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58:情報交換-1

本日は二話更新です。

こちらは二話目になります。

「とまあ、こんなところです。ギルマス」

 私、ビッケン、そしてカミア・ルナ……ルナ、それからルナのお供である少女の四人はビッケンの部屋に移動。

 そしてビッケンは私がグレジファム村に来た日から、羊食いの森であった出来事までを包み隠さずルナに話した。


「なるほどな。モンスターの恒常的な封印とエリアの正常化か。完全にプレイヤーが……いや、人間が持っていてはいけない魔法だな」

 で、ビッケンの話を聞いたルナは私に鋭い視線を向けてくる。

 その目は完全に人を見る物ではなく、モンスターの類を見る物になっている。

 だからこそ私も……


「ええそうね。だから、私がそう言う魔法の所有者である事と、既に人でない事は安易には広めないでほしいわ。理由はルナほどのプレイヤーなら分かるでしょう?」

 隠蔽スイッチを解除。

 代行者としての姿を表し、周囲に実体を有する薔薇の花弁を出現させ、薔薇の匂いを撒く。

 それだけでルナのお供である少女は軽く放心するが……ルナとビッケンには影響が無いようである。

 まあ、この少女は私たち三人よりレベルが低いし、スィルローゼ様への信仰も持っているようだから、代行者である私の力の影響を受けやすいのは仕方がないだろう。


「理由は分かる。が、どうすればそんな能力を得られるのか、いや、得てしまうのか。その点について教えてもらわなければ、広めない約束は出来ないな」

「まあ、それぐらいの交換条件は当然と言えば当然よね……。いいわ、それぐらいなら教えてあげる」

 私は三人に信仰値がゲーム的な意味で十分にあるプレイヤーがオラクルのツェーンを使う事で本物の神様に会える状態になっていること。

 そして会った際に神様の側が望むのであれば、この状況……敵がリポップし続けるのを打開するための魔法を授かる事が出来ることを伝える。

 同時に、そうして授かった魔法を使用することによって信仰値の上限が『Full Faith ONLine』の時の上限である255を超えられるようになって、準神性存在と言う名のモンスターになってしまう事も。


「なるほど。そうなると新しい魔法を得られるプレイヤーはかなり限られるな。貴様ほどの狂信者である必要は無いだろうが……殆どのプレイヤーにとって『フィーデイ』の神々はゲーム中の存在でしかなく、私たちの目的を考えたら人間を止めるほどの信仰など持てないし、持つわけにいかない」

「まあ、そう言う反応になるわよね」

 そうして一通り話した結果、ルナは大きくため息を吐く。

 おまけにその表情は非常に悩まし気な物である。


「そもそも、オラクルのツェーン(10)の保有者など、ゲーム全体で見ても100人居るかどうかだろう。あんな趣味魔法の極致のような魔法に時間を割くプレイヤーなど、戦闘能力や生産能力に優れた廃人層になればなるほど居なくなる」

「そっちについても、否定は出来ないわねぇ……スィルローゼ様のオラクルのツェーンとか、私以外に持っている人を見たことが無いし」

 だがそれも当然のことだろう。

 『Full Faith ONLine』ではオラクルの魔法の使い道はイベントの進行上必要になる場合しかなく、その場合でも基本的にはドライ()くらいあれば十分なのだから。

 フュンフ()ですら、持っていないプレイヤーが大半を占めるだろう。

 ちなみに、私がツェーンを取得した理由としては……ツェーンになればスィルローゼ様の姿を直接見れる上に、ある程度の雑談や相談にも応じてもらえるようになるからである。

 これで取得を目指すなと言う方が無理だ。

 と言うか、取らないなんて考えは浮かびもしなかった。

 なお、スィルローゼ様の迷惑になるかもと思って、取得後の使用頻度は月一回程に抑えていて、それは今も変えるつもりはない部分である。


「で、そう言うルナのオラクルの等級は?」

 私は隠蔽スイッチをオンにして、人間の姿に戻る。

 で、なっている間に散って、今も床の上に残っている薔薇の花弁については回収しておく。

 きちんとした加工を施せば、結構いい回復薬になるのだから、サクルメンテ様の悪行の件を抜きにしても、残しておく理由などない。


ズィーベン()だ」

「結構高いじゃない」

「他の魔法のついでついでで集めていった結果だ。それと、今の状況で求められているのはツェーンのみ。ズィーベンじゃあってもなくても同じだ。はぁ、此処に来て、アイツが事故死したのが致命的に痛くなってきたか……」

「あー……おまけにアレですよね。ギルマス。ルナリドのオラクルのアハト、ノイン、ツェーンのスキルブック入手って……」

「ああそうだ。私も詳しいことは覚えていないが、レイドボス、ワンダリング、雑魚でも極悪ドロップの部類。とてもじゃないが、今の状況で拾いに行ける様な代物じゃない」

 実際、オラクルのツェーンの取得……と言うか、フュンフ以降の魔法のスキルブックは、どれも手に入れるのがフュンフまでの物に比べて格段に難しい。

 中にはマラシアカ以上の強さを持つレイドボスが1%以下の確率で落とす、極稀(0.1%)に出現するレアモンスターが極稀(0.1%)に落とす、なんて物まであるくらいである。

 そんなゲーム時代でも苦行呼ばわりされることがあったものを現実でもこなせと言うのは……流石に無理があるだろう。


「だがエオナ。どうせお前の事だ。何かしらの抜け道を持っているんだろう?」

「あら?どうしてそう思うの?」

「貴様がビッケンの前で使ったのはスィルローゼとサクルメンテの物。そして貴様は両神の神官でもあるがルナリドの神官でもある。となれば、ルナリド様からも何かしら授かったと考えるべきだ。そして私が知る陰と黄泉の神ルナリドと言うものは……こういう状況で一人の人間に世界の命運を託すような真似はしない」

『うーん、流石によく分かってるね。彼女』

 ルナが断言すると同時に私の耳にルナリド様の声が聞こえてくる。


『まあ、そうでなければ、今のクレセートでプレイヤーたちをまとめる事なんて出来やしないか。うん、彼女なら良さそうだ。僕と代行者の関係はギブアンドテイクの方が都合がいい。と言う訳で、エオナ、8、9、10の生成をしてくれ。最後の交渉はこっちでどうにかするから』

「どうしたの?」

「いえ、無茶ぶりの電波を受信しただけよ……」

 どうやらルナリド様はルナが自分の代行者に相応しいと判断したらしい。


「そうね。とりあえず私の持っている抜け道を見せましょうか。『オル・オル・レコード・リド=ライ=スキルブク=エンサイクロペディア・アウサ=スタンダド』」

 だから私はルナリド様の指示に従って『オル・オル・レコード・リド=ライ=スキルブク=エンサイクロペディア・アウサ=スタンダド』を発動。

 私の周囲に無数の半透明の画面を出現させた。

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