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168:E12討伐準備-5

「とまあ、これが今の状況ね」

「「「……」」」

 メイグイたちと合流した私は、その場に居た護衛を兼ねているであろうサロメの部下たちも含めた全員にサロメと話し合った内容を伝えた。


「エオナ様の御力をもってしても、打倒が難しい相手……ですか」

「そうなるわね。とにかく相性が悪いわ。E12相手だと代行者としての姿を現すのは悪手にしかならないし」

「武器が植物化した状態で相手の攻撃を受け止めたら、エオナ様ごと呪いの対象に、そうでなくとも武器がやられる可能性は高い。と言う事ですね」

「そう言う事ね」

 私の話にメイグイは眉間にシワを寄せ、難しそうにしている。

 今、メイグイが話題に出したことはサロメとの話では出なかった事だが……いざ、E12と代行者モードでやり合えば、確かにそうなる可能性は高いだろう。

 うん、改めてではあるが、気付いておいてよかった。

 周りを不安にさせない為にも、表情には出さないが。


「厄介な話っすねぇ。あ、必要な物があったら、言うでやんすよ。マコトリス行商商会として、なんとしてでも揃えるでやんす。シヨンが」

「え!?」

「これも立派な行商人になるための一歩っすよ。なに、エオナ様なら、無茶ぶりはしても無理な依頼はしないでやんす」

「ええぇぇ……」

 シー・マコトリスは笑顔で、シヨンは想定外と言う感じの顔ではあるが、協力してくれる、と。

 実際、シー・マコトリスとシヨンが物資補充の担当をしてくれるというのであれば……正当な対価は必要となるが、物量を必要とする作戦でもどうにか出来るだろう。


「……」

「ウルツァイトさんは不満そうね」

「あー、それはその……」

 対照的にウルツァイトさんは不満そうな表情を浮かべている。

 理由は……まあ、分からなくもない。

 自分の友人の仇が何処に居るのか分かっているのに、その仇を討つ算段が立っていないと私は言っているようなものなのだから。


「不満そう、じゃなくて、実際に不満なんだよ。アタシは」

 だから、その目に殺意の炎が宿っている事も、今すぐにでも飛び出していきたいのを必死になって抑えている姿にも理解はする。

 しかし、それでも私は告げる。


「だったら、その不満はこちらが立てる作戦に沿う形で発揮して貰えるかしら」

「アタシが勝手に飛び出して、挑むとでも思っているような口振りだね」

「思っているから言っているのよ。今の貴方の態度と口振りはそう言う人間のものだから」

「……」

 ウルツァイトさんが私の事を仇でも見るように睨みつけてくる。


「エオナ様、そのウルツァイトさんは……」

「感情を封じる必要は無いわ。それは人が人らしく生きる上で欠かせない物だもの。でもね、今ここで感情に従って動き、E12に挑んだら、貴方も貴方が巻き込んだ人も確実に死ぬ。そして、私たちの勝機は今以上に無くなる。ここまでは確定事項よ」

「アタシではE12を名乗る剣には勝てないと?」

「勝てないならまだいい。貴方一人の責任で済むから。でもね、今のE12に殺されれば、それ以上の被害を招くことになる。それは絶対に避けるべき事案よ」

 だが、ここで退くわけにはいかない。

 退けば、ウルツァイトさんは一人でもE12に挑みかかり、殺されるだろう。

 それは絶対に駄目だ。

 一切の感情論を抜きにして、それは断言できる。


「それはどういう……」

「アンデッド化能力。あの能力はね、殺された相手が強ければ強いほど、強力なアンデッドを生み出す可能性がある。そうでなくとも、時間経過だけでなく、殺傷行為によっても強くなっていっている疑惑がある相手なのよ。これ以上の犠牲は看過できない。特に人間の犠牲はね」

 E12はアンデッド化能力を持っている。

 フルムスビグラットなどのフルムス周辺のモンスターをアンデッドにされる分には、何百体集まろうともどうとでもなるが、プレイヤーやNPCが対象になったのであれば……その被害は一気に増す可能性が高い。

 E12自身の元々の能力もあって、アンデッドになってから動ける時間は短いかもしれないが、それでも十分すぎるほどに脅威である。

 そして、E12は恐らく、私に追われている間にこの能力を得ている。

 新たな力を得るために必要な期間や力の量がどの程度なのかは分からないが……殺した相手によってはより多くの力を得て、早期に更なる能力を得る可能性だって考えておくべきだろう。


「だから、作戦が決まるまでは誰も挑ませるわけにはいかないって事かい?」

「ええ、そう言う事よ。誰がなんと言おうとも、これは絶対に曲げられない。E12は作戦なしで勝てるような相手ではないし、犠牲者が増えれば、それだけ勝機は無くなっていく」

「アタシのこの気持ちは……」

 ウルツァイトさんが勢いよく立ち上がろうとする。


「『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン・ツェーン』」

「っつ!?」

「「エオナ様!?」」

「お、躊躇わないっすねぇ」

 だから私は代行者としての姿を現した上で、即座に『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン・ツェーン』を発動。

 ウルツァイトさんを拘束した。


「アンタの事を化け物扱いする連中の気持ちが今更ながらによく分かった気がするよ……エオナ、アンタには人の心ってものがない」

「かもしれないわね。けれど、私にはどうでもいい事よ。今の私にとって重要なのはE12を確実に、被害を出来るだけ出さずに、早急に始末する事だから」

 化け物扱いは別に構わない。

 そんな事は私にとっても、今の状況にとっても些末事なのだから。


「間違ってもウルツァイトさんが勝手に挑まないように注意を払っておいて」

「分かりました」

「エオナ様は……」

「スィルローゼ様からの情報収集」

 そして私は沐浴を済ませると、スィルローゼ様にお会いするべく、『スィルローゼ・サンダ・ミ・オラクル・ツェーン』を発動した。

09/01誤字訂正

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