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181:E12-4

「ふんっ!」

「ふウうゥぅ!アうウぅゥ!!」

 私の剣とE12がぶつかり合う。

 水蒸気の向こうから現れたE12は、体であるジェラシピリッツの全身は至る所で欠けていたり、溶けていたりして、顔の造形も崩れていた。

 E12自身も熱によって刀身が歪み、刃が丸まり、剣としての力を大きく削がれている。


「助かったけど遅い!」

「そりゃあ悪かったわね!」

 対するサロメはほんの僅かではあるが、E12によって付けられたであろう傷があり、私が割り込むとすぐにアイテム欄から呪い特化の回復薬を取り出して頭から浴びる。

 傷を受けていることからして、どうやら幻影付与のアイテムによる回避だけでは、E12の攻撃を避け切れなかったらしい。


「で、治った?」

「不完全だけど治ったわ。けれど、奪われた最大HPを取り戻すには、呪いの元を絶つ必要があるみたいよ。2割ほど持っていかれたけど、凄く体がだるいわ。と言うか、アンタも呪いの影響下にあるはずでしょうが。なんでそんなにピンピンしてんのよ……」

「この呪い、『エオナガルド』にも届いているのよね。おまけに減る量は割合ではなく固定値。そうなったら、私の場合だと『エオナガルド』込みの最大HPになるから、直ぐに解除している事もあって、誤差の範疇なのよね」

「都市一個分のHPとか、本当に馬鹿げてるわね」

「邪魔をスるナ!」

 私は私を無視してサロメに襲い掛かろうとするE12を体を張って止め続ける。

 幸いにしてサロメの攻撃はE12の動きを鈍らせるだけのダメージを与えており、私でも十分にブロックし続ける事が出来ている。

 だがそれでも、やはり私の能力では止めきれないのだろう。

 少しずつ押されてきている。


「エオナ様!『ホスファスラ・サンダ・ワン・バフ=スピド・フュンフ』!」

「ナイスよメイグイ!」

 だがそこでメイグイの支援魔法によって私の挙動の最高速が上昇し、押されつつあったE12の攻撃を問題なく凌げるようになる。


「ぬグっ!?ダがッ……」

「ちっ」

「サロメ!」

 けれど、それと同時にE12は自身の欠けた部分を飛ばすことによって、私が守れない早さと位置からサロメを攻撃して、少しだが傷を負わせてくる。

 それによって、再びサロメに呪いがかけられる。


「サロメさん!『ホスファスラ・アス・ワン=バステ・デバフ=スピド・フュンフ』!」

「ステータス異常の進行速度低下とはまた珍しい物を……でも、ありがたいわね!」

 しかし、そこにメイグイがサロメにステータス異常の進行速度を低下させることによって被害を抑えるという珍しい魔法を発動。

 そこからすぐにサロメが自身に呪いの回復薬を使う事によって、ほぼ被害なしでE12の呪いの回復に成功する。


「小癪なアあァぁ!」

「っつ!?また激しく……」

 E12の攻撃が激しさを増す。

 メイグイの魔法込みでも、追いつくのがやっとになる。


「エオナ!隙を作れる!?」

「無理!おまけに此処に来て呪いの対象が人だけでなく魔法も含むようになってる!戦線の維持で手いっぱいにな……まずっ、『スィルローゼ・ウド・エクイプ・エンチャ・ツェーン』!!」

 おまけに、E12と打ち合う度に、私の剣にかけている各種魔法の効果時間が削られていくようになっている。

 どうやら、E12あるいはジェラシピリッツは此処に来て、更なる強化を自分に施したらしい。

 その為に私は打ち合いをしつつ、剣にかけているバフをかけ直して、延長し続けることを強要される。


「どうにかして時間を稼いで!こっちも十分な攻撃魔法を撃つだけのMPを回復させるから!」

「サロメさん追加です!『ホスファスラ・サンダ・ワン・バフ=スピド・フュンフ』!」

 サロメにメイグイの魔法がかかり、呪いで鈍った動きでも私とE12がやり合っている範囲から抜け出せるようになる。

 そして、範囲から抜け出したサロメは直ぐに自分のMPを回復させるべく、MP回復薬を一気飲みし始める。


「どうにかと言われても……」

「其処ヲどケ!化け物!!」

 しかし、このままでは時間を稼ぎきれない。

 半ば破れかぶれになりつつあるE12の猛攻を前に、私はそう判断するほかなかった。


「エオナ様にも追加です!『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・ドライ』!」

「「っつ!?」」

 そこへメイグイの新たな支援魔法が発動。

 小さな薔薇の花が私とE12の間に発生し、それが咲くと同時にほんの少しの衝撃波が生じる。

 それはE12に隙を齎すと同時に……


「いイ加減にシろ、貴様アあァぁ!」

「あっ……」

 E12の攻撃の矛先をサロメからメイグイに移す理由にもなった。

 短時間に補助魔法をかけすぎるというヘイトコントロールのミス。

 メイグイがやってしまったのは、それだった。


「死ネえエぇェ!!」

 サロメを守る位置に居た私では、メイグイに飛び掛かろうとするE12を抑えきることは叶わない。


「来なさい」

 だが隙は隙だった。

 だから私は素早くそれを呼び出した。


「すみません、エオナ様……」

 E12の刃がメイグイに迫る。


「アイブリド・ロージス」

「なッ!?」

 しかし、その刃がメイグイに触れるよりも早く、E12は動きを止める。

 いや、止められた。


「何だコいツは……」

「「「ブメッコー……」」」

 E12の眼前に現れた猪の顔が持つ銀色の牙によって。

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