点だ」
「もう一か所?」
ルナがメンシオスの物に似た駒を置く。
そして、大きな駒の周囲に大量の小さな駒を置く。
「場所はフルムスを治めていた富裕層が住んでいた地域。治外法権と化しているフルムスの中で此処だけが異常に厳重な警備態勢が敷かれていて、外からの侵入と調査を拒み、無理に侵入したプレイヤーは一人も出られていない。そして、このエリアからミナモツキによる複製体が出て来ている。侵入を試みたプレイヤー含めてな」
「複製の元になる捕虜を捕らえているから……と、考えるには流石に数が異常か。そもそも敵は現状、死ぬことを恐れる必要が無いわけだしな」
「となると、敵は死なないのに死を恐れている存在、外からの攻撃を異常に恐れているもの……うーん、ちょっとプレイヤー臭いわね。私の知る限りだけど、フルムス周辺のボス敵でそう言う行動に出そうなバックボーン持ちが居た記憶はないし」
「詳細は分からない。が、メンシオスの奴が敵対ではなく協力の態勢を取っていることから考えて、相応の化け物が潜んでいる事だけは確かだ」
「なるほど」
ミナモツキ、魔骸王メンシオス、それから正体不明の敵。
これにフルムス周辺のダンジョンに潜んでいる敵たちも加わるのだから……うん、流石にちょっとまずいかもしれない。
「現状、他に危険な敵は確認されていない。が、周囲のダンジョンの敵含めて、状況が逼迫しているのは確かだ」
「ふうん、それでルナはこれからどうするつもりなの?」
私の問いかけにルナは私の方を見る。
「まずは他の村を回って、状況を確認する。その後は……少し考えさせてくれ」
この考えさせてくれには、色々と含まれている。
「だがエオナ、どう転ぶにしても、私には同道して欲しい」
「分かったわ。なら明日からは一緒に行動ね」
「よろしく頼む」
ならば今はまだ決断を迫る時ではないだろう。
だから私は素直にそう頷いた。
05/20誤字訂正