182:E12-5
「「「ブメッコウ!」」」
「っツ!?」
E12が弾かれ、全員との間に十分な距離が生じる。
「こイつハなンだ……」
そうして距離が生じた為に、E12は自分の攻撃を防いで見せた存在の姿をはっきりと認識することになる。
「名前はアイブリド・ロージス。私に仕える神獣よ」
ホールに現れた獣の名はアイブリド・ロージス。
スィルローゼ様たちが『エオナガルド』の為に作り出した生物、ある種の神獣である。
「神獣……ダと……」
その外見は一言で表すのであればキメラ。
だが一般的なモンスターのキメラとはパーツが大きく違う。
頭は、金色の毛と角を持つ羊の頭、銀色の毛と牙を持つ猪の頭、銅色の羽と鶏冠を持つ鶏の頭の三つ。
胴は牛のようであるが、背中と後ろ脚には魚のヒレのようなものも生えていて、尾は先端に薔薇の花が咲いている茨。
そしてなによりも特徴的なのは、こうしてただその場に居るだけでも周囲の空気を浄化していき、場の空気を厳かにしていく神獣特有の気配。
この気配を感じれば、アイブリド・ロージスがモンスターであってもヤルダバオト側ではなく他の神々の側である事は即座に理解できることだろう。
「知ッた事カ!」
「ブメッコ!」
E12がアイブリド・ロージスに切りかかる。
アイブリド・ロージスは先程と同じように、猪の牙でE12の攻撃を受け止める。
しかし、完全に攻撃を防ぐ事は出来なかったのだろう。
ほんの僅かにだが、牙に刃が食い込んで傷となる。
「呪わレて死ネ!!」
そして、その傷を介する事でE12はアイブリド・ロージスに呪いをかけようとする。
だがしかし。
「ブモッ」
「なッ!?」
完全呪い耐性を付与されているアイブリド・ロージスはE12の呪いを意識すらせずに無効化すると、先程と同じようにE12を持ち手であるジェラシピリッツごと吹き飛ばす。
「コケコッコー!」
「ぎィ!?」
そこへ鶏の頭から炎のブレスが放たれてE12を焼きつつ動きを阻害。
「メエエェェ!!」
「あ……ア……」
トドメと言わんばかりに羊の頭が鳴きながら前足が振り上げられ……
「「「ブメッコオォ!」」」
「退……!?」
ゴースト特有の能力で攻撃を避けようとしたジェラシピリッツの体を能力を無視して踏み潰す。
それも一度だけではなく二度三度と前足を叩きつけて、ジェラシピリッツの体を粉々にしていく。
「……。外でも見せてもらったけど、実物は数倍ヤバいわね……」
「……。これ、最初から任せてよかったんじゃ……」
「一応言っておくけど、本物はもう数回り大きいし、最初から任せてたら一目散に逃げだしていたと思うわよ。E12はそう言う奴だろうし」
「「!?」」
なお、現在のアイブリド・ロージスは普通の牛より一回り大きいぐらいのサイズだが、『エオナガルド』に居るアイブリド・ロージスの本体は家並みの体高とそれに見合うだけの体長を持っている。
これはいま私たちが居るホールのサイズに合わせて、茨で人形を作ったから当然の話なのだが……サロメとメイグイはどうしてか大いに驚いている。
「ほら、それよりもとっととトドメを刺すわよ。アイブリド・ロージスがブレスで次の体が持てないようにしてくれているけど、そろそろ変わってほしいって感じの目をしてるし」
「あー、うん、そうね……ツッコミは片づけてからにしましょうか」
「あ、はい」
アイブリド・ロージスの猪の頭が瘴気のブレスを、鶏の頭が炎のブレスを、交互にE12に浴びせかけて続けている。
しかし、切れ目なくブレスを吐き続けるのは、頭が三つあっても疲れるのだろう。
早くしてほしいと言う目を羊の頭がこちらに向けている。
なので、私たちはそれぞれの遠距離攻撃魔法をE12に叩きこむべく、詠唱をしようとした。
だが、その瞬間だった。
「「「ブメッコゥ!?」」」
「アイブリド・ロージス!?」
「なっ!?」
「キャアッ!?」
アイブリド・ロージスの体が突然横に吹き飛び、私たちの横まで吹き飛ばされてくる。
そして、何処からともなく現れた人影が、ボロボロになったE12を左手で拾い上げる。
「まったく、ボロボロじゃないか。まあ、エオナたちを相手によくやったとは思うけどね」
「……。そう、此処で来るのね」
人影の主は右手に薔薇の装飾が施された剣を握っていた。
褐色の肌に白い髪、金色の目は私もよく知ったものだった。
「へぇ、後ろの二人と違って驚かないんだね」
「二本目があるのは知っていたもの。だったら、誰がどういう経緯で手にしてもおかしくは無いわ」
サロメとメイグイの二人は信じられないという表情で呆然としていた。
それを見た彼女は、彼女本人ならば絶対に浮かべないであろう嗜虐的な笑みを浮かべている。
「とは言え、私の素材を使って完成度を上げてくるのは流石に想定外だったわね。魔剣さん」
「E13よ。貴方たちの手でボロボロにされたE12の妹?のようなものね。ま、E12と同じで私も無銘の数打ちのような物であり、創造主であるG35様には一抹の期待も抱かれていないけどね」
E13と名乗った彼女は、私に右手に持った剣の切っ先を向けてくる。
その動作は余裕を窺えるものであると同時に、油断はまるで存在しない動きだった。
そして彼女は、私の事を上等な素材の塊でも見る様な目をしつつ宣言した。
「この体の主を救いたいのであれば、この体の主が住処としている工房に来なさい。そうしたら……全員、私の為の素材にしてあげるわ」
E13に体を乗っ取られたウルツァイトさんを助けたければ、ウルツァイトさんの鍛冶工房に来い、と。
「じゃあねぇ」
そうしてE13はE12を持ったまま壁を切り裂くと、フルムス遊水迷路から姿を消した。
「はぁ……最悪の展開に近いわね」
その光景と流れに私は溜め息を吐く他なかった。