187:E13-1
「ウルツァ……」
「誰も近づくんじゃないよ!近づいたら、アタシはこの体を殺す。アンタたちが取り押さえる暇もなくね」
「「「うっ……」」」
E13はウルツァイトさんの体を操ると、自分の首にE13、E12、両方の刃を押し当てる。
その動きに彼女を取り押さえるべく動き出そうとしていたルナたちは息を詰まらせ、動きを止める。
だが……
「あら?それは貴方がウルツァイトさんを殺したら、その瞬間にこの場に居る全員が最高火力を叩き込んで、逃げる暇もなく貴方たちを木っ端微塵にする事を理解した上での発言かしら?」
「っつ!?」
「「「!?」」」
「エオナ!変なことを口走るな!!」
代替の効かない人質と言うのは諸刃であり、少し見方を変えれば、どちらにとっても傷つけるわけにいかない存在である。
つまり、ルナたちにとってウルツァイトさんは傷つけられない対象であるが、E13にとってもウルツァイトさんは傷つけるわけにはいかない対象なのだ。
それを分かっていれば、あらゆる脅しは取るに足らないものになる。
「舐めているのかい?追い詰められてアタシが破れかぶれに……」
刃が研ぎ直され、僅かに薔薇の装飾が施されたE12の刃がウルツァイトさんの首から離れ、切っ先が私に向けられる。
うん、ちょうどいい。
「なれ……ば?」
ウルツァイトさんの左腕が噛み千切られて飛ぶ。
何もない空間からにじみ出るようにして現れたアイブリド・ロージスの猪の頭がウルツァイトさんの左腕に噛みついて、切断し、そのままE12ごと茨の絨毯の上へと投げ飛ばしたのだ。
「っつああああああああぁぁぁぁぁぁ!?」
「はいはい、左腕が千切れただけでしょ。『スィルローゼ・プラト・ワン・ヒル・ツェーン』」
当然、ウルツァイトさんの噛み千切られた左腕からは勢いよく血が噴き出す。
だから私は直ぐに回復魔法を発動して止血、更には元通りに左腕を再生する。
で、それと同時にだ。
『ーーーーーーーーーーーーー!?』
「E12!?」
「人質から離れた犯人が無事で済むわけないじゃない」
メンシオスの黒い霧を纏った茨で、茨の絨毯の上に落ちたE12を押さえつけると共に、何度も何度も殴りつける。
黒い霧を纏った茨の触手が叩き込まれる度にE12は周囲の人々の魂に直接響き渡るような魂の叫び声を上げる。
その声を聞いて、心の弱い者は耳を抑えながらその場で蹲り、そうでない者も顔を蒼ざめさせている。
まあ、メンシオスの黒い霧による処刑は大変な苦痛を伴うものなので、当然の反応だろう。
「よくやったわ。アイブリド・ロージス」
「ブメッコ」
が、私にはどうでもいい事である。
だから私はアイブリド・ロージスを褒め、頭を撫でてやると、今度は空間に潜航させるのではなく、『エオナガルド』へと帰す。
尤も、私以外にはそうは見えないだろうが。
『ーーー!?ーーー!!ーーーーー……』
「や、止めなさい!止めないとアタシはこの体を……」
E13がE12の助命を私に求めてくる。
当然、その刃はウルツァイトさんの首筋に当てられたままだ。
「さっきも言ったはずよ?ウルツァイトさんが死ねば、その瞬間貴方の死も確定する」
「ひっ!?」
が、その刃がほんの僅かに動く暇もなく、E13の周りには黒い霧を纏った私の茨が何十本と生え、槍のような切っ先がウルツァイトさんとE13に触れるかどうかというところで止まる。
どうやら、スリサズの能力を利用すれば、E13が動くよりも早く動けるようだ。
『ーーーーー!?』
「はい、まずは一本」
「「「っ!?」」」
E12が逝ったようだ。
結局粉末状になるまで叩き続けることになったが……まあ、破壊出来たなら問題は無い。
「ア、アンタは何を考えて……」
「何と言われてもねぇ……そもそも、『フィーデイ』で人質ってそんなに有効なのかしら?」
「なっ!?」
「エオナ!?」
さて、残るはE13だけだが……少し冷静にさせるべきか。
「だって、回復魔法どころか蘇生魔法すらある世界なのよ?人質を犠牲にしても素早く敵を始末できるなら、蘇生魔法の使用を前提とした作戦だってアリだわ」
「何て……考えを……」
「現にウルツァイトさんの左腕一本の犠牲でE12は始末され、犠牲になったはずの左腕は私の魔法によって完璧に再生したじゃない。確実に蘇生できるのなら、十分選択肢の一つに入るでしょ。対して貴方は使い手が居なければ、碌に動くことも出来ないのよねぇ」
「待て!それ以上相手を挑発するな!!」
「つまり、私たち相手に交渉をしたいのなら、人質以外を交渉のテーブルに乗せないと駄目って事なのよ。分かるかしら?E13」
「……」
ルナを無視して、私は笑顔でE13に語り掛ける。
E13はウルツァイトさんの顔を蒼ざめさせ、信じられないような物を見る目を私に向けている。
「何が……望みだと……言うの?」
「さて、何が望みかしらね?」
ウルツァイトさんの目がしきりに動き始める。
どうすればこの場を切り抜けて、逃げ出す事が出来るのかを探り始める。
「落ち着いて考えなさいな。私が何を知っていて、何を知らないのかを」
足掻くといい。
考えるといい。
そうやって切り抜ける方法を考えて、E13が動いてくれれば、私はこれ以上の無理や無茶をせずにウルツァイトさんを助ける事が出来るのだから。
「ただし、返答は慎重にね。でないと……後を追う事になるわよ」
だから私はE13を威圧するように、周囲一帯に濃い薔薇の香りと濃密な魔力を撒くと、満面の笑みを浮かべた。