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170:E12討伐準備-7

「そちらの情報収集は済んだようね」

「ええ、素晴らしい話が聞けたし、使命も授かったわ」

「そ、つまりE12の破壊は確定事項と言う事ね」

 神託魔法の効果を終えて、『フィーデイ』に戻ってから暫く。

 メイグイたちと茶を飲んで、待機していた私の前に陰鬱そうな顔をしたサロメが現れる。


「……。そっちの話を聞く前に、こっちの情報を出しておくわ」

「お願い。私の話はかなり陰鬱な物になりそうだから」

 どうやら、サロメの方では良くない情報があったようだ。

 なので私は少しでもサロメの気を楽にするために、スィルローゼ様から教えてもらった事……スオウノバラのオリジナルに問題は起きていない事、明日の朝には盾役として使える切り札が送られる事、それから呪いの解除も上手くやれば出来る事を伝える。


「切り札になる盾役?」

「詳細は聞かなかったけれど、別件で用いるものを少し弄る事で、使えるようにするみたいね。心配しなくても、スィルローゼ様なら何の問題もないわ」

「……」

 私は胸を張ってサロメの疑問に答える。

 それに対してメイグイたちはどうしてか胡乱げな瞳をしているが……一体どこに不安になる要素があると言うのだろうか?


「呪いの解き方については?」

「そっちは……メンシオスの遺骸の力を利用することになるわ」

「「!?」」

「「「?」」」

 私の言葉にメンシオスの力の厄介さを知っているメイグイと、知る機会があったらしいサロメの顔に動揺が浮かび、それ以外の面々は揃って何のことだという顔をしている。


「モンスターの能力もヤルダバオトの力を利用した魔法には変わりない。だから、原理上は対処可能よ。ただ……」

「リスクは破格でしょうね。けれど、やらなければ、どの道待っているのは死。難しい話ね」

「そう言う事。だからこっちについては期待しないで、あくまでも本当にどうしようもない時の最終手段と捉えておいて。私も封印してから一度も扱ってないし」

「分かったわ。盾役と違って、こちらは無いものと捉えておくわ」

 ウルツァイトさんたちには申し訳ないが、メンシオスの遺骸の力の詳細はおいそれとは話せない。

 だから、きちんと話が通じるのはサロメとメイグイの二人だけになってしまう。

 しかし、頼れない回復手段があるという話だけは伝わるから、それで問題は無いだろう。

 それとメンシオスの遺骸の力を使えばE12の破壊も容易く行える可能性があるが……そちらについてもリスクは高い。

 メンシオスの遺骸の力はメンシオス自身も蝕んでいたのだから。


「私の話はこんなところね。それで、サロメの方は?」

「捜査状況に進展があったわ。それで良い話はあるけれど……悪い話も当然あるわね」

 サロメが大きくため息を吐く。

 どうやら、悪い話と言うのは、相当の物であるらしい。


「良い話の一つ目としてはギルマスへの確認の結果、呪い特化の状態異常回復薬のレシピ所有者に渡りを付けられることになったわ。で、今は大量生産中。E12の呪いにも十分な効果があるかは分からないけれど、全くの効果なしと言う事もないと思うわ」

「なるほど」

 どうやら真っ当な呪い対策は見つかったらしい。

 メンシオスの遺骸の力は使わなければそれに越したことは無いので、これは純粋に良い話だ。


「良い話の二つ目としては、ケッハメイ枢機卿の屋敷の件での生き残りが五人保護されたわ。屋敷から逃げ出した後に、誰が敵かも分からずに、怯えて、フルムスの路地裏を動き回っていたのを抑える事に成功したのよ」

「ふむふむ」

 続けて生き残りの保護、と。

 この五人は恐らく私を尾行していたこともある五人だろう。

 生き残っていて何よりである。


「で、ここからが悪い話。その五人の話だけど……E12に操られたサメトレッドがケッハメイ枢機卿の屋敷で暴れていた時、サメトレッドは両手に一本ずつ剣を持っていたそうよ」

「「「!?」」」

 サロメの言葉に場が凍り付く。

 だが、それも当然のことだろう。


「E12と言う名前に複製品であると言う事から、複数本同じような剣があることは想像していたけれど……最初から二本……いえ、下手をすればそれ以上の本数がフルムスに持ち込まれているってのは流石に想定外ね」

「「「!?」」」

 そして、私の返した言葉によって、場の空気は氷点下と言っていいほどに冷たくなっていく。

 しかし、可能性が無いわけではない。

 作成者が複数本作っているとしか思えない名前を付けている以上、これは当然の話とも言える。


「ええ、確認されただけで二本。保護された五人の話では、サメトレッドは商談中に突然おかしくなり、両手に一本ずつ剣を持って暴れ始めた。自分たちが襲われそうになったタイミングで、片方の剣が何処からか飛んできた矢によって弾かれて何処かに行った。サメトレッドは矢を放った主を襲いに行き、そのおかげで逃げる事が出来た。だそうだから、三本目以降を持っていてもおかしくは無いわ」

「そう、手荷物に不審な空きの類は?」

「現状では確認されず。二本目の行方も不明。だから、ギルマスも私たちはE12に集中するようにとの事よ」

「分かったわ」

 だが、二本目以降の捜索は私たちの仕事ではない。

 むしろ、二本目以降の捜索を憂いなく出来るようにするためにも、私たちは目の前の相手に対処するべきだろう。


「で、最後にもう一つ悪い話。E12が入り込んだフルムス遊水迷路だけど、私たちが封鎖をする前に複数人のプレイヤーが中に入り込んでいるわ。それも、E12が入った事を理解した上でね」

「……」

 で、最後の悪い話だが……。


「死ぬのは自己責任だけど、死後にアンデッド化されて、こっちの迷惑になる辺りが面倒くさいわね……」

 単純に面倒くさい話である。


「流石はエオナね。その気持ちには同意だけど、まさか躊躇いもなく言うとは思わなかったわ」

「事実じゃない」

「事実でも言っていい事と悪い事があるのよ。アンタにその辺の機微は分からないでしょうけど」

「そうね。どうにも分からないわ。あ、一応聞くけど救助は……」

「出さないわよ。何も知らずにフルムス遊水迷路に入ったならともかく、知っていて入ったなら、自己責任よ。私たちの戦闘の難易度は上がるけど、二次災害を起こすよりかはマシ」

「妥当な判断ね」

 ウルツァイトさんが私とサロメの事を睨みつけるような目をしている。

 だが、この決定を覆す気は私にもサロメにもない。

 人の命に貴賤は無いかもしれないが、助けるのにかかるリスクはしっかりと考えるべきであり、碌に情報を集めず自分から虎穴に入るような者まで助ける力は今の私たちには無いのだから。


「何にせよ、作戦の実行は明日ね。薬の製造も、切り札とやらも明日の朝までは出来ない。これから必要な物を話し合って準備するのだって、明日の午前いっぱいはかかるでしょ」

「そうね。あ、私とサロメ以外のメンバーは?」

「未定。ギルマスが集めてみるとは言っていたけど……最悪、私とエオナの二人だけで挑む可能性もあるわ」

「分かったわ。まあ、実力者だけの方が都合がいい相手だし、メンバーが居ないなら居ないで、何とかするしかないわね」

 そうして、今日この場は解散。

 メイグイたちは自分の住居に戻り、私、サロメ、シヨンはこの場に留まって、サロメとシヨンが眠くなるまでどう戦うかを話し合った。

09/03誤字訂正

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