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39:荒れた家

本日は二話更新になります。

こちらは一話目です。

「家の中の物がだいぶ無くなっているわね」

 私の家の中はだいぶ荒らされていた。

 ただ、物取りが入った荒れ方ではなく、薬や装備品を見つけて、慌ててそれを持ち出したために荒れたと言う形だが。


「悪い。このままじゃジリ貧だと思って、勝手に使わせてもらった。責任は……」

「あ、その……」

 ジャックが私に向けて頭を下げ、シヨンもそれに続く形で頭を下げる。


「取らなくていいわよ。むしろ、私が謝らないといけない場面ね」

 だが、この場で頭を下げるべきはむしろ私である。

 と言うのもだ。


「二人ともありがとう。ロズヴァレ村を守ってくれて。そして、ごめんなさい。緊急時に私の家の物を使っても構わないと言う許可を出し忘れていて。スィルローゼ様が対応してくれたから助かったけど……もっと状況が悪化していた可能性もあったわ」

「へ?」

「と言うと?」

 考えと打つ手が足りなかったのは私の方なのだから。


「そうね。そう言えば言っていなかったわ」

 そして私は二人に話す。

 この家を取り巻いている守護茨の性質……家に被害を与えようとする者に対して鋭い棘での反撃を行う能力を持っている事を。


「「……」」

 で、この話を聞いた二人は……青ざめていた。

 まあ、当然と言えば当然だろう。

 下手をしたら、薬を取りに行った人間たちが守護茨によって死に、薬が無かったために村の被害が大きく増していた可能性もあるのだから。


「で、でもそんなことは無かったって……」

「あ、ああ、無事に薬も武器も持ち出せて、武器と使わなかった薬を戻すことも出来たぞ。だから……」

「ええ、そうね。だからスィルローゼ様が手を打ってくれたと言っているの。守護茨はスィルローゼ様の眷属でもある。家の主である私以外に守護茨に命じられるとしたら、スィルローゼ様と茨様くらいね」

 しかし、そうはならなかった。

 他ならぬスィルローゼ様のおかげで。


「スィ……スィルローゼ様ありがとうございます」

「本当にありがとうございます……おかげで助かりました……」

「そうね。スィルローゼ様。心からの感謝を」

 私たち三人は揃ってスィルローゼ様に感謝の祈りを捧げる。

 村を救う手助けをしてくれた事に対して、感謝の念を捧げる。

 そして、スィルローゼ様がジャックに対して加護を授けてくれたことについても感謝の思いを捧げる。


「それでえーと……こうして無事に帰ってこれたって事はマラシアカはリポップできないように倒したんだよな?」

 そうして祈りを捧げ終わったところで、話は私とマラシアカの戦いについてに移る。

 正直なところ、また徹夜状態なので、そろそろ眠らないと精神的につらいのだが、最低限伝えるべき事は伝えるべきだろう。


「ええそうね。マラシアカは完全に封印した。枯れ茨の谷自体もモンスターが谷の外に出てこないようにしたから、これでもうロズヴァレ村は大丈夫よ」

「そうか……」

「よかった……」

 二人の顔に安堵の色が浮かぶ。


「しかし、完全な封印って事は……」

「恒久的な封印って事ね。少なくとも私が生きている限りはもうマラシアカは現れない。カミキリ城と枯れ茨の谷のボスと言う概念ごと封じているから、マイナーチェンジとか作り直しとかをしても出現はさせられないわ」

「凄いな……リポップどころか次の手も許さないって事か……」

「ゲーム時代だったらチート間違いなしですね……」

 シヨンの言うとおり、『スィルローゼ・ロズ・コセプト・スィル=スィル=スィル・アウサ=スタンダド』と『サクルメンテ・チェジ・ルール・リーン=メンテ=キプ・アウサ=スタンダド』は『Full Faith ONLine』ならチート判定あるいはゲームには存在しなかったNPC専用魔法のどちらかだろう。

 そもそも等級部分に使われているアウサ=スタンダドと言うのは規格外とか番外とかって意味だし。


「まあ、スィルローゼ様、サクルメンテ様が直々に授けてくださった魔法だもの。相応の副作用もあるけど、それ以上の強さを持っているのは当然だわ」

「ん?ルナリド様はどうしたんだ?」

「ルナリド様から授かった魔法はまた別物なの。使うなら明日以降になるわ」

「なるほど」

 なお、ルナリド様から授かった魔法は……ある意味ではスィルローゼ様とサクルメンテ様が授けてくださった魔法すらも鼻で笑えてしまえるような魔法である。

 それにしても……


「あー、流石に眠くなってきたわ……」

「うおっ!?」

「ば、薔薇の花が……」

 流石に眠くなってきた。

 隠蔽スイッチが微妙に緩んで周囲に薔薇の花が舞い始めると共に、薔薇の香りが立ち込めて来ているが、それ以上に瞼が重くなってきている。


「御使いモードか?」

「いや、あの、よく見たらエオナさんの頭や服についている花、これ本物に……」

 ジャックとシヨンの二人ならまあ、妙なことはしないし、口も堅いだろうから、このまま眠って……


「なあ、もしかしなくてもマラシアカを封印する魔法の副作用って……」

「たぶん、こう言う事なんだと思います……」

 しまおう。


「エオナさんはもう人間じゃなくて、スィルローゼ様の力で変化したモンスターなんだと思います」

なお、スィルローゼ様はスィルローゼ様で、エオナに対して平謝りの念を送っている模様

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