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59:情報交換-2

本日は二話更新です。

こちらは一話目です。

「この魔法は?」

「ルナリド様から授かった好きな魔法のスキルブックの所在確認及び生成が可能な魔法よ。勿論スィルローゼ様、サクルメンテ様、ルナリド様以外の神様の魔法も対象」

「は?なんじゃそりゃ!?完璧にチートだろ。ありかよそんなの!?」

「……」

 私の言葉にルナは口の端を引き攣らせ、ビッケンは大きく口を開けて抗議の声を上げる。

 ルナのお付きの少女は……あ、もう駄目だ、失神してる。


「まあ、生成の際には大量の材料が必要になるし、代行者としての姿も現さないといけない。他にも条件は色々とあるから……ギリギリセーフと言う事にしておいて」

「そうだな。思いっきりアウトだ。非常事態と公式チートだから合法扱いになるだけで」

 私は『ルナリド・サンダ・ミ・オラクル・アハト』『ルナリド・サンダ・ミ・オラクル・ノイン』『ルナリド・サンダ・ミ・オラクル・ツェーン』の使い捨てするタイプのスキルブックを生成するのに必要な材料を確認する。

 確認して……


「うっ……」

「うおっ、どうした?」

「今度は何?」

 軽い目眩を起こした。


「ルナ、ルナリド様は貴方を代行者にしたいと言っていて、そのためにアハト、ノイン、ツェーンのオラクルを生成するように言ってきたのだけど……ちょっと見てみて」

「は?」

「うわぁ……」

 そして二人もドン引きした。

 だがそれも当然のことだろう。


「たった三冊作るのにレベル50からレベル80クラスのボス素材を30個以上要求……」

「これ以上の素材制限が無くてよかったと思うべきなのか、条件がきつすぎて嘆くべきなのか……」

「ルナを代行者にしたいって言うなら、ここは融通を効かせて欲しかったわ……」

 『ルナリド・サンダ・ミ・オラクル・アハト』でも要求素材はレベル50台のレイドボス素材30個、レベル60台のレイドボス素材10個、レベル70台のレイドボス素材が5個必要。

 これ以上の細かい条件はなく、生成するスキルブックに適した素材なら数が少なくなるというボーナスもあるが……それでもかなり厳しい。

 なにせ、レベル70台のレイドボスともなれば、相応の準備と作戦を練って挑まなければ、レベル90の廃人プレイヤー集団であっても返り討ちに会う事があるレベルなのだから。


「でも、『満月の巡礼者』ならこれくらいの素材はあるわよね」

「当然ある。ゲーム時代から貯め込んだものがな。向こうから私を代行者にしたいと言ってきているなら、無駄にもならないだろう。だが……」

「今の状況だと、このレベルのレイドボス素材は貴重品。かぁ……」

「そうなる」

 それでも素材は何とかはなるだろう。

 貴重品を惜しむ人の心と言う最も厄介な障害を考えなければ。

 実際、このレベルのレイドボスの素材ともなれば、使い道は幾らでもある。

 『Full Faith ONLine』の世界であっても明確に効果があると言えるレベルの装備品に、死の一歩手前の状態からでも全回復させてみせる薬、私が知らない活用法だって幾らでもあるだろう。


「そもそもとして、私は元の世界に帰るために戦っている。そこで人間辞めないかと言われても……な」

「まあ、私のように心の底から仕えたいと思っている神様が相手ならともかく、そうでないと悩みどころよねぇ」

 だが、これらの貴重品と引き換えに手に入るのは今の絶望的な状況をひっくり返せる特別な魔法。

 その価値はレイドボス素材の無数の活用先よりも上だろう。

 そして、だからこそ悩ましい。

 人を辞めてでも手に入れるべきか、否か、と。


「とりあえず今は止しておきましょう。これは重大な問題だから。悩むのなら今はこれ以上進めずに止めておいた方がいいわ」

 私は『オル・オル・レコード・リド=ライ=スキルブク=エンサイクロペディア・アウサ=スタンダド』を解除。

 半透明の画面を消し去る。


「ただ、私一人では対処できる敵の数に限りがある。そしてツェーンのオラクルが使えるだけでは代行者になれるとは限らない。この点についてははっきりと言っておくわ」

「はぁ……。ある意味ではこれも上に立つ者の責務なのかもしれないな」

 ルナは……悩んでいる。

 彼女は『満月の巡礼者』のギルマス。

 そして、その在り方はカリスマや武勇、人柄と言ったもので上に立つ形ではなく、どちらかと言えば智謀によって上に立つものである。

 つまり、この状況における最善手を彼女は理解出来てしまっているのである。


「で、今更であるけれど、ルナはどうしてグレジファム村に?」

 まあ、この話題についてはルナにも考える時間が必要だから、今は置いておくとしよう。


「ああ、そう言えば、その辺りの説明をする暇もなく、代行者の件に移っていたな。分かった、説明しよう。ビッケン、お前にも関係がある事だから、聞いてくれ」

「分かりました。ギルマス」

 ルナはそう言うと、昨日ビッケンが私に周囲の状況を教えるために使った地図の上に、昨日と同じように駒を置いていく。


「ビッケンから、先日までのフルムス周辺の状況は聞いているな?」

「ええ、聞いているわ。だからこそ今日は羊食いの森へ行ってきたわけだし」

 だが、駒の数は昨日の説明の時よりも明らかに多かった。

 味方を表す駒ではなく、敵を表す駒の数が増えるという形で。

 しかしそれは、敵が増えたからではなく、敵の位置が判明したからこそだろう。

 その証拠に私が封印した羊食いの森のアタシプロウ・ドンを表す駒は他の駒と違い、横倒しにされている。


「よろしい。では、最新の現状を説明するとしよう」

 そうしてルナによる現状の説明が始まった。

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