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17:カミキリ城の戦い-2

「兎にも角にもまずは往生するがいい!エオナアアァァ!!」

「む……」

 魔蟲王マラシアカが戦闘態勢に入った直後。

 私の認識に変化が生じる。

 魔蟲王マラシアカとして認識し続けていた相手の名前が『皆断ちの魔蟲王マラシアカ』に変化する。


「死ねい!」

 マラシアカが手に持った四本の槍を私に向かって投げてくる。

 マラシアカの動作はゲーム時代のそれと全く同じであり、それを見た私は右へ跳んで一本目を回避。

 金属で全体を覆われた槍は轟音を響かせながら石畳に深く突き刺さる。


「ふんっ!」

 続けて左へ跳んで二本目を回避。


「逃がさぬ!」

 そこから更に前へ跳んで三本目を回避。

 そして四本目を避けようとして斜め右前へ跳び……


「この化け物が!」

 私が避けた先へ直撃するように投じられた四本目の金属で覆われた槍を見る。


「せいっ!」

 だから私は咄嗟に両手で剣を振るい、四本目の槍の軌道を無理やりに逸らし、逸らされた四本目の槍はギリギリのところで私の体に触れず、ホールの床に突き刺さる。

 だが、この一撃によって私の動きは完全に止まってしまっていた。


「死に晒せええぇぇ!」

 そんな私に向けて、マラシアカの手の内に再生成された土と金属が入り混じった四本の槍が同時に投じられる。

 直撃すれば確実に死ぬ。

 私はそう判断した。


「『サクルメンテ・ウォタ・エクイプ・エンチャ・フュンフ』!」

 故にアイテム欄より盾……ローゼンクライスを取り出した私は即座に詠唱。

 円と維持の神サクルメンテ様の特性もあって、円形の盾の強度は飛躍的に向上する。

 直後、四本の槍が盾にぶつかり……


「ぐっ……慣れってのは怖いものね……」

「まったくだ。その点については我も同意しよう」

 盾を突き破った槍はほんの僅かに軌道が逸れて、私の腹や腕の端を抉るも、致命傷を免れることには成功する。


「はぁはぁ、つい癖で同じ動きをしちゃったわ。もう違うのにね」

「我もまだ慣れぬな。今の一撃で完全な金属性の槍を生み出せていれば、その木属性寄りの盾を貫いて殺せてたというものよ」

 何が起きたのかは分かっている。

 マラシアカは既に『Full Faith ONLine』の存在ではなく『フィーデイ』の存在。

 故に今もこうしてボス部屋ではなく玄関ホールに居るわけだが……当然ながら他にも変化が生じている。

 四本目の槍を投じる先を変える。

 順に投じるのではなく一斉に投じる。

 土属性ではなく金属性の槍を生み出す。

 そんな思考面の変化が生じている。

 いや、思考の枷が外されている。

 ヤルダバオトの力によって。


「そして、一撃で殺せねば平然と再生するか。つくづく化け物よなぁ」

「ふん。持久戦はスィルローゼ神官の得意分野よ。『スィルローゼ・プラト・ワン・ヒル・ツェーン』」

 事前にかけておいた再生魔法によって私の体の修復が始まる。

 そして、続けてかけた回復魔法によって私の体は傷一つない状態に戻っていく。

 そうして回復が終わると同時に……


「魔法隊撃てええぇぇ!!」

「「「『ヤルダバオト・メタル・ワン・ボルト・アイ……』っつ!?」」」

「『スィルローゼ・プラト・エクイプ・ベノム=ソンウェプ・ノイン』」

 私は茨の鞭を振るって、マラシアカが会話によって気を引いている間に配置を済ませ、魔法を打ち込もうとしたカミキリ魔法兵たちを一掃する。


「やはりまだまだ練度が足らん……かああああぁっ!」

 マラシアカが口から緑色の粘液のブレスを放ってくる。

 私はマラシアカの傍に向けて、盾を捨てつつ飛び込み転がる事でそれを回避。


「せいっ!」

「その程度の攻撃が我に効くか!」

「ちっ」

 続けてマラシアカがブレスを吐き切るために必要な時間から攻撃が可能と判断して鞭を振るうが……元々吐き出すブレスの生成量を抑えていたのだろう、私が鞭を振るった時には既にマラシアカはブレスを吐き切り、金属で覆われた槍によって私の鞭を迎撃、防いでくる。


「だったら……『スィルローゼ・プラト……』」

 今のマラシアカはゲーム時代にあった隙を悉く潰している。

 そう判断した私は詠唱を始める。


「『ヤルダバオト・ミアズマ……』」

 同時にマラシアカも詠唱を始める。

 これについては部下のカミキリ魔法兵が使えて、上司であるマラシアカが全く使えないと言うのも妙な話であるから、想定の範囲内である。


「『……ラウド・スィル=ベノム=ソンカペト・アハト』」

「『……エリア・イロジョン=デストロ=ユズレスライズ……』」

 そして、やはり得て間もない力は使い慣れていないのだろう。

 私の詠唱の方が先に完成し、玄関ホールは触れた者に封印と毒の状態異常に加えて継続ダメージを与える茨の絨毯に覆われていく。

 その光景を前に、これでこちらにとって有利な場が形成される。

 私がそう思った瞬間だった。


「『……ディスペル・フュンフ』」

「なっ!?」

 私より一瞬遅くマラシアカの魔法が完成、発動。

 マラシアカに触れようとした茨の絨毯が、マラシアカに触れる直前に砕け散る。

 そして、それを皮切りに玄関ホールに敷き詰められつつあった茨の絨毯全てが吹き飛ぶ。


「死ねい!」

「くっ!?」

 マラシアカが槍を投げ、私は床を転がってそれを避ける。

 避けつつマラシアカが何故あの魔法を使ったのかを考える。

 考え、即座に理解する。


「領域魔法限定の解除魔法とは随分とまたピンポイントの魔法を使ってくるじゃない!」

「はんっ!当然の対策だろう!スィルローゼ神官の使う茨の絨毯には散々苦汁を飲まされたからなぁ!!」

 金属性を扱えるようになっていることと言い、マラシアカはスィルローゼ神官対策を様々な面から積んできている、と。


「まあいいわ。それならそれで手があるから」

「くくく、その強気が何時までもつか楽しみなものだな」

「マラシアカ様を援護するぞ!」

「「「おおっ!!」」」

 私は改めて剣を構える。

 マラシアカも槍を構える。

 そして玄関ホールの外周には、いつの間にか様々な得物を持ったカミキリ兵たちが集まってきていた。

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