25:これからするべき事-1
「エオナさん!大丈夫ですか!?」
私はヤルダバオトによって『フィーデイ』に引き摺り戻された。
そして二度も外部との通信を試みたからだろう、今の私にはヤルダバオトの注意が向いているらしい。
この注意が逸れるのは……一日前後と言うところか、ならばそれまでは今回授かった新たな魔法は使うべきではないだろう。
「やれやれ、いきなり大量の白い光が出て来て、いったい何かと思ったぞ」
周囲の状況の変化としては……『スィルローゼ・サンダ・ミ・オラクル・ツェーン』のために私が張った結界の類がまとめて消滅している。
バフも自動復活と自動回復以外は軒並み飛んでしまっていて、『スィルローゼの
もしかしたら主観時間の引き延ばしとやらの影響なのかもしれない。
「エオナさん?」
「エオナ?」
さて、精神面と言うか、論理面と言うか、そう言った方面では私はこの通り、至極冷静な状態を保つことに成功している。
が、肉体の面はスィルローゼ様に直接お会いし、お言葉をかけていただくと言う名誉に耐え切れなかったようだ。
「ーーーーーーーー!!」
「「!?」」
鼻血が噴水のように出た。
「か、回復魔法ううぅぅぅ!!」
「『ソイクト・アス・ワン・ヒル・フュンフ』!!」
いやでも、こればかりは仕方がないと思う。
だってスィルローゼ様だもの。
会いたくて会いたくて会いたくて仕方がなかった相手だもの。
それに会えたどころか名前を呼んでもらって、心配してもらえて、おまけに私だけの魔法を授けてもらえたんだよ?
これで興奮しない信徒が居るだろうか?いや、居ない。
「ふふふ、薔薇の花畑が見えるー」
「ジャックさんも回復魔法を!!」
「引退前は火力役だったから大して育ってねえぞ!『シビメタ・スチル・ワン・ヒル・ツヴァイ』!」
ああ、綺麗な薔薇が咲き誇る花畑が見える……が、今はまだそちらに行くわけにはいかない。
私には『フィーデイ』でやるべき使命があるからだ。
シヨンとジャックのおかげで支障なく戻れるようだし、戻らなければ。
「いやー、助かったわ」
「無事で……なによりです……」
「MPが……からっけつだ……」
そんなわけで私は無事に復帰し、祠と茨様の掃除を終えると、二人を連れて家の中に戻る。
「で、エオナ。何かしらの情報は得られたのか?」
「ええ、色々と得られたわ。打開策含めてね」
「本当ですか!?」
そして、二人に話す。
ルナリド様、サクルメンテ様、そしてスィルローゼ様が語った事のほぼ全てを。
そうして私の話を無事に聞いた二人は……
「「……」」
色々と考えこむような姿を見せる。
「エオナが聞いた通り、感じた通りなら、『Full Faith ONLine』と言うゲームは元々本物の神様たちが運営していたゲーム、って事になるな。感情や常識の面だと信じがたいが……論理的には信じる他ないか」
「そう……なりますよね。なんでゲームを作ったのだとか、架空の存在だったはずのヤルダバオトが本物になってしまったのかとか、色々と気になる事はありますけど」
やがて二人は口を開く。
どうやらそれぞれの考えがまとまったらしい。
「ま、その辺については気にしなくてもいいわよ。現状からすれば大した問題じゃない。問題は、ヤルダバオトがある程度は弱くならなければプレイヤーが元の世界に帰る事は出来ない、この点の方よ」
では、話を進めるとしよう。
「そうだな。しかし、どうして神様たちが勝てないんだ?神様たちのが圧倒的多数の上に、ヤルダバオトは元作りものだろう?普通に考えたら神様たちの圧勝だろう」
「ルナリド様は相性と言っていたわね。もしかしたらヤルダバオトがただの悪神から悪と叛乱の神になった影響が想像以上に大きいのかも」
「叛乱と言うと……下の存在が上の存在に背いて、暴動と言うか軍事行動と言うか、そう言うのを起こす感じですよね」
「そうなるわね」
「ああなるほど、なら厄介なのも納得だ。ヤルダバオトにとって神様たちは自身の創造主、つまりは上だ。今はそれに背いて行動を起こしているんだから……力が跳ね上がっているのかもな。神様たちが迂闊に手を出せないほどに」
「神様たちも得意分野の魔法は他の魔法より明らかに強いものね。確かに納得だわ」
私は『Full Faith ONLine』で使ったり見たりしてきた魔法を思い出す。
基本五魔法なんて分類があるように『Full Faith ONLine』では同様の結果を残せる魔法と言うのが複数の神様の間で存在していた。
だが、何事にも得意不得意と言うものがある。
例えば、陽と生命の神サンライと火と破壊の神バンデス、この両者の力を借りる魔法の中には当然回復魔法が存在している。
しかし、この両者の回復魔法では、同じ等級、同じ信仰値で扱ってもサンライ様の回復魔法の方が明らかに強かった。
同様の事例は多くの魔法でも存在していて、だいたいは名前の前にある、何とかと何とかの神、と言う部分の何とかに関わる魔法が得意分野として特に力を発揮できるものになっている。
では、悪と叛乱の神ヤルダバオトの場合は?
「悪事と反逆行為で強くなる……そう考えると本当に脅威ですね」
「まったくね」
「だな」
当然、悪事、悪徳、悪行と言った行為に加えて、下位の者が上位の者に反旗を翻す叛乱と言う行為が得意分野だろう。
つまり、世界を作った神様たちへの叛乱とそれに伴う各種行動すべてが得意分野となる。
うん、私たち人間を相手にするのでなければ、殆ど何でもありと言っていいだろう。
「でも、ヤルダバオトの力の削ぎ方は分かっているわ」
だからこそ打てる手もある。
「モンスターたちか」
「ええ、彼らはヤルダバオトの信徒でもある。故に彼らをリポップさせずに倒せればそれだけで力を削げる。いえ、リポップされたとしても、倒すたびに少しずつ力は削げる」
「ある意味ではゲーム通りの展開ですね」
「だな。少し懐かしくもある」
「そうね。だから結局プレイヤーがやるべきことに変わりはないのよ。各地でモンスターを倒し、困っている人を助ける。そんな神官としてあるべき姿を取ることが帰るためには一番の近道になるって事ね」
ヤルダバオトが悪によって力を増すのであるならばだ。
私たちは善を以てヤルダバオトの力を削げばいい。
そしてそれはシヨンの言うとおり、『Full Faith ONLine』の時からプレイヤーの役割であった。