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22:香水造り

 昼。

 目を覚ました私は身支度を整え、食事を取った。


「さて、素材は大丈夫ね」

 そして、机の上に素材と道具を並べる。

 重要な素材は千年封印薔薇、枯れ茨の谷の源泉水、セレナイト、マラシアカの黄玉、薔薇の果実を漬け込んだウォッカ、悪と叛乱の神の種子の計六つ。

 道具は円形の皿や香水の瓶、五徳等々、必要な物を一通り。


「それじゃあ、早速始めましょうか『スィルローゼ・ファイア・フロト・イグニ・フュンフ』」

 私は金属で出来た皿の上に悪と叛乱の神の種子を置き、その上に枯れてよく燃えるようになった茨を被せ、薔薇の果実を漬け込んだウォッカ……ローズヒップウォッカとでも言うべき物をかける。

 そして、魔法で着火。

 木生火としての効果もあって、悪と叛乱の神の種子は勢いよく燃え上がり、ローズヒップウォッカは薔薇の良い匂いを周囲に漂わせ始める。


「『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン=ベノム=スィル・ツェーン』」

 その状態で私はマラシアカの黄玉を茨で縛り上げると、炎の中に投下。

 すると火生土として火が生み出している生成物をマラシアカの黄玉は吸収していき、吸収しきれず外に漏れ出そうになった力も魔法で生み出した茨が抑え込む。


「『スィルローゼ・ウド・エクイプ・エンチャ・ツェーン』『ルナリド・ムン・エクイプ・エンチャ・ツェーン』」

 やがて燃やす物が無くなった炎は自然鎮火して、大量の力を蓄える事で輝きを増しているマラシアカの黄玉だけが皿の上に残る。

 それを前に私はセレナイトを握り、二つの付与魔法を発動。


「ふんっ!せいっ!とっとと!砕け!なさい!!」

 そして全力でマラシアカの黄玉に向けて振り下ろす。

 何度も、何度も振り下ろす。

 二つの宝石が砕け散って粉になるまで、振り下ろし続け、土生金によって強力な金属性の力を秘めた生成物を作り出していく。


「よし。『スィルローゼ・ウォタ・ワン・ロジョン・フュンフ』『サクルメンテ・ウォタ・ワン・ロジョン・フュンフ』」

 そうして出来上がった生成物と枯れ茨の谷の源泉水を混合。

 魔法と金生水の思想によって、枯れ茨の谷の源泉水の力を大いに高めていき、黄色と乳白色に輝く部分を持った液体を作り出す。


「悪と叛乱の神の種子が貯め込むべきでないアイテムなら、これの量産をしてもよかったかもしれないわね……まあ、この時点でも作るのがかなり面倒くさいし、現実となった今じゃ、これが必要な状況だともう動けないんでしょうけど」

 実のところ、この時点で既にアイテムとしては一級品と言っていい。

 私の記憶が確かなら、この時点でも使用者のHPとMPを7割から8割ほど回復出来るポーションとして扱われたはずである。

 尤も、もっと簡単に同様の効果を持つアイテムが作れたり、回復魔法の方が色々と便利だったりで、緊急用も兼ねてアイテム欄に入れていた私のような例を除けば、目の前にある物と全く同じ物が使われることは滅多にないのだが。


「ま、先に進めましょうか」

 そして、今回の目的はこの液体ではなく、この先にある。

 なので私は次の工程に移る。


「……よし。『スィルローゼ・プラト・ワン・グロウ・ツェーン』」

 私は千年封印薔薇を液体の上に乗せると、植物成長の魔法を唱える。

 すると千年封印薔薇は勢いよく液体を吸い上げていき、その輝きも芳香も増していく。

 水生木、水によって木は成長する、と言う事だ。


「最後にこれを瓶に詰めて」

 そうして全ての液体を吸い上げた千年封印薔薇を私は円柱形の瓶に入れて、入念に蓋をし、ロズヴァレ村特産の蜜蝋で栓をする。

 なお、私が使う瓶や皿が悉く円形なのは、サクルメンテ様の影響であるが……まあ、今はいいか。


「茨と封印の神スィルローゼ様の名の下に……『スィルローゼ・ウォタ・ワン・ロジョン・フュンフ』」

 私は最後の工程として瓶の中にある千年封印薔薇に向けて魔法を発動。

 千年封印薔薇を少しずつ液化していく。

 花弁一枚一枚を順に桃色の雫に変えていく。

 この工程だけは一切の失敗が許されない。

 此処で間違えてしまえば全てがパーになるどころか、千年封印薔薇が内包する大量の力がこの場で暴れ狂う事になるのだから、純粋に命の危機を迎えることになってしまう。


「少しずつ、少しずつ……スィルローゼ様へ捧げる祈りのように……」

 本当にゆっくりと、一滴ずつ慎重に垂らしていく。


「ふぅ、出来たわね」

 そうして一時間程経った頃。

 ようやく全ての花弁が液体となって、瓶の底に溜まる。


「『スィルローゼの神憑(トランス)香水(パフューム)』、無事に完成よ」

 その瞬間、私と瓶の周囲に完成を祝福するように色とりどりの薔薇の花が舞い上がり、目的の物が出来上がった事を知らせてくれる。

 アイテムの名前は『スィルローゼの神憑香水』、使用者が使うスィルローゼ様の魔法を一段階強化する神秘のアイテム。

 品質は……私が今までに作った中ではダントツに良さそうだ。

 きっと茨様の協力があった事に加え、使っているアイテムの質が良かったからだろう。


「そんなわけで、もう話しかけても大丈夫よ」

 私は家の外に目を向ける。


「お、おう、そうか。無事出来て何よりだ」

「おめでとうございます。エオナさん」

「んー、これは確かに取り扱い不可っすねぇ……」

「流石はエオナ様ですね。ううっ……感動してきて涙が……」

 そこには私を気遣って家の中に入らないでいてくれたのだろう、ジャックたちが揃っていた。


「とは言え、本番はこれからなんだけどね」

「ああ、言われてみれば、これってまだ準備の段階だったか……」

「そう言えばそうでしたね……」

 私は出来上がった『スィルローゼの神憑香水』をアイテム欄に入れると、軽く一杯水を飲む。

 既に時刻は夕方。

 『スィルローゼの神憑香水』の使用期限は今から72時間後だが……うん、マラシアカに喧嘩を売ってから既に丸一日以上経っているし、急いだほうがいいかもしれない。


「まあ、ジャックたちが居るなら話は早いわ。今からちょっと身を清めてくるから、何も起きないとは思うけど、村の方はお願いね」

「そこは分かってるから安心しろ」

「あ、はい」

 私はそう判断すると、風呂場に移動した。

04/19誤字訂正

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