197:新たなる剣-7
「んんー、美味しいわぁ……こんなに美味しい肉を食べたのは何時ぶりかしら」
私は塩コショウを振りかけて焼いただけのシンプルな焼肉を口の中に入れ、噛み、溢れ出る濃厚な肉汁と野性的な肉の食感を心行くまで堪能する。
うん、実に美味しい。
流石は食肉用キメラとして生み出された神獣アイブリド・ロージスの肉。
適度な脂身としっかりとした歯ごたえ、正に戦いに生きる英雄に相応しい最上級の肉と言えるだろう。
「うめぇ……何てうまさだ……」
「こんなに美味い肉がこの世にあったのか……」
「一切れだけでよかった……何枚も食ったら逝っちまう美味さだよこれは……」
「ううっ、私強くなる。強くなって思う存分この肉を食べれるようになりたい……」
さて、そんなアイブリド・ロージスの肉だが、アイブリド・ロージスのサイズがサイズなので、得られる肉の量も膨大な物となる。
そのため、私は今後の成長の発破材も兼ねて、肉の一部を『エオナガルド』住民にあげた。
反応は……上々と言えるだろう、『エオナガルド』住民たちは歓喜の涙を流しながら、与えられた少量の肉をじっくり味わっている。
「本当に美味しいな……これは。もっと食べたくなる」
「しかし、この肉を得るためにはアレを倒す必要があるのか……」
「無理があるよな……いや、諦めるには惜し過ぎるな」
「今回エオナは代行者モードも領域魔法も使っていない。つまり、かなり手を抜いている」
「なら、自分たちでも方策を練れば、ワンチャンあるか?」
そして、一部……ゴトスやワンオバトー、アユシと言った現在でもそれなりに実力のある面々はどうにかしてアイブリド・ロージスを自分たちでも倒せないかと、話し合いを始めている。
その話し合いは、そのまま強くなるための第一歩でもあるし、実に喜ばしい事である。
で、可能ならばそのままアイブリド・ロージスにまずは一度挑んでほしいとも思う。
「「「ブメッコオオォォ……」」」
なお、アイブリド・ロージスは既にサンライ様とルナリド様によって復活させられており、挑戦者待ちの状態に入っている。
ついでに言えばアイブリド・ロージス含め、食肉用モンスターたちは強き者の血肉になれる事を誉れとするように作られているため、挑戦者は何時でも大歓迎である。
だから挑んでほしい。
是非とも挑んでほしい。
当初の予定通りに。
「となると……」
「モグモグ。ちっ、無理そうね」
が、残念ながら今日この場でアイブリド・ロージスにゴトスたちが挑むことはなさそうだ。
完全に飯を食いながら、現状の情報を整理しつつ、自分たちならばどうするかと言う検討会に移っている。
アレは数時間がかりのものになるだろう。
「本当に美味いな。うーん、生きた状態のに齧りつきたい」
「流石に戦闘になったら隠蔽しきれるとは限らないので駄目です」
「変……事言っ……とぶっ叩く……よ。……」
「ンー、この肉の味を科学的に再現してみるか」
「こんなにいい肉を食べると、眠くなってくるねぇ」
なお、『エオナガルド』住民に配った肉の量は総量からすると、そこまで多いものではないため、大多数は神様たちに感謝の念と意を込めた上で捧げている。
そして神様たちは単純な焼肉だけではなく、炙りやハンバーグ、煮込み等々、様々な手法で調理して、楽しんでいるようだ。
ただ、神様たちはアイブリド・ロージスを遥かに超える肉も知っている為だろう。
私や『エオナガルド』住民たちのような感動はしておらず、極々普通の料理を食べているような感じである。
「あ、そうだ。サンライ、ちょっといいかい?」
「どうかしましたか?ルナリド」
と、ここでルナリド様とサンライ様が会話を始める。
それでどうしてか、私にも二人の会話がはっきりと聞こえてきた。
「エオナの血筋の件。調べてみたら面白い話が見つかったよ」
「面白い話ですか。具体的には?」
いや違う。
たぶんだが、これは私に聞かせるために二人で話している。
私の血筋に関わる話のようだが、私に聞かせたくないなら、聞かせないように話すことくらい、このお二人ならば容易なはずだ。
「彼女、8分の1だけど混ざってる。従姉妹のG35もだ。現代で考えるなら、これは異常以外の何物でもない」
「それは妙ですね。『Full Faith ONLine』の運営を始める際に、どの神も残っていないのは確認していたはずですが……」
「どうにもかなり高度な偽装を自分自身と自分の血筋に施していたみたいだよ。今回の事件が無ければ、永遠に表には出なかっただろうね」
「相当な使い手ですね。それで?その神は今何を?」
混ざっている、か。
話の流れからして、何かしらの神の血が私に入っていると言う事だろう。
「もう死んでるよ。自分を人間だと偽装して、人間の生活に混ざり、人間として一生を終え、そのまま消え去ったようだ」
「……。なるほど。話が繋がりますね。そう言う権能ですか。普通の調査では分からないはずですね」
「そう言う事。全部繋がるだろう」
が、その詳細までは教えてもらえないらしい。
ルナリド様の言葉にサンライ様は何か納得した様子を見せてくれたが、そこまでだった。
これ以上は、まだ私が知るには早いと言う事なのだろう。
「しかし、そうなってくると……やはり、方針は当初のままで良さそうですね」
「そうだね。やっぱり……」
そしてこの先は会話を聞かせる気もないのだろう。
一気に声が聞こえなくなっていく。
「神の血ね……ま、私のやるべき事に変わりは無いわね」
何にせよ、私のやるべき事に変わりはない。
私の主はスィルローゼ様であり、ルナリド様でもサンライ様でもない。
私は私に持てる全てを以て、ただスィルローゼ様の為に尽くすだけである。
「うーん、実に美味しい。明日からの英気も養われるわぁ……」
だから私は綺麗な白米の上に焼いたアイブリド・ロージスの肉を積み重ねた焼肉丼を作ると、その味を堪能し始めた。