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188:E13-2

「5……」

「っつ!?」

「エオナ!いい加減にしろ!!」

 私は数字を数え始める。

 さて、E13の視点から見た場合、今の状況はとても厳しいものとなる。

 何せだ。


「4……」

「エオナ!聞いているのか!?」

 逃げようとすれば殺される。

 人質を傷つけようとすれば殺される。

 抗っても殺される。

 交渉をしても殺される。


「3……」

「くそっ、あの馬鹿……」

 つまり、生き延びるためには、この状況を切り抜けられるような新たな能力をヤルダバオトから得る以外にE13に選択肢はない。

 では、どのような能力を得るのか。

 それは(エオナ)と言う自分よりも圧倒的に早く動ける化け物の支配圏の外へ一手で逃げ出すと同時に、その後の追撃……メンシオスの黒い霧を纏った茨や、周囲の空間に潜んでいるように思えるアイブリド・ロージス、私を止めようとしつつも隙を窺っているルナたち、これら全てへの対処が同時に出来る力でなければならない。


「2……」

 そして、この思考から選ばれる力は、大きな博打を打つような力ではない。

 そのような博打を打たずとも、生き残る方策がE13の頭には浮かんでしまうし、そこまでの状況ではないからだ。

 で、此処まで考えれば、ヤルダバオト信仰によって得られる新たな力の選択肢が無限に等しくとも、答えは導き出せる。


「1……」

「アタイを舐めるな!」

 E13の姿が私の視界から消え去る。

 同時に茨が動いて、それまでE13が居た位置を貫くが、空を切るだけ。

 つまりは瞬間移動だ。


「此処……」

 E13の姿は私の背後、数十メートル程離れた場所、茨の絨毯が敷かれていない場所で、多数の野次馬の集団の真ん中にあった。

 そこはルナたちも居なければ、アイブリド・ロージスも姿を表せない、私の攻撃も当然届かず、そして新たな人質を大量に確保できる理想的な場所だと言ってよかった。

 野次馬たちはまだE13の存在に反応できておらず、もう一瞬経てば血の惨劇が始まる事だろう。


「なら?」

 尤も、瞬間移動したE13が動くよりも早く、ウルツァイトさんの手を貫通する形でE13の持ち手にはドス黒い、恨み辛みを凝縮したような矢が突き刺さった。


「え?」

 唖然とした表情でウルツァイトさんが私の方を向く。

 当然の反応だろう。

 矢の角度からすれば、ウルツァイトさんの体は勿論のこと、野次馬たちの体だって何人分も貫通している必要があるのだから。


「何が……」

 だが、矢はE13の持ち手にだけ刺さっていた。

 ウルツァイトさんの体にも、野次馬たちにも傷はついていなかった。


「起……き……っつ!?」

 そうしてE13は気づいたのだろう。

 私の真横にどす黒いオーラを纏った希薄な存在感の何者かが……怨霊と化したスヴェダが弓を射った姿で佇んでいるのを。

 その怨霊の憎悪と殺意が自分に向けられている事を。


「『っつあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』」

「「「!?」」」

 直後、E13がウルツァイトさんの体と自分自身の魂、その両方で叫び声を上げる。

 スヴェダの矢に込められていた憎悪と殺意がE13の精神を蝕み、直接揺さぶる事による痛みを知覚したのだ。

 同時に野次馬たちも自分たちがどれほど危険な場に居るかに気付いて、我先にと逃げ出し始める。


「『痛い痛イ痛い痛イ痛い痛イ痛い痛イいイぃィぃ!?』」

「スリサズ」

「バウッ」

 私は即座にスリサズを召喚すると、ウルツァイトさんの直ぐ近くまで駆けさせ、左手で抑え込んでいた右腕を食い千切らせ、ウルツァイトさんの右腕ごとE13を私の方へと飛ばさせる。


「後は折れるまで叩けば終わりかしらね」

 既にウルツァイトさんの下にはルナたちが駆け寄っている。

 ならばもうウルツァイトさんは大丈夫だろう。

 だから後はE13が折れるまでメンシオスの黒い霧を纏った茨で叩けばいい。

 そう思っていた矢先だった。


「むっ」

『こうなれば!!』

 宙を舞うE13の姿が消え、私の目の前に現れる。

 そして、一緒に飛んだウルツァイトさんの右腕を操り、ウルツァイトさんの右腕を地面に落としつつも私の左胸を貫いてくる。


「エオナ様!?」

「エオナ!?」

「油断を……」

 一か八かの行動。

 どうやら、E13はまだ生き残る事を諦めておらず、私さえ殺せれば、この場を切り抜けられると判断したらしい。

 その諦めの悪さは評価するが……


『死……ひっ!?』

「それは絶対にやってはいけない悪手よ。E13」

 失敗である。


『呪いを……』

「効かないわね」

 呪いはメンシオスの黒い霧を保有する私には通じない。


『心臓を……』

「無意味ね」

 心臓の代替など代行者になる以前から出来た。


『転移……』

「悲しい話ね」

 E13は所詮道具であるため、腕だけでもいいから持ち手が居なければ、能動的な能力は使えない。


『せんの……』

「くすっ」

 だからE13は私を新たな持ち手を認識して、操ろうとした。

 だがしかしだ。


『う?』

「「「くすくすくす」」」

 私を洗脳しようと言うのであれば、E13の精神は『エオナガルド』に赴く必要がある。

 では、そんなE13を待ち受けているのは?


「いらっしゃいE13」

「此処は『エオナガルド』の面会区」

「尤も、貴方にとってはただの処刑場でしょうけど」

『あ……あ……あ……』

 メンシオスの黒い霧を纏った茨の棒を持つ数十人の私が、E13の精神体を囲った状態で笑みを浮かべていると言う光景である。


「さて、E12より保つといいわね」

『いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 そうして処刑は行われた。

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