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192:新たなる剣-2

「これでよし」

 私とウルツァイトさんが面会してから二日経った。

 『フィーデイ』では私とメイグイが見守る中、ウルツァイトさんが剣を打っている。

 そして『エオナガルド』では面会区の一部を改装して、放牧が出来る草原と森林の混合地帯が作られた。


「「「ブメッコオオォォ……」」」

「うん、気分が良さそうね」

 家並みの巨体であってもゆっくりできる空間に、アイブリド・ロージスは気持ちよさそうに欠伸をしつつ、手近な場所の草や木の葉を食んでいる。

 うん、やはりスィルローゼ様が主体となってお創りになられた神獣だけあって、普段は物静かであり、温和な存在のようだ。


「やっぱりこれ食肉用じゃなくて虐殺用だよな……」

「普段は心優しいとの話だが、戦闘になれば話は別だろうしな」

「自分はノーコメントだ」

「戦いたくない相手だとは言っておく」

 尤も、それでも見た目で惑わされて、面会区の整備……柵などの設置を手伝わせたゴトスたちは心無い言葉を口にしている。

 そんなに言うのであれば、やはり宴の余興として戦ってもらうべきだっただろうか?


「ま、今はいいか。ルナリド様、準備完了しました」

『よろしい。では、『エオナガルド』への転送を開始するよ』

 まあ今は自分のやるべき事をやるとしよう。

 と言う訳で、私はルナリド様へ準備が出来たと声をかける。

 そして直ぐにルナリド様からお返事があり、転送が始まる。


『一種類目。銅羽(アエリス)の鶏(プルス)16羽』

 面会区の一角に銅色の光の柱が立ち上り、光の柱が消えると共に、銅のような色合いと光沢を持った羽に包まれた鶏が現れる。


「「「コケコッコー!!」」」

「うん、体調問題なし。数も問題なしです」

 銅羽の鶏が大きな声で鳴く。

 どの個体も元気一杯であり、体調に問題はなさそうだ。

 私が数を確認すると、直ぐに散り散りになるように駆けていく。


『二種類目。銀牙(アルジートム)の猪(・アペ)4頭』

 続けて面会区の一角に銀色の光の柱が立ち上り、そこから銀色の牙に白色の毛を持った猪が4頭、ゆっくりと出てくる。


「「「フゴフゴッ」」」

「ふむふむ、問題なさそうです」

 銀牙の猪は新たな環境を前にまずは周囲の臭いを嗅いで、色々と確かめているようだった。

 数と体調には当然何の問題もない。

 そして、私の確認が終わると、4頭はそれぞれ気ままに動き出す。


『三種類目。金毛(アウルム)の羊(・オビウム)2頭』

 再び面会区の一角に光の柱が立ち上がる。

 その色は金であり、中からは金で出来た角を生やすと共に金色の毛で全身が覆われた羊が2頭駆け出してくる。


「「メエエェェ」」

「うん、大丈夫ですね」

『可愛い……』

 金毛の羊は自分たちの足元に生えている草の様子を確かめると、早速食べ始める。

 同時に、その可愛らしさに見惚れたのか、何処かからか現れたスヴェダが金毛の羊の片方の背中に張り付くが……怨霊であるスヴェダには重さがないためか、特に気にしていないようだ。

 スヴェダの思念の影響を受ける様子も見られないし、放置でいいだろう。


「さて、次ですね」

 さて、此処までの3種類は私が原案を出した食肉用モンスターである。

 が、詳しい仕様を決定するための会議場で、アイブリド・ロージスともう一種類のモンスターが追加されている。

 今から迎えるのは、その最後のモンスター。

 アイブリド・ロージスは最初にルナリド様に蹴られたキメラを基にしているから、私もだいたいは分かっていたが、こちらは仕様書でしか知らない。


『では送るよ。四種類目。鉄鱗(フェルム)の魚(・サルモ)100尾』

 面会区の一角、水飲み場と洗い場を兼用した小川に黒い光の柱が立ち上り、直ぐに消える。

 鳴き声や水音は無い。

 が、私がそこに向かうと、彼らは確かに居た。


「鮭に近い感じ……ですかね?」

『そうなるね。基本的な味もそれに近い事になっている』

 そこには黒い鉄のような色合いの鱗を持った鮭のような魚が、小川を埋め尽くす数で居た。

 そして、流石に一か所には集まっていられないと判断したのだろう、彼らは小川の流れを通じて、面会区の外へと次々に泳ぎ出していき、後にはひときわ大きい……大の大人でも一匹抱えるのがやっとという大きさの鉄鱗の魚が一尾だけ残っている。


『これでアイブリド・ロージス含めて、5種類の食肉用モンスターが『エオナガルド』に配備された。これで『エオナガルド』の食糧事情はだいぶ改善されるだろう』

「ありがとうございます。ルナリド様、そして協力して下さった神々の皆様」

『彼らの仕様は分かっているね?』

「はい、分かっています」

 さて、こうして無事に配備された食肉用モンスターたちだが、彼らには共通の能力として総数が一定値以下になった場合には、朝日が昇ると共にその数まで個体数を回復する、と言う力がある。

 つまり、例え獲り過ぎてしまったとしても、次の日には元通りと言う事だ。

 また、彼らのエサは私の保有するエネルギーの中から余剰分を変換することによって生成される他、私の体の良くない部分を食べてメンテナンスを兼ねるようにしてあるとの事である。

 他にも各種類ごとに仕様があるが……それを再確認するのはまた別の機会でいいだろう。


『宴は……』

「早ければ今晩、遅くとも明日には行う予定です」

 と言う訳で、私は目の前の小川で佇んでいる鉄鱗の魚を、手首から伸ばした茨で釣り上げると、手早く〆る。


『そうかい。いい宴になる事を願っているよ』

「はい、ルナリド様」

 そして私はゴトスに鉄鱗の魚を抱えさせると、食肉のサンプルが届くのを今か今かと待ち望んでいるシンゴゼン・ヨロズミ=ミナモツキの下へと走らせた。

アイブリド・ロージス含めて5種類のモンスターの配置完了です。

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