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173:E12討伐準備-10

「さて……状況は?」

「今のところは何も。緊急の連絡の類もありませんし、フルムス遊水迷路からモンスターのアンデッド以外が出てくることもありませんでした。そのアンデッドについても此処数時間は出て来ていません」

「そう。なら良かったわ」

 『フィーデイ』に意識を戻した私は、近くに立っていた男性に今の状況を尋ねる。

 すると直ぐに男性は今の状況について教えてくれる。

 まあ、何事もなかったなら、それに越した事は無い。


「サロメとシヨンは?」

「お二人ともすでに目覚められ、サロメ様は朝食を、シヨン様はこちらで護衛を付けた上でマコトリス行商商会へ向かわれました」

「分かったわ。ありがとう」

 サロメとシヨンは既に行動を始めている。

 ならば、昨日の内に話し合っていた事柄がどうなっているのかについてサロメに尋ねてみるとしよう。


「サロメ。他のメンバーはどうなりそう?」

 と言う訳で、朝食としてサンドイッチとサラダを食べているサロメの前にまで歩いていき、私は尋ねる。


「私とアンタ以外のメンバーがどうなるかについては、朝一で知らせが来る予定よ」

「失礼します!」

 と、どうやらちょうど知らせが来たらしく、『満月の巡礼者』のプレイヤーと思しき女性がやってきて、サロメに一枚の紙を渡す。


「……。候補自体は居たみたいね。けれど、もう一本のE12と同様の魔剣の存在、それに私とエオナの連携、後はフルムス遊水迷路と言う戦闘場所の状況を考えると、『満月の巡礼者』からの新たな人員は出せないそうよ」

「む……」

「代わりに『満月の巡礼者』で作っている使い捨ての幻影付与アイテムを、呪い特化の回復薬と一緒にお昼ごろまでに大量に送ってくれるそうよ。これでどうにかしろって事ね」

「まあ、それなら。どうにかはなるか」

 どうやら新たな人員は来ないらしい。

 しかし、その代わりに使い捨ての攻撃無効化アイテムが大量に来るというのであれば……まあ、何とかはなるだろう。

 その手の使い捨てアイテムは効果時間が短かったり、素材が希少だったりと言った欠点が付き物であるが、代わりに誰でも使えるし、詠唱の類も必要ない。

 十分な数が準備できるのであれば、今回のような状況ではとても役立つだろう。


「で、そっちの盾役とやらは?」

「えーと、そっちは……ちょっと待って。ちょうど『エオナガルド』に届いたわ。仕様書も付いているから、少し確認の時間を頂戴」

 まるでタイミングを見計らったかのように、サロメの言葉と同時に『エオナガルド』の監獄区にそれが届く。

 なので私は早速、それの状態を確かめたり、躾けたりしつつ、一緒に届けられた仕様書を『エオナガルド』に居る私たちで読んでいく。


「どうなの?」

「うん、使えるわね。確かに今回のE12相手なら、最良の盾役だわ。流石はスィルローゼ様たちね。ふふふ、負ける気がしなくなってきたわ」

「へぇ……相当の物が届いたみたいね」

 で、仕様書を読み、実物と少し触れ合った結論。

 非常に優秀な盾役として働けそうだ。

 フルムス遊水迷路で呼び出すには少々元のサイズが大きすぎるが、そこは別に憑依させる茨人形のサイズを調整すればいいだけなので、問題は無い。


「手乗り人形のサイズでいいから、この場で一度呼び出してもらってもいいかしら」

「分かったわ」

 と言う訳で、私はサロメの前で早速茨人形を掌の上に作り、意識を憑依させ、軽く動き回ってもらう。

 そうして一通り出来ることを披露し、披露できない部分の説明をしたところで、『エオナガルド』に戻ってもらう。

 サロメの感想としては……


「あー、うん。そうよね。アンタはスィルローゼの代行者なんだし、体内に封印しているのも相応の代物。そう考えたら神獣の一体ぐらい従えていてもおかしくは無いわよね」

 との事だった。

 ただ、これだけは言わせておいてもらいたい。


「本来は食肉供給と住民の戦闘訓練用よ?」

 今回受け取ったそれはE12との戦いの為に作られた物ではない、これだけはれっきとした事実である。

 しかし、サロメにはそれが信じられなかったのだろう。


「虐殺用の間違いでしょ。本来のサイズとデフォルメのかかっていない姿をイメージしたら、どう考えても推奨レベル60オーバーのレイドボスじゃないのよ……」

「そうかしら?」

「そうよ……」

 どうしてか、深い深いため息を吐いていた。


「でもまあ、今は貴重でありがたい戦力ね。安心して任せられる壁が居るのは良いことだわ」

「そうね。期待してもらっていいわ。なにせスィルローゼ様直々のデザインなんだから。絶対に役立つはずよ」

 それでも、戦力が大きく増したのはサロメにも分かったのだろう。

 力強く頷いている。


「で?他にも何かあるんでしょ?私とシヨンが眠っている間にも色々とやっていたようだし」

「そうね……」

 私はサロメにメンシオスの遺骸について話す。

 最後の手段なので、一度しか使えないが、知っていれば、相手の攻撃への対処も変わってくるだろう。


「なるほどね。なら、昨日この場に集まっていた面々でメイグイぐらいは同行してもらってもいいかもしれないわね。後方支援に専念してくれるのが一人居るだけでもだいぶ違うでしょうから」

「それは……まあ、そうね」

 そして、『エオナの黒薔薇結晶』の仕様から、メイグイは連れて行けるとサロメは判断したらしい。

 実際、メイグイが居れば、やれる事は確実に増えるだろう。

 不安が無いわけではないが……メイグイはああ見えて、フルムス攻略作戦の時も幾つかの修羅場を切り抜けているようだし、何とかはなるか。


「前衛はエオナと盾役、中衛は私、後衛はメイグイ。これで行きましょう。午後からはE12の討伐よ」

「分かったわ。準備が整い次第、安全第一で行きましょうか」

 そうして私たちはフルムス遊水迷路に潜り、E12を討伐する為の準備を始めた。

09/07誤字訂正

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