193:新たなる剣-3
「随分と機嫌が良さそうだね。ただ……こっちの話じゃなさそうだね」
視点が変わって『フィーデイ』。
休憩に入ったウルツァイトさんが私の顔を見て、少し呆れた顔をしている。
どうやら『エオナガルド』の私がシンゴゼンに捌いてもらった鉄鱗の魚の刺身を食べた時の喜びが、こちらの私にまで伝わって、思わずにやけ顔のようなものになっていたらしい。
「『エオナガルド』に食肉用のモンスターが配置されたのよ。それで、試しに刺身を食べさせてもらったんだけど、それが実に美味しかったのよ」
「へぇ、そいつはいいね」
「どんなモンスターなんですか?」
ウルツァイトさんの打った剣は、これから暫く自然に冷やす必要があるらしい。
だがこの分ならば、夜には完成するとの事だった。
ならば……宴に間に合うかもしれない。
「そうね……」
とりあえず今は休憩中なので、私は金毛の羊たちの事に、それらが配置された記念に『エオナガルド』全体で宴を行う事を告げる。
勿論、『エオナガルド』では既に各種活動が始まっており、農産物のみを利用した料理などは既に何点か出来ている。
「とりあえず、こういう料理とかは出るわよ」
と言う訳で、私のアイテム欄経由で、『エオナガルド』で作られた肉関係一切なしのカレーライスもどきを三人分、目の前の机に出す。
「カレー……ライス……だって……」
「嘘……なんでこんなものが……」
「スパイス類がかなりの種類揃っていて、米、ジャガイモ、ニンジンと言った基本的な素材もあるからって、プレイヤーの複製体の誰かが作ったと言う話らしいわ」
私は一口食べてみる。
うん、肉類がないためか、私の記憶にあるものとは微妙に味や舌ざわりは異なる。
だが、これは間違いなくカレーライスだ。
元の世界含めて三ヶ月ぶりくらいのカレーライスだが、実に美味しい。
作ったのはキャッサバ、リナマリン、ファロファと言う仲良し三人衆か。
ミナモツキ封印の件でも聞いた覚えがある名前だし、ちゃんと覚えておくとしよう。
「食べないの?」
「食べます!」
「食べるよ!」
メイグイとウルツァイトさんが勢いよくカレーライスを食べ始める。
「おいしい……おいじいですよぉ……」
「ううっ、久しぶりの米だ……しかもカレーライスだ……」
そして何故か号泣し始め、そのままの状態で食べ始める。
私も米が『エオナガルド』にあると気付いた時にはかなり喜んだが、どうやら、二人は私以上に米に飢えていたらしい。
「エオナ、ウルツァイト。ちょっと打ち合わせたい事が……え!?」
「この匂いは、まさか……」
と、そこへ何か要件があったのかサロメ、それにルナが入ってくる。
で、私たちが食べているカレーライスへと目を向け……生唾を飲み込んだ。
「モグモグ。私は今まで出来る限り『エオナガルド』には触れてこなかった。『エオナガルド』はエオナの財産であるし、知ったところで干渉の類も出来ない場所だからな」
「そうね、私も最低限しか聞かれなかった覚えはあるわ」
「しかし、まさか『フィーデイ』に居る私たちよりもよほど良い生活を中の方が送れているとはな……流石に想定外と言う他ない」
私はルナたちにもカレーライスを振舞ったし、一体どうやって作ったのかは分からないが、キュウリの浅漬けなども振舞った。
ついでに肉を作った料理も何品か出していて、全員で食べている。
「一応言っておくけど、むやみやたらと住民を増やす気は無いわよ。交易ぐらいはするかもしれないけど」
「交易か……こちらから出せそうなのが、中で取れないモンスター素材、あるいは希少な鉱石系素材の類、それに金銭しかないのがツラいところだな」
「他は無理なんですか?」
「無理だろう。向こうは衣食住に困っていないし、信仰と武力も足りている。ついでに趣味の欲を満たす場だって完備だぞ?スキルブックですら、中の方が充実している以上、交渉の余地が殆どない」
「まあ、大体の物が揃っているという自覚はあるわね」
「なんと言う無理ゲー……」
で、会話の流れとして『エオナガルド』に今何があるのかを一通り説明することになったわけだが、それを聞いた結果としてルナとサロメは微妙に遠い目をしている。
「と言うか、此処まで来ると都市一つが丸ごと歩いているようなもんじゃないのかい?」
「そうだな。今のエオナはレイドボスと言うよりは、二足歩行する都市と言った方が正しいだろう。扱えるものの量や種類からして」
「まあ、否定はしないわね」
どうやら『エオナガルド魔法図書館』にファウド様とソイクト様が作った温室などは完全に想定外の設備だったらしい。
この辺の説明をした時は完全に固まっていたくらいだし。
「それで、話ってのは何だったの?」
「あー、急を要する話じゃないから、また今度でいい。今はそれよりも久しぶりの日本人らしい食事に集中したい」
「そう、ならいいけど」
とりあえず、ファウド様とソイクト様の要望通りに、この辺で育ちそうな種類の植物の種子くらいは後で用意しておいてもいいかもしれない。
私の想像していた以上に重要そうだ。
「さて、アタシはそろそろ剣を打つ作業を再開するかね」
「そうね。じゃあ、私も見守らせてもらうわ」
「ああ、よろしく頼むよ」
そうして、腹が膨れ、落ち着いた頃。
ウルツァイトさんの作業は再開し、ルナたちも去っていった。