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191:新たなる剣-1

「「……」」

 私がE12、E13がを始末してから三日経った。

 ルナたちが行った後始末と言う名の捜査でサメトレッドが持ち込んだ怪しげな剣は二本のみと判明し、各種探知魔法でも引っ掛かる物が無かったこと、それに他に事件も起こらなかったことから、事件そのものは解決と判断されている。

 尤も、製作者であるG35とサメトレッドの間に何があったのかや、G35がどうなっているかなどは不明のまま。

 その辺で分かっている事と言えば、ポエナ山地から少し離れた村で取引が行われたらしい、と言うのがサメトレッドの残していた帳簿から見て取れたくらいである。

 ま、この辺りについてはルナたちに任せるとしよう。

 私の役目ではない。


「本当にすまなかったね、エオナ。そしてありがとう。アタシを止めてくれて」

 それよりも今は目の前で頭を下げているウルツァイトさんへの対応が先である。


「私に謝る必要は無いと思うわよ。貴方はただの被害者なのだし。むしろ謝るのは私の方でしょう。かなり無理な方法を取ったと言う自覚はあるもの」

「それでもさ。頭に血が上っていたで済ませていい範囲を超えた暴言を言ってしまったからね」

「そう。ならお互いに謝って、この件は終わりにしましょう。どっちの方がより悪い自慢だなんて、誰の得にもならないわ。ごめんなさい、ウルツァイトさん」

「……。分かったよ。ごめんなさいだ。エオナ」

 ウルツァイトさんの鍛冶工房は壊れてしまったし、今のウルツァイトさんはE13に操られていた後遺症なのか、体調がすぐれない。

 なので、私がメイグイに連れてこられたのは、『満月の巡礼者』の為に作られた医療施設の個室である。


「それで?ちょっとした疑問なんだけど、どうしてウルツァイトさんはE13に操られたの?」

 私は自家製のローズヒップティーを飲みつつ、ウルツァイトさんに質問をする。


「それについては気が付いたら、としか言いようがないね。鬱憤晴らしを込めて、とにかく鍛冶仕事に打ち込もうとした。それで素材にする剣を持ったら、急にだったんだ」

「……。誰も持っていない時限定で警戒されないように認識を阻害する機能でもあったのかしら?」

「私に話を聞きに来たサロメもその可能性は疑ってたね。他にも持ち手が持ちやすくするための仕掛けが幾つもあったんじゃないかって話だよ。今となってはもう何も分からないけどね」

「まあ、製作者が製作者だし、有り得ない話ではないわね」

 ウルツァイトさんは嘘を吐いていない。

 本当に警戒の余地すらなく操られてしまったようだ。

 そんな代物が『フィーデイ』のあちらこちらでバラ撒かれているとしたら……実に恐ろしい話であるし、今後も気を付ける必要がありそうだ。

 やはり、スィルローゼ様の言うとおり、作成者含めて早急に対処する必要がありそうだ。


「ただ、操られたおかげで得たものもあるね」

「得たもの?」

「アンタの薔薇水晶の加工方法さ」

「エオナ様の!?」

「へぇ……」

 だが、ウルツァイトさんもただでは転ばなかったらしい。


「経緯は?」

「E13はアタシの知識と腕、それにエオナから貰った素材を使って、自分の強化を進めたのさ。その時にエオナの薔薇水晶にも奴は目を付けた」

 何故E13が私の薔薇水晶の加工方法を知っていたのかは分からない。

 しかし、その加工方法はある意味で理路整然としたものだったらしい。


「ま、アンタ由来の素材だと思い返してみれば、納得の方法だったよ」

 具体的な手法としては、スィルローゼ様の力に関係したものを接触させることで多少柔らかくなり、その後に自分が信じる神へ誠心誠意の祈りを捧げることによって変化を受け付けるようになるらしい。

 そうなれば後はレベル相応の高位素材として普通に扱えるようになるそうだ。


「たったそれだけ……なんですか?」

「ああ、たったそれだけだったのさ。尤も、誠心誠意の祈りと言うか、本当の信仰に基づく祈りを捧げられるプレイヤーは現状では極一部。その上で鍛冶や生産関係できちんとした腕を持つとなれば、さらに限られる。だから、アタシたちには加工できなかった」

「元NPCに加工してもらうにしても、信仰心はともかく腕の方が圧倒的に足りないから、やっぱり加工できないわね。そもそも、スィルローゼ様に関係した物品の数自体が非常に限られているもの」

「なるほど……」

 うん、言われてみれば納得と言うか、実に私らしい素材である。

 一応、『エオナガルド』でこっそり加工を試みてもらっていたのだが、そちらで上手くいかないのも納得だ。


「ん?」

「どうしたんだい?」

「いや、『エオナガルド』で早速試してみたんだけど……反応が無いわよ?」

 で、念のために早速『エオナガルド』で検証をしてみてるのだが……なぜか上手くいかない。


「変だね。アタシから話を聞いて、もう一つの薔薇水晶は加工出来たって話は聞いたよ」

「あー、もしかして……」

「スィルローゼ様に対する祈りだとNGみたいね」

 そして、サクルメンテ様に対する祈りを捧げつつならば、普通に加工出来た。

 最初の柔らかくする工程と被るからなのか、他に何か原因があるのか、とにかくスィルローゼ様に対する祈りでは反応を示してくれないらしい。


「まあ、とにかくだ。エオナの薔薇水晶の加工方法は判明した。そして、アンタにはあっさり折られたが、その効果は確かな物だった。だから、その上でエオナ、アンタに頼みたいことがある」

「何かしら?」

「アンタの武器を改めて作らせてほしい。アタシの持ちうる全ての技術と思いを詰め込んだ剣を打たせてほしい」

 ウルツァイトさんが真剣な目で、真摯な思いを私に伝えてくる。

 怨みに端を発する黒い炎を秘めながら。


「そして、G35を討ってほしい?」

「駄目かい?」

「いえ、悪く無いわ。聖人君子が世界を救えなんて思いを込めて打った武器よりも、よほど私との相性も良さそうだもの」

 私を笑みを浮かべながら、ウルツァイトさんに向けて右手を伸ばす。


「ありがとう。体調が戻り次第打たせてもらうよ」

「ええ、楽しみにさせてもらうわ」

 そしてウルツァイトさんも笑みを浮かべながら、私の右手を取った。


「ふふふ、折角だからE12とE13の残滓も使ってはどうかしらね。危険な物はもう残ってないし、素材としては一級品よ。アレ」

「ふふふ。そうだね。そうさせてもらおうか。いい武器はいい素材になるってのは当然の話だからね。意趣返しにも良さそうだ」

「うわー……二人ともすごくいい顔なのに……」

 そんな笑顔溢れる光景を、どうしてかメイグイは引き攣った笑顔で眺めていた。

09/25誤字訂正

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