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174:E12討伐準備-11

「薬よし」

「呪い特化の状態異常回復薬が一人につき6本。私たち以外はPT全体でこの本数だと聞いているから、だいぶ融通を利かせてもらえたと言えるだろうな」

「素材も貴重で、量産しようにも、一本作るのにも時間がかかるという話ですもんね」

 私、サロメ、メイグイの前には紫色の液体が入った瓶が置かれている。

 これは呪いと言う状態異常の回復に特化した薬であり、今回の為に用意してもらったものである。

 使用方法は飲むか、かけるか、どちらでも効き目に差はない。

 で、効果の強さだが……私が調べた限りでは、神々が直接かけたような呪いでもなければ、対処は出来そうな感じだった。

 製作者は『満月の巡礼者』のメンバーなのだろうが、かなりの物である。


「消耗品よし」

「『満月の巡礼者』からは幻影付与アイテムが一人につき60個、計180個。単純計算で60回までなら攻撃を無効化に出来ると言いたいけれど……」

「連続攻撃をされると、次を使う暇がない。ですか」

「そう言う事ね。とは言え、エオナとエオナが呼び出す盾役は呪いに対して自力で対処ができるし、私たちが連続で攻撃される状況ってのは、その時点で詰んでいるようなもの。考えても仕方がないわ」

「はい」

 消耗品で一番多いのは、月を主体とした図面が描かれた札。

 『満月の巡礼者』特製、使い捨ての攻撃無効化アイテムである。

 他にも基本的な回復アイテムに、汎用の状態異常回復アイテム、それぞれの手が回らない部分の支援を行うためのアイテムと、シヨンが方々を走り回って集めてくれた。

 なお、支払いはサロメとメイグイの分は『満月の巡礼者』にツケる形で、私自身の分については、私の素材を幾つか渡すことで支払った。

 シヨン相手に貸しを作るならばまだしも、シー・マコトリス相手に貸しを作るのは、少々どころでなく危険だからだ。


「人員よし」

「そうね。人員は十分だわ」

「えーと、本当に私なんかが加わって大丈夫なんですか?一応、レベル50は超えてますけど……」

 私たちはそれぞれのアイテム欄にアイテムを収めていく。

 メイグイは自信の実力の問題から、少々どころでなく不安そうにしているが……問題は無いだろう。


「メイグイ。貴方はフルムス奪還作戦の折、あのフルムスの中を二人のシュピーを連れて駆け抜けたじゃない。それだけでも、今回の場で必要な能力があるのは分かる。自信をもって、今回の戦いに参加すればいいわ」

「そうね。あの時既に敵は半壊していたけれど、それでもフルムスの中は安全とは言い難かったし、私たち遠距離部隊の砲撃だって降り注いでいた。その中で最前線までレベル30台のプレイヤーを二人も連れてこれるなら、能力は十分にあるわ」

「そ、そうなんですか?」

「「そうよ」」

 私とサロメの声が被る。

 実際、メイグイの能力は本人が思っている以上に高い。

 流石に直接的な戦闘能力や単純なステータスでは数に入れられないが、それ以外の部分……細かい立ち回り、状況判断能力、移動能力、危機感知能力、交渉能力、そう言った面においてメイグイは優れている。

 これは単純なレベル上げでは得られないが、実際の戦闘においてはレベル以上に重要となる場面もある力である。

 それがメイグイにはあると知っているからこそ、私もサロメもメイグイは連れて行けると判断しているのだ。

 それとだ。


「後、万が一の事態を考えると、単独での生存能力の高さ、もっと具体的に言ってしまえば、ステータスに寄らない素の足の速さって、結構重要なのよね」

「そうね。戦いに絶対はない。そうならないように立ち回るつもりではあるけれど、万が一の時に、そうなったと言う知らせを持ち帰る人員は重要よ。どれほどつらい役目ではあってもね」

「……はい」

 私とサロメがE12に負けた時には、その事を知らせる人員が必要になる。

 そう言う意味でも、メイグイは必要なメンバーである。


「ま、私の場合、ここに居る私が死んでも、控えを出すだけ。控えが尽きたとしても、暫く亜空間に引き籠る事になるだけなんだけどね」

「ずるいわよねぇ、代行者。と言うかエオナ。こっちの命は一つしかないのに、平然と何十回と蘇れるんだから」

「そこは本来のサイズの差と言う物よ。都市一つ運営するんだから、外に出す自分のスペアくらい何体も用意できないと、やってられないわ」

「そういう有り得ないのを平然と受け入れている辺り、アンタは本当になんと言うか……」

「あはははは……」

 尤も、今の私が一般的な意味合いで死ぬと言うのは相当な状況と言うか……それこそヤルダバオトが直接顔出しをしてくるような事態なので、そこまで心配はしていないが。


「あ、サロメ。一応聞いておくけど、フルムス遊水迷路に突っ込んだ連中の出自と対処予定は?」

「出自はほぼ間違いなくギルマスと敵対している枢機卿あるいはギルドのプレイヤーね。生きていたら説得あるいは拘束して帰ってもらうか、状況によっては共闘も一応有り得る。ゾンビ化してたらモンスターとして処分。E12に操られてるなら、とっとと腕を斬り飛ばして、引き離しましょ。無傷でとか狙ってられる相手ではないだろうし」

「分かったわ」

「あ、はい。分かりました」

 私たちはそれぞれに準備運動を始め、それぞれの得物を軽く素振りする。


「じゃ、準備も整った事だし、行きましょうか」

 そして私たち三人はフルムス遊水迷路へと突入した。

ようやく突入となります

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