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166:E12討伐準備-3

「呪い……ね。強度としてはどのくらいなの?」

「具体的な数字は分からないわ。けれどドラグノフを救助した時に私が使った『スィルローゼ・プラト・ワン・キュア・アハト』は効果が無かったわ」

 『Full Faith ONLine』では様々な状態異常が存在していた。

 毒や暗闇と言った分かり易い物から、ダメージと回復が反転する逆転、受けたダメージに応じて最大HPも削られていく病気、などのような特殊なものまで、本当に色々とあった。


「……。アンタの汎用状態異常回復魔法が駄目って事は、特化でないと絶対に解除できないって事ね」

「そうなるわね。ルナリド様とサクルメンテ様の状態異常回復魔法ならともかく、スィルローゼ様の魔法を私は使った。状態異常回復魔法でも信仰値の影響は受けるはずだから、今の私なら汎用では解除不可と言う条件付けでもされていなければ、確実に治るはずよ」

 そして、それらの状態異常には強度と言うものが存在しており、基本的には強度が高い状態異常になればなるほどに効果が高くなると共に、解除も難しくなっていく。

 なので、それらの状態異常に対抗するために、状態異常の回復魔法にも等級と信仰値による補正が存在し、両者が高くなればなるほど、解除できる可能性は上がっていく。

 そんな訳で、スィルローゼ様の代行者である私が使う『スィルローゼ・プラト・ワン・キュア・アハト』は、等級としては8番目であるが、圧倒的な信仰値の補正によって、信仰値が255の人間の神官が使うツェーンの状態異常回復魔法よりも効果は高くなっており、それで解除できないと言う事は、特殊な条件付けが行われていると言う事でもある。


「つまり、最低でも汎用ではなく精神か肉体のどちらかに特化した回復……あー、ちょっと待って。何かおかしいわね」

「おかしい……そうね。言われてみればおかしいわね」

 では、相手の状態異常の特殊な条件付けとは何かという話になってくる。


「私は状態異常関係はあまり詳しくないけれど、相手が使っているのは呪いなのよね」

「ええ、そこは間違いないわ。でなければ肉体が消滅しても続いたりはしない」

「けれど、奪い取るのは相手の肉体の力なのよね」

「そうなるわね。ドラグノフは今も発狂してるけど、それは自分が死んだという事実の為で、精神と魂に対する呪いの影響は……ほぼ無いわね」

 呪いと言う状態異常は確かに妙なものだ。

 原理的には間違いなく魔法や魔力を利用したものであるが、実際にそれが作用するのは心身と魂……つまりは相手の全てだ。

 E12の呪いは影響先が肉体に特化しているが、根っこは変わらないだろう。


「じゃあ、何処を治せば、状態異常を治したことになるの?」

「それはかかっている呪いを解く……ん?」

 では、その呪いの根っことは、いったいどこにあるのだろうか?

 スヴェダにかかった呪いが今も続いていることからして、根っこは精神か魂のどちらかだと思うのだが、魂にかかった状態異常を治す手段などあっただろうか?

 精神に対してだとしても、何か妙な感じがある。


「エオナ、スオウノバラのクエストでは状態異常はどうしていたの?」

「専門のプレイヤーが一人居たわね。信仰も分からないし、どう言う魔法を使っていたのかも分からないわ。けれど、スオウノバラの状態異常を難なく治していたし、予防もしていたと思うわ」

「なるほど。E12が呪いだけはオリジナルを上回っている可能性はあるけれど、そう言う事が可能と言う事は……何かしらの対抗策はあるのね」

「ええ、それは間違いないはずよ」

 対抗策があるのは間違いない。

 『Full Faith ONLine』でやったスオウノバラのクエストでも、『ジェノレッジ』のプレイヤーは何度も状態異常にかかっていたはずだが、回復専門のプレイヤーが治していたはずである。

 しかし、彼女は……一体何をどのように治していたのだろうか?


「呪い特化の回復魔法使い……そんなの居たかしら?」

「私の知り合いには居ないわね」

「アンタの知り合いには元から期待してないわよ。ソロプレイヤーじゃない」

「……」

 うーん、流石に『ジェノレッジ』の神官の構成はよく分からない。

 あそこはモンスターと戦う事に特化しすぎていて、その結果としてよく分からない。

 それよりはサロメの言うように呪いに特化した回復魔法の使い手を探した方が早いだろうが……うんまあ、サロメの言うとおり、必要がない限りソロでプレイしてばかりだった私に、そんな繋がりは無い。


「ケンゴさんは?」

「あの人は状態異常については物理的なものに偏っている。今回の相手には向いてないわ」

 一応ではあるが、私は『満月の巡礼者』の医療部隊隊長であるケンゴさんの名前を挙げるが、彼は物理的な原因による状態異常の回復に偏っているらしい。


「直ぐに名前が出てこないって事は、たぶん、居ても有名じゃないのよね」

「そう言う事になるわね。まあ、呪いは状態異常の中でも使うモンスターが多いと言うか、イベントでよく出てくるものでもあるし、誰かしらは特化したのが居るはずだけど……ギルマスに確認してみるしかないわね」

「分かったわ」

 こうなってくると、後はサロメの言う通り、ルナに確認してみる他ないだろう。

 ルナならば、把握しているはずだ。

 もしも誰一人としていないのであれば……絶対に攻撃を受けない戦術でも組み立てるしかないだろう。


「後、今のうちに考えるべきは盾役についてね」

「そうね」

 だから、この件については一度棚上げして、私とサロメは盾役について考えることにした。

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