167:E12討伐準備-4
「盾役だけど……普通の盾役は駄目でしょうね」
「でしょうね。フルムス地下下水道の件でも石の壁を難なく切り裂いているし、ケッハメイ枢機卿の屋敷の件でも金属製の家具や武具の類を相手は切ってる。普通の盾で攻撃を防ごうとしたら、盾ごと切り裂かれて命を落とすのが見えているわ」
盾役の役目とは何か。
細かい部分にまで話を進めてしまうと色々とあるが、大雑把にまとめてしまうのであれば、敵の攻撃を自身に集中させることによって仲間を動きやすくする、これだろう。
その為に敵の攻撃を様々な方法でいなすのだ。
それはゲームであった『Full Faith ONLine』でも、現実となった『フィーデイ』でも変わらない。
「馬鹿げた切れ味よねぇ……しかも、特別な攻撃じゃなくて通常の攻撃でこの切れ味とか、本当にどうかしてるわ」
「まったくね。いったい、どういう作り方をしたら、そんな切れ味を得られるんだか」
では、敵の攻撃をいなす方法とは?
最も一般的なのは、盾で受け止めて防ぐ方法であり、攻撃の完全無効化は出来なくても、被ダメージを大幅に抑える事で、回復役が戦線を維持するのに必要な手数を大幅に減らす事が出来る。
が、今回の相手であるE12に対して、この防ぎ方は悪手である。
余りにも相手の攻撃力が高すぎるし、掠り傷ですら致命傷にしてくる呪いが存在しているからだ。
「で、エオナ。アンタはそんな威力の攻撃をどうやって凌いでいたのよ」
「普通に強化した剣で受け止めていたわ。ただ、私の剣はE12と作者とモチーフが同じ可能性が高い上に、使っている付与魔法も付与魔法だから……」
「あまり参考にはならないわね」
「まあ、最悪、私が盾役を務めればいいという選択肢があるだけでも、回復役に比べればマシな話ね」
なお、私がフルムス地下下水道でE12の攻撃を防いでいた件は参考にするべきではない。
私の剣はスオウノバラのデッドコピーであり、E12も同様、ならば同種の能力同士で何かしらの干渉があってもおかしくは無いからだ。
「理想は回避盾なのよね。ノワルニャンは?」
「ギルマスからの命令で何かをしているようよ。残念だけれど、今回の件への参加は無理」
一般的な方法でE12の攻撃を抑えるならば、やはり回避盾……魔法と身のこなしによって敵の攻撃を避け、被ダメージを0にしてしまう方法が適切だろう。
私の知る範囲で、それが出来るのはノワルニャンぐらいなのだが……どうやら、今はフルムスに居るかも怪しいようだ。
「ビッケンは……駄目ね」
「駄目でしょうね」
ビッケンも厳しいだろう。
ビッケンは盾役としてはサブに近いし、相手の大技を様々な方法で潰すことに適した盾役だからだ。
回避盾もこなせなくはないだろうが、専門ではない。
「いっそ回避系魔法を全員で常用……私でもなければMPが保たないし、攻撃できなくなるわね」
「そりゃあそうでしょうよ」
なお、ルナリド神官ならば、だいたいは攻撃回避用魔法の一つくらいは修めているだろうが……それは発動できると言う意味であって、回避盾として使えるという意味ではない。
なにせ、回避盾と言うのは、相手の攻撃に合わせて適切なタイミングで適切な回避方法を選択する必要がある役割。
詠唱を自分でする必要がある『Full Faith ONLine』では、一般的な盾よりもこなす難易度は確実に高い。
「なにか、確実に攻撃を防げる盾のような裏技は持ってないの?代行者なら、そう言うのの一つくらいあっても良さそうじゃない?強力なボスはだいたいそう言うの持っているんだし」
「裏技ねぇ……」
サロメが何かないかと尋ねてくる。
なので私は少々考えるわけだが……一つだけ思いついた。
「そうね。一つだけ思いついたわ」
私は私が生成できる薔薇水晶について話す。
「……。まさか、本当にあるとは思わなかったわ」
「ただ、上手くいくかどうかは微妙なところね」
「そうね」
エオナの薔薇水晶、それは私が生成できる素材の中で、唯一加工不可能とウルツァイトさんたちが匙を投げた素材であり、私にも加工方法が分からない難物である。
しかし、生み出す際には私の意思である程度形を変えて生み出すことも可能。
なので、盾になるような形で生成すれば、そう言う使い方も出来るとは思うのだが……
「加工方法が不明と言うだけで存在しないわけじゃない。それはつまり、偶然にE12が条件を満たす可能性もあると言う事。要は賭けになる」
「そして、賭けに負ければ支払うのは防ごうとした人間の命。他に手段がないなら賭けるのもやむを得ないという判断が出来るけど、進んで取りたい手段ではないわね」
負けた時のリスクが大きすぎる賭けである。
つまりは他に方法が見つからなかった時の最終手段だ。
「エオナ、スィルローゼへの相談は?スオウノバラがスィルローゼとヤルダバオトの神器だって言うなら、確実にスィルローゼは情報を持っているでしょ?」
「後で聞きに行くわ。本音を言えば、出来るだけ迷惑をかけたくはないけれど、今の状況だとそうも言ってられないもの。少なくともオリジナルのスオウノバラがどうなっているかだけでも確かめないといけないし」
「じゃあ、少し別行動ね。私はギルマスに条件を満たす人員が居るかの確認を取るから、その間にエオナは確認を」
「そうね。そうしましょうか」
手詰まりである。
少なくとも私たちだけでは、もうこれ以上話は進められない。
私もサロメもそう判断したからこそ、それぞれに動くこととなり、私はまずメイグイたちと合流することにした。
08/31誤字訂正