180:E12-3
「死ねっ!殺すっ!貴様だけは殺す!!」
「やれるものならやってみなさい」
私は冷静にE12の攻撃を剣で受け止め、ジェラシピリッツが詠唱する魔法による攻撃を体から生やした茨で迎撃する。
突きを逸らし、あらゆる方向から素早く放たれる斬撃を紙一重で受け止め、隙を見つけては黒い霧を纏った左手による攻撃を試みる。
E12の意識が強ければ洗練された一撃が、ジェラシピリッツの意識が強ければ雑ではあるが力強い一撃が飛んできて、それらが複雑に入り混じる攻撃はかなり厳しい物だが、それでも反撃の隙はある。
「呪われて死ね!」
「ちっ、面倒くさい」
だが所詮、私は剣を扱えるだけであって、その道を究めたどころか、一流の剣士たちの足元にも及ばない実力しかない。
どうしてもE12の攻撃を凌ぎきれず、反撃によって掠り傷を負わされ、その度に黒薔薇結晶を生み出して呪いを解除する事になる。
「切り裂かれて死ね!」
「あんまり面倒くさくなると、全部磨り潰したくなってくるわね……」
そうやって回復の為に手数を使っていると、E12の攻撃はさらに激しさを増し、こちらから攻撃する余裕がなくなっていく。
しかし、私は一人で戦っているわけではない。
「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ!エオナ!『バンデス・フレイム・エネミ=セブン・ボムランス・ツェーン』!!」
「喰らうか!『ヤルダバオト・ディム・フロト・ブラクウォル・ドライ』」
E12の背後からサロメが七本の炎の槍を飛ばす。
その攻撃はジェラシピリッツが生み出した黒い壁によって阻まれ、金属性を含むことをしめす白色の炎を撒き散らして消滅するが、サロメの攻撃に対応するためにE12の攻撃の密度が落ち、その間に私は態勢を立て直すことに成功する。
「ちょっとヤルダバオトへの信仰心が高まりすぎて、言動が荒っぽくなっているだけよ。安心しなさい、実際にはやらないわ。たぶん」
「安心できないわ!『バンデス・フレイム・エネミ=セブン・ボムランス・ツェーン』」
「効かんと言っているだろうが!『ヤルダバオト・ディム・フロト・ブラクウォル・ドライ』」
私とE12が剣戟を交わし続けている中、次々にサロメの炎の槍が放たれる。
そして、黒、青、赤、黄、白、再び黒に青と、色とりどりの炎を爆発と共に発生させていく。
だが、どの攻撃もE12には届いていない。
E12自身の立ち回りとジェラシピリッツの魔法によって、サロメの攻撃は悉く防がれている。
「とっとと死ね!妬まれて死ね!呪われて死ね!」
だから、E12は最も脅威と思える私へと攻撃を仕掛け続ける。
その中で、私はサロメ、メイグイ、アユシとそれぞれ目が合う。
「ちっ、『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン=ベノム=スィル・ツェーン』」
「こんなものが効くかぁ!!」
私は苛立つような様子を見せつつ、E12に向けて拘束魔法を放つ。
だが、封印を切り裂く力を持つE12には何の効果もなく、床から出現した茨は難なく切り裂かれる。
「グマアァッ!」
「邪魔をするな畜生が!!」
アユシが元のサイズに戻った上で、E12の死角から殴りかかる。
しかしこれにもE12は難なく対応し、アユシの全身を一瞬にして切り刻んで、バラバラにし、E12の周囲には私とアユシの行動による大量の茨が散らばる。
「じゃあ。これはどうかしら。『バンデス・フレイム・ワン・アルテ=バーン・ツェーン』」
「『ヤルダバオト・ディム・フロト・ブラクウォル・ドライ』!」
そこへサロメの杖から濃い紫色の輝きを伴った火球がE12に向けて放たれる。
E12は直ぐにジェラシピリッツの魔法を発動して、黒い壁による防御を試みる。
そうしてサロメの火球とジェラシピリッツの壁がぶつかり合った瞬間。
「「「!?」」」
私たちの戦うホール全域を包み込むように紫色の炎による大爆発が発生。
それまでの攻撃とは比較にならないような閃光と熱量が生じて、ホールの中に存在するもの全てを焼き尽くしていく。
その熱の凄まじさは石で出来ているはずのホールの床が焼け解けて、赤く輝くほどだった。
「……っつああぁぁ」
ホールの中が濃密な煙……いや、水蒸気で満たされる。
いったい何が起きたのか?
理屈としてはそんなに難しい事ではない。
サロメは属性付与アイテムと五行を利用して、火属性の魔法の基礎威力を高め、その上でジェラシピリッツが使う陰属性の壁に効果的な陽属性を付与した上で攻撃魔法を放ったのだ。
で、そこに私とアユシの放った茨と言う燃料も置いてあったのだから、この火力も納得と言うものである。
「ワンオバトーの能力込みで皮膚が軽度の火傷ってヤバいわね……」
「全くですね」
そして、そんな攻撃であるために、私たちも攻撃を防ぐ必要があった。
だから私とメイグイは、私がワンオバトーの能力でメイグイをターゲッティングする事でサロメの攻撃を凌いだし、アユシも無謀な特攻に見せかけて、切られる直前に『エオナガルド』に戻っている。
サロメも自分の魔法の威力は重々承知しているから、詳細は知らないが、予め凌ぐ手段は準備していたようだ。
「そノ火力が妬マしイ!!」
「っつ!?」
「エオナ様!」
「分かってる!」
だが、そんな攻撃すらもE12は耐え切った。
水蒸気の向こう側で歪な剣を持った人影と、杖を持った人影が動くのが見えた。
だから私はスリサズの能力を用いて、二人のやり取りに割り込んだ。
ちなみにバフデバフの類や魔法の使い方を考えると、サロメはまだまだ火力を抑えている方です。
盛れるだけ盛ったらメイグイが蒸発しかねないから仕方がないね。