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190:E13-4

「ああそうだ。他にも聞いておくことがあった。エオナ、お前は何を認めた?」

「それ、今話す必要がある?」

 ルナは後始末の為の指示を一通り終えた。

 それから、メイグイが持ってきた飲料を飲みつつ、ルナが思い出したように聞いてくる。


「あるさ。フルムスを治める者として、今の貴様の状態は確かめておかなければならない」

 その視線は非常に鋭い。

 私としてはサロメとメイグイの二人はともかく、私にとっては身内ではない記録係の女性が居る場で話したくない内容なのだが……そうもいかないようだ。


「ま、簡単に言ってしまえば、私は自分が悪と叛乱の神ヤルダバオトの代行者である事を認めたのよ」

「はぁ……やはりか」

「「「!?」」」

 私の言葉にルナは納得顔をしつつも溜息を吐き、サロメたちは信じられないものを見る目をしている。

 うん、サロメたちの反応は当然のものだ。


「心配しなくても、私の行動原理、本質、根本は変わらないし揺るがない。私はスィルローゼ様の為だけに生きる。これだけは絶対に動かさせない。ヤルダバオトが相手であってもね」

「だろうな。その点だけは私もエオナを信頼しているし、信用している」

「ギルマス……」

 だから私は堂々と言い切る。

 私を私足らしめているものに変わりはない、と。


「だが、まったく影響が無いわけではないだろう。何が起きている?」

「精神面の変化については自覚が難しいわね。能力面の変化については……ヤルダバオト神官の位置と信仰の度合いなら、今まで以上に探れるようになっているわね」

「ほう……」

「教えないわよ。今回の件は結局ヤルダバオト神官とは無縁だったんだから」

「……。そうか」

 だが、ルナの言った通りに変化は起きている。

 まず、ヤルダバオト神官の位置を探る能力が大きく増している……と言うか、誰にどの程度、ヤルダバオト神官としての素養があるかも分かるようになってしまっている。

 しかも探知相手が今現在ヤルダバオトを信仰しているかどうかに関わらずだ。


「でもまあ、中々興味深いわね」

「エオナ様があくどい顔をしてる……」

「その顔で代行者に相応しくないは通じないわよね」

 うん、便利なのは認める。

 この探知が探っているのは、探知した相手の悪意と叛意の強さであり、悪意と叛意を一切持たない人間などほぼ有り得ない事を考えると、範囲内に居るほぼ全ての人間を探り出せるだろうから。

 当然、逃れる手段はあるだろうが……うん、やはり便利ではある。


「後はそうね。メンシオスの黒い霧は扱いやすくなったわ。今回みたいな場合でなければ、使う気はないけど」

「そうか」

 メンシオスの遺骸から溢れる黒い霧に浸食されることはほぼ無くなっている。

 が、アレは魂ごと滅ぼしていい相手でなければ使ってはいけない代物であるので、そこまで変わりはないだろう。


「で、それだけではないだろう?」

 ルナの視線が再び鋭くなる。

 ルナリド様の神器を授かっただけあって、流石の鋭さと言うか……あるいはウルツァイトさんを止める時を見られていたのかもしれない。


「そうね」

「っつ!?」

「なっ!?」

「なるほどな」

 私の体から薔薇の香りが漂い始める。

 その香りに一つの思念が乗り始め、黒い気体になり、やがて人型を取る。


「と言うより、彼女の件があったからこそ、私は自分を代行者として認めたのよ。ヤルダバオトの代行者でなければ、彼女を従えるのは筋道が通らない行為だったから」

『……。仕事もないのに呼び出さないで』

 そして、スヴェダがこれまでよりはだいぶ落ち着いた姿で現れる。


「死んだプレイヤーの怨霊化。そして、怨霊となったプレイヤーを従える行為か。真っ当な神の信者としては許容しがたい現象だな」

「そうね。スヴェダの怨霊化は完全に私のミスよ。そして、私のミスである以上、全ての責任は私にあるわ」

「だが解放し、成仏させてやる気はない、か」

「無いわね。可能な限り自然に怨念を晴らしてもらう。無理やりやるのは私の手に負えるかどうか怪しくなってからでいいわ」

 私とルナの視線が交差する。

 ルナの言うとおり、スヴェダを怨霊化させた挙句、従える行為は真っ当な神の信者としては許容できない行為だろう。

 だが、私には自分の考えを揺るがせる気はない。

 なにせ、無理やり成仏させるという行為には……多大な苦痛がともなう。

 これまで苦しんできたスヴェダをさらに苦しめるのは、流石に違うだろう。


「ところでエオナ?」

「何かしら」

 と、これまでとは微妙に違うトーンでルナが尋ねてくる。


「その、スヴェダとやらがお前の頭を矢で何度も突き刺しているのはいいのか?」

「別に問題ないわ。物理的な物じゃなくて精神へのダメージだから、私には効かないし」

 ルナの視線は私の背中に張り付き、手に持ったどす黒い矢で何度も私の頭を突き刺しているスヴェダへと向く。

 が、スヴェダには悪いが、スヴェダの矢は物理干渉より精神干渉の比率が高いので、私にとっては頭皮マッサージを受けているくらいの刺激しかない。


「心臓の辺りを何度も引っ掻いたり、首を絞めているのは?」

「どっちも効果が無いのよね。この体だと心臓は大した役目を持っていないし、呼吸の必要性も薄いから」

 他の行動も似たようなもので、どれも大した効果はない。

 まあ、今のスヴェダの能力と私の能力を考えたら当然の結果なのだが。


『ーーーーーーー!!』

「うん、泣きたくもなるわよね。エオナが主だし」

「私からはノーコメントで」

「なんと言うかその……強く在ってくれ」

「と、泣き喚くのは流石にNGよ。周囲に迷惑がかかるから」

 どうしてかスヴェダが大声で鳴き始めたので、私はスヴェダを『エオナガルド』に戻す。

 怨霊の鳴き声は聞いた者全ての精神に影響を及ぼすはずなので、流石に放置は出来ない。

 だから戻したのだが……何故か部屋に居る全員から非難めいた視線を向けられることになった。


「ま、とにかく今回の件はこれで終わり。私は自分の拠点に戻らせてもらうわ」

「分かった。また何かあったら呼ばせてもらう」

 とりあえず、この場にこれ以上居る必要は無いだろう。

 私はそう判断すると、部屋を後にした。

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