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23:スィルローゼ・サンダ・ミ・オラクル・エルフ

「『サクルメンテ・ウォタ・ミ=ハド・ドリンク・フュンフ』」

 風呂場に入った私は手の内から大量の水を生み出すと、その水を使って全身を洗い流す。

 何故、こんな事をするのか。

 その理由は決まっている。


「ふぅ、すっきりしたわね」

 これから私がやることは絶対に失敗が許されない事。

 そして普段通りにやったのでは成功せず、万策尽くしてもなお成功するとは限らない行為である。

 ならば、やれるだけのことはやるべき。

 精神の疲労は無くしておくべきだし、心身の穢れは払っておくのが正解と言うものだ。


「さて、これを着るのも久しぶりね」

 だから身に着ける物にも気を遣う。

 予め薔薇の香を焚いておく事で薔薇の香りを付けた衣装を、魔法も利用して身に着けていく。

 そうして準備が終わったところで私は家の外に出る。


「おおっ、エオナ様……」

「なんとお美しい……」

「正にスィルローゼ様の御使いだ……」

「これはまた凄い物が出てきたっすねぇ」

 すっかり日が暮れた家の外には村長にシヤドー神官、シー・マコトリスと、村中の人間が集まっているようだった。

 どうやら、何処からかこれから私がやろうとしている事の話が漏れて、集まって来てしまったらしい。


「皆さん、申し訳ありませんが、此処から先はあまり他の方に見せられるものではないのです。ですので、それぞれの家に戻ってくださいね」

「そうなのですか」

「分かりました」

「仰せのままに、エオナ様」

「ん、分かったっす」

 別に周りに誰が居ても問題は無いだろうが、何が起こるか分からないし、周囲に居る人間は最低限の方がいいだろう。

 と言う訳で、私は村人たちを家に帰していく。


「本当に凄い服が出てきたな……なんだそりゃあ」

「スィルローゼ式神官制服を基にした服よ」

「和服……に、近いんですかね?」

「そうね。着物に近い面もあるわ。正確には和洋混合だけど」

 そうして後に残るのはジャックとシヨンの二人だけになる。

 さて、私が今着ている衣装だが、スィルローゼ式神官制服を基にカスタマイズを色々と重ねた服である。

 見た目の特徴としては地面に引き摺るような長さの裾や袖、開かれた胸元、薔薇と茨をモチーフにしたベール、背中部分に刻まれたスィルローゼ様の文様、この辺りが特に目立つだろうか。


「で、俺でも分かる程度にはヤバい気配が漂っているんだが……何を使っているんだ?」

「材料は……基本的な生地は私の家を囲っている守護茨から取った繊維を元にした糸。紐や刺繍糸は青龍のひげ。ボタンのように固い部分は玄武の甲羅。宝石は魔百合王リリアセアの蒼玉。少ないけど金属部分はミスリル。他にも付与や染色に色々と使われているわね。流石に全ての素材を自分で集めたわけじゃないから、細かい部分までは分からないわ」

「なるほど。とりあえず、桁違いにヤバい代物だってのは分かった」

 ジャックの質問に答える私の言葉に、ジャックは顔を引き締めるが、シヨンは明らかに頬を引きつらせている。


「まあ、見ての通り、スィルローゼ様の魔法を使う事だけを考えて作られた服だから、こんな状況でなければ着ることは無いわね」

「そりゃあそうだろ。その服装で飛んだり跳ねたりするのは無理がある」

「そう言う事ね。私の普段の戦闘スタイルとは噛み合わないのよ」

 どうやら現役組であったシヨンにはこの衣装に使われている素材の名称に具体的な心当たりがあったらしい。

 まあ、魔百合王リリアセアは魔蟲王マラシアカと同格のレイドボスだし、青龍と玄武は四神と呼ばれる強力なモンスター……いや、準神性存在である。

 ミスリルと守護茨だってそう簡単に加工できる素材ではないし、私が把握していない部分まで素材を遡ったら、もっと目が飛ぶような何かがあっても別におかしくは無い。

 そう考えたらシヨンの反応は妥当である。


「でも、今回はこれが正解。私の手持ちの衣装でスィルローゼ様の魔法の効果を高める補正が一番大きいのはこれだもの」

「なるほどな。で、夜なのはいいのか?」

「問題ないわ。私はルナリド神官でもあるから。むしろ夜の方が都合がいいくらい」

「そして、場所も当然のように祠の前、と」

「当然でしょう。でないと成功の目なんて絶対に出ないわ」

 私はシヨンの事を無視して、スィルローゼ様の祠の方へと歩いていく。

 夜の帳に包まれたスィルローゼ様の祠は静まり返っていて、茨様も普段と全く変わらない状態になっている。


「さて、場を整えていきましょうか。『スィルローゼ・ウド・ミ・ブスタ・ツェーン』」

 祠の前に着いた私はスィルローゼ様と茨様に一礼をした後、幾つもの魔法を詠唱し、発動していく。


「こうして見るとエオナって本当に凄いんだな……」

「凄いと言うより廃人の域だと思います。それ以上にあの衣装の格にエオナさん自身が全く引けを取っていないと言うのも凄い話ですけど」

「そんなにヤバい衣装なのか、あれ」

「普通にトップの方々が使っているような装備です。たぶん、アレ一つでエオナさんの家くらいなら余裕で建ちます」

「そのレベルか……」

 自分の周囲に茨を敷き詰め、結界を強化し、円形のもの全てを強化し、月の光によるステータス増幅を高めていく。

 そうして、私にとって適切な場が出来上がったところで、アイテム欄から『スィルローゼの神憑(トランス)香水(パフューム)』を取り出す。

 だが、『スィルローゼの神憑香水』を使う前にもう一つ出来る準備がある。


「隠蔽スイッチオフ」

「エオナ!?」

「凄い……」

 私は自分の内にある隠蔽スイッチをオフにし、御使いモードに入る。

 ただそれだけで私の周囲は薔薇の香気で満たされ、茨たちは薔薇の花を咲かせ、絶え間なく薔薇の花弁が舞い上がり、降り注ぐようになる。

 そして、この身に注がれるスィルローゼ様の力が増大する快楽は……


「くううううぅぅぅぅぅ……ふうううううううぅぅぅぅ……」

 無理やりに抑え込む。

 これからスィルローゼ様の御言葉を聞くと言うのに、この程度の快楽で痴態を晒すなどあってはならない事だからであるし、失礼極まりないからである。


「さあ、始めましょうか」

「はい、エオナ様……」

「シヨン!?お前魅了入ってるぞ!?」

 祠の前で跪いた私は『スィルローゼの神憑香水』の封を切ると、その中身を自分へふりかける。

 するとゲームのころと同じように私はトランス状態へと移行。

 スィルローゼ様の御力を借りる魔法の等級が一段階上昇する。


「茨と封印の神スィルローゼ様。不遜な申し出である事を承知の上で、我が身に宿る全てを以って求めます。どうか偉大なる貴方様のお言葉を卑小なる我が身へとお聞かせくださいませ。新芽もたらす稲妻が如き御言葉を下してくださいませ。道見えぬ私に道を示してくださいませ……」

 加えて、『Full Faith ONLine』の時は隠し要素として、フレーバーテキストのように記されていた補助詠唱も取り入れて、魔法の効果を高めていく。


「……『スィルローゼ・サンダ・ミ・オラクル・ツェーン』」

 そうして通常では辿り着けない領域であるエルフ(11)の領域の魔法が発動。


「こいつは……!?」

「ああ、こんなにも神秘的な光景が……」

 私の視界は白色の閃光で埋め尽くされた。

04/20誤字訂正

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