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199:報告-2

「『ジェノレッジ』の今までから、順を追って説明しよう」

「お願いするわ」

 ルナはそう言うと、ポエナ山地周辺の物と思しき地図を広げてから話を始める。


「『悪神の宣戦』前、『ジェノレッジ』はポエナ山地の深層に専用の拠点を築いて、そこを中心にゲームを楽しんでいたらしい」

「推奨レベル90オーバー、桁違いのモンスターたちが平然と歩いているエリアね」

 が、最初にルナが指差したのは地図の枠外、普通のプレイヤーでは縁もゆかりもない領域だった。

 なんと言うか……相変わらずである。


「ただ、流石に『悪神の宣戦』以降もそちらに留まるのは厳しかったらしい。拠点を廃棄すると、今はポエナ山地の中層にある村を拠点化した上で、留まっているようだ」

「そこも推奨レベル80とか、そこら辺じゃなかったかしら……」

 次に指差したのは、ちゃんと地図の枠の中にある村だった。

 だがそれでも、推奨レベル80台の危険なエリアである。


「ああ。だが、調査に行った『満月の巡礼者』のメンバーの話では、現地の元NPCたちと協力して、犠牲者を出さない狩りに勤しんでいるらしいし、月に一度くらいは旧拠点まで行っては厄介そうなのを潰しているとの事だった」

「本当に相変わらずね……」

「まったくだ。だがおかげでポエナ山地の深層の化け物共がこちらに出てくることは防げている。私たちとしては感謝以外の念は送れない」

「そうね。それは否定しないわ」

 『ジェノレッジ』は世界が変わっても『ジェノレッジ』だった、と言う事なのだろう。

 なんにせよ、大多数のメンバーは元気そうでなによりである。


「でも、大丈夫なの?幾ら『ジェノレッジ』と言っても、敵が無限にリポップする上に知恵を付けてくるとなると、何時までも一方的にとはいかないんじゃないの?」

「その点についても問題はなさそうだ。どうにも『ジェノレッジ』には現在、猫と狩猟の神キャッハン、罠と暗器の神トラッシン、この二柱の神の代行者が所属している。そして、この二人の代行者が保有する魔法は私のリポップ対策と同じで仲間も使えるものであるらしい」

「なるほど。なら心配はなさそうね」

「ついでに、心をへし折った上で生かさず殺さずの状態を保持するような手法も取っていると報告にはあるな。餌としても都合がいいそうだ……」

 むしろ、元気すぎるくらいなのかもしれない。

 まあ、私たちとしては『ジェノレッジ』が元気でも困る事ではないので、気にしないでおくとしよう。


「話が逸れたな。まあとにかく、『ジェノレッジ』自体は『悪神の宣戦』以降も元気だ。むしろゲーム時代よりも強力になったと言ってもいい。そして、私たちとしては彼らには今後も活躍し続けてもらいたい。と言う訳で、エオナには関係が薄い話だが、この先現地では手に入らない物資をこちらからポエナ山地浅層にある拠点に送って、アチラとの取引を行いましょうと言う話も出ている」

「物資?」

「単純な食料やちょっとした薬がメインだな。アチラもエオナと同じで自活能力が極めて高いから、こちらから送れる物が限られるのが悩みの種だが……まあ、どうしても手に入らない物があるから、何とかはなるだろう」

「ああなるほど」

 取引については……流しておこう。

 私にはほぼ関わりの無い話だ。

 ルナは大変そうだが。


「で、そんな『ジェノレッジ』だが……およそ一月半ほど前に『悪神の宣戦』以降初めての死者を出すことになった。それも身内の裏切りによってな」

「……」

 さて、私にとっての本題はこれからであるらしい。


「詳しい経緯は分からない。だが、G35と言う名前の『ジェノレッジ』の鍛冶部門トップだった女性プレイヤーが、自分の護衛であった五人のプレイヤーを殺害した上で、クレセート方面に逃走したことは確かであるらしい」

「そう……」

 G35が仲間を殺したことはほぼ間違いなし、か。


「『ジェノレッジ』としては自分たちでケリを付けたかったようだが、流石に五人もの戦闘員を正面から殺した相手を確実に葬り去れるだけの人員をポエナ山地の外に出したら、自分たちの拠点の維持が危うくなる。だから、追手は出したくても出せなかったようだ」

「正面から……?」

「ああ、正面からだそうだ。少なくともこちら側の調査員はそう聞いている。資料を見るか?」

「見せて」

 私はルナからG35が起こした事件についてまとめた資料を見る。

 すると確かに、G35が自分に付けられた『ジェノレッジ』の戦闘専門のメンバー五人を正面から撃ち破って殺したという記載があった。

 また、文章だけでなく死体の様子が描かれた図もあり、その図から読み取る限りでは矛盾の類は感じられなかった。

 しかし……


「『ジェノレッジ』のメンバー五人を正面から撃ち破る……ね。確実に妙な能力と言うか、強力な力を得ているわね」

「確かか?」

「確かよ。でなければ、幾ら個々人間で実力差や相性の問題があっても、一対五を制する事は出来ない。『ジェノレッジ』のメンバー同士でそこまで実力差があるのも考えづらいしね」

「ま、当然の判断だな」

 そうなると、G35は確実に妙な力を得ているし、地力も上がっている。

 でなければこの結果はあり得ないだろう。


「何にせよG35は『ジェノレッジ』側からしても既に最悪の裏切り者。捕まえようとか、連れ返そうとか、説得しようとかは考えずに、見つけたらその場で始末して欲しいそうだ。尤も、代行者並の実力がない人間が挑んだところで、返り討ちに会うのが目に見えているがな」

「そう、分かったわ」

 ルナは暗に言っている。

 G35を見つけた時には私に戦ってほしいと。

 そして私も頷く。

 G35の無力化はスィルローゼ様の願いであり、従姉妹である私個人としても行いたい事であるからだ。


「情報はこれくらいだな」

「現在位置とかは分からないのね」

「上手く潜伏しているようでな。こちらの網にはかかっていない」

「分かったわ。なら情報が入り次第教えて」

「分かった。そうしよう」

 その後、私とルナは明日以降についての打ち合わせを行い、どうするかを決めた。

 そして、私はルナの執務室を後にした。

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