前へ次へ
200/284

200:報告-3

「さて、明日からはクレセートね」

 夜、明日以降に必要な物の準備を済ませると、私は『エオナガルド』へと意識を向けた。

 だが、『エオナガルド』の視察の為ではない。

 今回は……話し合いだ。


「記憶の同期と幾つか話し合いたいことがあるわ」

 『エオナガルド』の監獄区は外から見た場合、城のようになっている。

 勿論そう見えるだけで、外から見た姿と実際の構造は大きく異なっているが、それでも城の最上部と言う他の場所に比べれば警備が厳重な方である場所には、相応の部屋がある。

 例えば、今私の前に広がっている円卓と複数の椅子が置かれた部屋のように。


「何かしら?こっちは相変わらずマラシアカに折れる様子が見えなくて、大変なのだけど」

 椅子の一つに茨の鞭を携え、看守帽を被った私が、膝を組んで座った姿で現れる。

 あの私は監獄区を統括している私であり、便宜上エオナ=ジェイルと呼ばれている。


「大変ね。こっちは目標が出来たおかげか、ゴトスたちがやる気で楽しいのに」

 二人目の私が現れる。

 こちらは面会区を統括している私であり、『エオナガルド』での訓練関係も担当している私で、便宜上エオナ=トレインと呼ばれている。

 見た目としては……動きやすさを優先してか、芋っぽいジャージを上下で着用し、髪の毛を後頭部で一まとめにしている。

 うん、その私の中学時代を思い出させるジャージはちょっとどうかと思う。


「生産部門も楽しいわよ。肉と動物素材が手に入るようになったおかげか、皆やる気を出しているから」

 三人目の私は居住区にある畑や、アイブリド・ロージス以外の食肉用モンスターを統括している私。

 便宜上の名前はエオナ=ファーム。

 こちらはツナギ姿で、薔薇の飾りがついた麦わら帽子を被っている。


「住民の自立を促せているようで、何よりだわ。あ、住民の要望についてまとめたものもあるから、エオナ=フィーデイの話が終わったらお願い」

 四人目の私は居住区全般の管理統轄をしている私。

 こちらは便宜上、エオナ=マネージと呼んでいる。

 スーツ姿であると同時に、紙をまとめたものを一緒に持ってきている。


「羨ましい。こっちはこうしている間にも蔵書は増えていっていて、楽しむどころじゃないのに」

 五人目、エオナ=ライブラリ。

 『エオナガルド魔法図書館』を統括している私であり、眼鏡が特徴的。

 本当に仕事が忙しいようで、今もスキルブックらしき本を読んでいる。


「大変ですね。何にせよ時間は有限。可能な限りスィルローゼ様の為に動くためにも、効率的に動きませんと」

 六人目はエオナ=フェイス。

 神託魔法使用時の溢れ出る情動を処理するための私であると同時に、手が足りない私を手伝ったり、雑事用の私を管理したりしている……のだが、スィルローゼ様に祈りを捧げる方が重要であるらしい。

 今もスィルローゼ神官の正式な神官服を身に着けた上で、祈りを捧げている。


「……。眠い、だるい、休ませろ」

 七人目はエオナ=ロザレス。

 ヤルダバオト神官としての面が強く出た私であり……基本的には何も仕事はない。

 だが、善に拘っていられない状況において必要な行動の為に居る私である。

 その姿は全身が茨に覆われていて、口以外碌に動かせないようになっている。


「無事に揃ったようね」

 この七人の私は私であって私でない者たち。

 根っこの部分は私と同じであるが、それ以外の部分において私と大きく違う面を持ち、議論を行う事が出来る私である。

 特にライブラリ、フェイス、ロザレスの三人はだいぶ私から離れていて、定期的に記憶の同期をしなければ、完全に別個の存在として別れてしまうのではないかと言うほどである。

 で、そんな私たちに対して、『フィーデイ』で活動している私ことエオナの主人格である私はエオナ=フィーデイと呼ばれている。


「記憶の同期は……済んでいるわね。話し合いたいことはグミコ……いえ、G35についてよ。大まかな方針は先に決めておきたいわ」

 私は私の背後にある玉座に座っている人影……この円卓の間を管理し、議論が紛糾した時に収集を付けたり、絶対にやってはいけない事が決定されそうになった時だけに動き出す私、エオナ=クイーンに視線を一度向けると、話を始めようとする。


「可能なら封印。無理なら処刑」

「死刑でいいでしょ」

「肥料行きでいいわね」

「捕らえる余裕があるとは思えない。殺す気で行きましょう」

「どうでもいいわ」

「魂ごと抹消の方向で行きましょう」

「ノーコメント」

 するが……いかんせん、人格の分離がまだ完璧ではないので、大多数の意見は一致してしまう。

 まあ、私としても何かしらの異常な能力を手にしていると考えられる今のG35相手では殺す気で行かないと返り討ちに会うと思っているので、当然の一致なわけだが。


「じゃあ殺す気で行きましょう。既にG35は許されない罪を幾つも犯している。そして、捕らえるつもりで行って、捕らえられる相手とも思えないもの。ま、捕縛できるならしてしまうけど、最低限、G35の心を十分に折ってからでしょうね」

 私の言葉に他の私が頷く。

 フェイス辺りは微妙に不満そうだが。


「では、折角だし、住民の要望についても話しましょうか」

 そうしてG35について決まると、私たちはそれ以外の事柄についても話し合い始めた。

前へ次へ目次