50:グレジファム村にて-7
本日は二話更新です。
こちらは一話目になります。
「まず初めにだ。現在、クレセートに居るプレイヤーはその半分以上が『満月の巡礼者』に所属。メンバーの総数は1万人近い」
「それだけ聞くと多いように思えるけど……大半は非戦闘員でしょうね」
「まあな。殆どは生産専門だ。それでも大半のメンバーは自分に出来る事をやっているし、俺もそれでいいと思ってる」
「そうね。死を恐れつつも戦える人間なんて少数派に決まっているんだし、それでいいと思うわ」
まずビッケンが教えてくれたのはクレセートの状況。
どうやら今のクレセートは『満月の巡礼者』と言う私も知っているルナリド様系のギルドを中心にプレイヤーが集まっている状態であるらしい。
で、中小のギルドの大半は『満月の巡礼者』に吸収され、他の大手ギルドは残ってはいるものの、同盟あるいは実質的な傘下となっているらしい。
「死を恐れずにじゃないのか」
「ゲーム時代ならそれでいいけれど、現実なら死を恐れない戦士はあまり良くないわ。貴重な戦力の無駄遣いに繋がるもの」
「……。それもそうか」
まあ、これについては仕方がないだろう。
下手なギルドに呑み込まれたら碌でもない状況に巻き込まれることになるし、『悪神の宣戦』時にクレセートにギルド中枢部やギルマスが不在だったギルドも多い、それに……一ヶ月もあればギルドが壊滅して、生き残りが命からがらクレセートに辿り着く、なんて展開は腐るほど起きているだろう。
「えーと、話を戻すが、そうして『満月の巡礼者』はクレセート最大のギルドになった。そして、クレセート最大のギルドになったからこそ、クレセートの議会やら、ルナリド神殿やらとの付き合いが必須になってな。ギルマスは巡礼枢機卿って役職に就くことになった」
「なったというか、させられたってところでしょ。あの子の性格からして、そう言う重っ苦しい役職は嫌がるでしょうし」
「まあな。だが、他の連中だけにクレセートとルナリド神殿上層部とのやり取りを任せるわけにもいかなかった」
ビッケンの顔は苦々しい。
どうやら、他のギルドに上層部とのやり取りを任せるのは本当に良くないと思っているらしい。
「で、ギルマスが巡礼枢機卿……要するにプレイヤーたちの顔になったから、フルムスの攻略と言うか奪還を命令されたと言うのが現状かしら?」
「大正解だ。まあ、フルムスを敵の手に落ちたままにしておくのが良くないってのは分かるし、生きながらに死んでいるような奴らはともかく、きちんと生産活動に従事している連中の事を考えると、戦える人間も自分にやれる事はやらないといけないって事だな」
「ふうん……」
そして、流石と言うべきかなんと言うべきか、クレセートを運営している人間たちとルナリド様に仕えている神殿連中の中でも上層部と言われる人たちは一筋縄ではいかないらしい。
なにせ、今の世界の状況でフルムスを奪還しろと言うのは……実質、不可能だからだ。
「なんと言うか、そっちはそっちで大変なのねぇ……」
「まあな。ようやく選別と最低限の訓練が終わったと思ったら、クリア不可能な強制クエストだ。つくづく現実はクソゲーなんだと思わせられるよ。それでも俺はかなり恵まれた方だとは思うけどな」
何故不可能なのかは言うまでもない。
敵は無限にリポップするし、成長もしてくるのだから。
完全に詰ませるための手立てが見つからなければ、どうしようもない。
「まあ、そんなわけでだ。今はフルムスから周辺の村々を襲うために出てきたモンスターたちを撃退しつつ、どうやって対処すればいいかをプレイヤーの中でも頭のいい連中で話し合っている最中だな」
ビッケンがフルムス周辺の地図を広げ、そこに複数種類の駒を置いていく。
どうやら、何処に本陣があって、何処に防衛部隊が配置されているかを示した地図であるらしい。
「話し合いは長引きそうなのかしら?」
「まあな。魅了効果のように現実になって細かい仕様が変わった魔法もあって、中々進まないらしい。そうでなくとも恒久的に敵を封じ込める手段となると……色々と厳しくてな」
で、地図によれば、プレイヤー側の本陣はフルムスとクレセートの間のフルムス寄りの部分。
フルムス周辺にはグレジファム村含めて5つほどの村があるのだが、そのいずれにもビッケンたちのような守備隊が置かれているらしい。
そして、村々を回ると同時に、その経路の安全を確保している部隊も三つほどある、と。
「敵の戦力は?」
「大部分はフルムス周辺及びフルムス内で出現したモンスターたちだ。だが一部は……エオナももう見たと思うが、ヤルダバオト神官になったプレイヤーとその複製体だ」
「ミナモツキについては?」
「フルムス内部の何処かに居るってのは確実であるらしい。だがそれ以上は不明だ。それと、敵の幹部級と言うべきか、戦略上厄介な存在が他にも居るんじゃないかとは思われているみたいだな」
「なるほど……」
対する敵の戦力は大部分が未知数。
居るのが確定しているのは、フルムス内部で受けられたクエスト専用のモンスター、任意の対象を複製、操作して、こちらに攻撃を仕掛けてくるミナモツキのみ、と。
「内部の調査は行っているのよね?」
「そりゃあな。だが俺は立場上詳しいことは知らない。知っているのは、中では窃盗、傷害、殺人、姦淫、その他諸々、あらゆる悪徳が所構わず行われている堕落都市になっている、くらいなものだ」
「ふうん……」
内部の状況はシヨンが言っていた以上に悪くなっている。
この分では、フルムス内部にはもうマトモなプレイヤーは居ないのではなかろうか。
「さて、俺から出せる情報はこれくらいだが……エオナ、お前は何か思いついたか?」
「そうねぇ……」
私は改めて地図を見る。
ゲーム時代の情報と現状をすり合わせていき、違和感を覚えた箇所は無視せず、与えられた情報は精査し、この状況でまず何をするべきかを考えていく。
「とりあえずボスを一体潰した方がいいかもしれないわね」
「は?」
そして私はグレジファム村近くの森を指差した。