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189:E13-3

「はい、お終い」

 『フィーデイ』に居る私の胸に突き刺さっていたE13が、持ち手含めて粉々に砕け散って砂状になる。

 どうやら魂が磨り潰されたことによって、肉体も破壊されたようだ。


「107回……案外保ったわね」

 私は砂状になったE13と、粉々になったE12を茨を使って回収しておく。

 既に魂が完全に破壊され、能力の類も失われただろうが、念のために回収しておいた方が問題は起きないだろう。


「エオナ……」

 と、ここでメイグイとサロメを連れたルナが恐ろしい形相で私の方に近づいてくる。

 どうやら、私の行動に対して怒っているらしい。

 まあ、ルナの怒りは尤もな物なので、私が怒られるのは仕方がない話である。


「『ルナリド・ムン・エクイプ・エンチャ・ツェーン』!」

「おっと」

「ギルマス!?」

「まあ、そうよね……」

 問題はルナが付与魔法を両手両足にかけた上で殴りかかってきた点か。

 流石にルナの付与魔法がかかった拳をノーガードで受けるのは痛いどころではないので、私は掌でルナの攻撃を受け止めて、防ぐ。


「一発殴らせろ!話はそれからだ!!」

「蹴りを出しながら、言うセリフじゃないと思うわよ。それ」

「どの口が言うかぁ!!」

 回し蹴りに裏拳、掌底と、ルナは次々に攻撃を仕掛けてくる。

 その動きは淀みはないが、微妙に慣れていない感じもある。

 『フィーデイ』に来てから、万が一に備えて格闘技も学び始めていたと言うところか。

 うん、普通の人間の範囲の動きしかないから、私には何とでもなる。


「エオナ、私の執務室に来てもらうぞ。せ……事情聴取をさせてもらう」

「どうぞご自由に。ウルツァイトさんは……大丈夫そうね」

 ルナにかかった付与魔法の効果が切れ、その動きが止まる。

 どうやら、この場はこれで終わりらしい。

 私はそれに合わせてウルツァイトさんの様子を見るが、ウルツァイトさんは複数の『満月の巡礼者』メンバーに介抱されている。

 右手の治療も済んでいるのだろう、ウルツァイトさんはきちんと再生された右手を力なく、けれど自分の意志で振っている。


「じゃ、行きましょう……か?」

「サロメ、メイグイ、目を離すなよ」

「見張っている程度でどうにか出来る相手じゃないですけどね。ギルマス」

「あはは……」

 この場でやる事は済んだ。

 そう判断した私は、展開していた茨を消す。

 と同時に、何故かサロメとメイグイの二人に両脇をしっかりと掴まれてしまった。


「流石に酷くない?」

「そのセリフ、熨斗を付けて返してやる」

 どうやら、ルナの怒りはかつて無いほどであるらしい。

 笑顔だが、怒気のオーラが明らかに発せられている。

 そして、私はルナの執務室に連行されていった。


「で?何故あんな人質を危険に晒すような真似をした?」

 さて、連れていかれたルナの執務室だが……室内にはルナ、サロメ、メイグイ、私、それに記録係であろう女性が一人居る。

 そして、私は木製の椅子に座らされ、目の前には胸の前で腕を組んだルナが立っている。


「そうね……」

 ルナの質問に対する答えは簡単だ。


「簡単に言ってしまえば、アレが一番安全かつ確実な手段だと判断したからね」

「お前にとってか?」

「ウルツァイトさんと周囲の人々にとってよ。私にとっては……微妙なところだけど、どういう手段を取っても、私のリスクは大して変わりないわね」

「……」

 あの方法が最善手だった。

 ただそれだけの話である。


「ウルツァイトを傷つけた事については?」

「回復魔法と蘇生魔法、同種の効果があるアイテム類によって対処が可能。問題は無いわ」


「精神面は?」

「そこはアフターケアでどうにかしてもらうべきね。後、精神へのダメージってのは、事態が長引く方が、より致命傷になるわよ」


「ダンジョンを破壊したことは?」

「アレは内部のモンスター含めて、世界の維持に必要なダンジョンではないわ。メンシオスの黒い霧で壊しても問題は無いわ。ルナだって残そうとは思ってなかったでしょう?」


「逃げられるとは思ってなかったのか?」

「茨は地上だけでなく地下にも伸ばしてあったし、感知魔法はルナたちだって使っていたじゃない。逃げられないわよ」


「野次馬への被害は?」

「こちらの攻撃が間に合わなかったら、ターゲッティング能力で防ぐだけの話だから大丈夫よ」


「E13の能力取得は他の物だったら……いや、対処不可能な物だったらどうしていた?あるいは博打を打つようなものだったら」

「有り得ない。E13はそう言う行動方針じゃないわ。それに、ああ言う行動を取るように、誘導もしていたわ」


「交渉は?」

「する気なんて最初からないわ。だってアレの破壊は私にとって最優先事項だもの。例え、フルムス中の人間が懇願したって破壊するわ」


「乗っ取られる可能性は?」

「今の私に精神攻撃の類が効くと思う?返り討ちにしてお終いよ」


「最初から、今回のような方法を取る事は可能だったか?」

「微妙なところね。ただ……真っ当な方法で解決できるなら、それに越したことは無いのよ。今回は真っ当な方法による解決が既に一度失敗していたから、強硬手段を取らせてもらったけど」

 私はルナの質問に淀みなく、次々に応えていく。


「はぁ……」

 そして、一通りの質問が終わったところでルナは大きくため息を吐いた。


「つまり、あの場はお前にとってほぼ全て想定通りに進んでいたと言う事か」

「そう言う事ね。そして、それらは全て私の独断で行われた。それはあの場でのルナの行動と、それを見ていた周囲の人々が証明してくれる」

「はぁ……本当に何もかもがエオナの掌の上と言う事か……」

「ま、後始末は任せたわ。この街の管理者はルナなのだし」

「やはり貴様には頼らないようにしたい……」

 それから一度天を仰いだ。

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