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176:フルムス遊水迷路-2

「「「ーーーーー……」」」

「はい、浄化完了」

「お疲れ様です」

「もう何度目よ、これ」

 私とサロメが放った浄化魔法によって目の前の通路を埋め尽くしていたアンデッド化したモンスターたちが消滅していく。

 そして、アンデッド化したモンスターたちの陰に隠れていた普通のモンスターたちが私たちに襲い掛かってくるが、そちらは子犬と小熊サイズのスリサズとアユシでも問題なく殴り飛ばせる相手なので、適当に任せておく。


「私は面倒だから数えてないわねぇ……メイグイは?」

「これで5回目ですね。アンデッド化したモンスターの数は入口で出会ったものを加えると、既に百を超えていると思います」

「想像以上に多いわね……」

 フルムス遊水迷路の探索そのものは非常にスムーズな物だった。

 まあ、これは当然だろう。

 道案内はスリサズとアユシが持つ動物特有の鋭い嗅覚によって、アンデッド化したモンスターたちの出元を探っているから、行き止まりの類に当たる事がない。

 戦闘は深層でも推奨レベル20台のダンジョンに対して、レベル50以上のプレイヤーが三人に、元ボスモンスターが二人で、敵がアンデッド化によって簡単に対処出来るようになっていることを差し引いても過剰戦力と言えるレベル。

 罠はこのレベルのダンジョンの罠などたかが知れていると言うか……メイグイですら直撃しても傷一つ付かないレベルなので、実質ないも同然である。

 これで、素材や採取を気にする必要がほぼ無いのだから、スムーズにいかない方がおかしいと言うものだろう。


「エオナ、どう見る?」

「何処かのリポップ地点を抑えた……いえ、それよりはフルムス遊水迷路のボスモンスターを殺して、ダンジョンを乗っ取ったと見る方がいいかしら」

「可能なんですか?そんな事」

「詳しい理屈は分からないけど……理論上は可能だと思うわ。まあ、乗っ取ったら乗っ取ったで、色々と制限を課されることになるでしょうけど」

「なるほどね」

「ふむふむ」

 ただ、ゾンビになったモンスターの数は明らかにおかしい。

 幾らなんでも多すぎる。

 これでは、モンスターが現れる場所で自動的にE12に傷つけられ、ゾンビにさせられていなければおかしい。

 だが、そんな事をするならば……最低でもダンジョンを管理維持するための機能の一部を乗っ取って、幾つかの調整を加える必要があるだろう。


「でも、フルムス周辺のダンジョンはエオナ様の魔法によって正常化していたんじゃないですか?」

「正常化はしたけど、その状態で固定出来ているとは限らないわよ。この辺はいたちごっこと言うか、コンピューターのウィルスとワクチンと言うか、ある種の後出しじゃんけんみたいなものだろうから。E12の能力なら、一部乗っ取りぐらいは出来てもおかしくないわ」

「なるほど」

 なお、フルムス遊水迷路は私がサクルメンテ様から授かり、フルムスで使った魔法『サクルメンテ・チェジ・ルール・リーン=メンテ=キプ・アウサ=スタンダド』の効果範囲内に入っているはずだが……あの魔法にはよく分からない点もあるし、私のサクルメンテ様に対する信仰値は普通なので、何処かに穴がある可能性は否定できない。


「バウ」

「ガウ」

「む」

「エオナ様」

 と、ここで勢いよく水が流れる音が響き始める。

 どうやら、フルムス遊水迷路特有の仕掛けがこちらに向かってきているらしい。


「任せなさい」

 と言う訳で、私は体から数本の茨を出すと、他の四人に一本ずつ巻き付け、残りを天井に突き刺す。

 で、茨を巻き上げ、全員揃ってフルムス遊水迷路の天井に張り付く。


「「「ーーーーー!?」」」

「おお、また今回もかなりの数を巻き込んでるわね」

 直後、私たちの眼下を大量の下水が勢いよく流れていく。

 その流れの中にはアンデッド化したモンスターが何匹も巻き込まれており、それらは為す術もなく何処かへと流されていく。


「さっきの話ですけど、E12がフルムス遊水迷路の機能を一部乗っ取っているとして、あの水の流れについては……」

「たぶん、何も弄ってないわ」

「そうね。アレは元のままだと思う」

 今のはこのフルムス遊水迷路特有の仕掛けである、内部循環してモンスターなどを掃除する下水である。

 原理としてはだまし絵のように空間を弄り、水の流れる方向をおかしくすることで、フルムス遊水迷路の中を流れ続けているようだ。

 で、そういう仕掛けなので、迂闊に触れれば私たちであっても一緒に流される……いや、落とされる。

 私の考え通りならば、あの水に触れた時点で、下となる方向が変わってしまうからだ。


「臭いは大丈夫よね」

「バウッ」

「ガウッ」

 なお、あの水は最終的にフルムス遊水迷路の出口に流れていくのだが、その出口にE12が居ないのは既に確認済みである。


「流れが止んだわね」

「じゃ、降りましょうか」

「はい、エオナ様」

 やがて下水が無くなり、ゴミ一つない綺麗な通路が私たちの前に広がる。


「さて、此処まで来るとボス部屋を目指した方が早いかもしれないわね」

「一番居る可能性が高いのはそこでしょうね」

「ですね」

 なので私たちは通路に降り、探索を再開。

 それから暫くして、私たちはその扉の前に辿り着いた。

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