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165:E12討伐準備-2

「……。まあ、そうなるわよね」

 私に同行する事。

 ルナからの命令を受け取ったサロメは一度天を仰ぎ、そのまま暫く停止。

 それから苦虫を噛むような表情と共に同意の言葉を吐き出す。

 どうやらE12と直接やり合うのは、サロメとしても厳しいと判断したらしい。


「今から突入する?」

「いいえ、今回の相手はきちんとした策を整えた上で挑まないと、勝負にすらならない可能性が高いわ。だから、まずはこの場で策を練って、それから必要な物を集める。戦うのはそれからね」

「妥当な判断ね」

 サロメがフルムス遊水迷路の入口……フルムス各所に置かれている物見台の根元部分に作られた、地下へと下りる階段へと視線を向ける。

 すると、ちょうどフルムス遊水迷路に生息するモンスター……フルムスビグラットがアンデッド化した上で、階段を上がってくるところだった。


「『ルナリド・ダク・フロト=アンデド・ピュリファイ・フュンフ』」

「『ルナリド・ダク・フロト=アンデド・ピュリファイ・ツェーン』」

「!?」

 私とサロメが対アンデッド用浄化魔法を同時に放つ。

 それだけで私たちの視界に居たフルムスビグラットだけでなく、その後に続こうとしていたアンデッド化モンスターたちもまとめて浄化され、消滅する。


「ツェーンは流石に過剰火力じゃないかしら?」

「反射持ちとかは別として、そうでないなら、相手の実力が見えない間は最高火力が適切よ。討ち漏らしを出す方が怖いわ」

「そう。まあ、MPに問題が無いなら、個人の自由ね」

 アンデッド化したモンスターたちの元のレベルは高くても20前後。

 アンデッド化が強化を伴う物であっても、30は超えないだろう。

 となれば、私のフュンフでも過剰なぐらいなのだろうが……まあ、サロメの言うとおり、討ち漏らしの方が怖いから、問題は無いか。


「それで、フルムス遊水迷路の状況は?」

「アンタの指示通りに入り口を封鎖してからは、中には誰も踏み入らせてないわ。封鎖前に入った人間が居るかは調査中」

「ふむ」

「監視については入り口だけでなく、フルムス遊水迷路が存在している空間の周囲を走る地下下水道も対象に含む形で、有効と思われる探査魔法を常時起動しているわ」

「常時起動?」

 サロメの言葉に私は少し訝しむ。

 探知の為の魔法は常時起動し続けるには少々負担が大きいはずなのだが、大丈夫なのだろうか?


「心配しなくても探査魔法専門の6人PTを複数用意して、ローテーションでの発動よ。監視に切れ目は無いし、無理もさせてないわ。当然、護衛もしっかり入れてある。ダンジョンの中は分からないけど、気付かれずに逃げられる心配だけはしなくてもいいわ」

「なるほど」

 が、私の懸念事項程度、想定の範囲内なのだろう。

 サロメは何の心配もする必要がないことを、探査魔法の態勢を説明する事で示す。


「ついでに言えば、さっきは私たちで対処をしたけれど、対アンデッド専門のPTも三つ準備済みだし、回避魔法専門のPTなんかも用意してあるわ。だから少なくとも、逃げる間もなく全員バッサリ、と言う心配はしなくていいと思うわ」

「流石は『満月の巡礼者』と言う感じね。人員の層の厚みが段違いだわ」

「ま、そう言う事ね。ああそうだ、ウルツァイトたちもそこの前線本部に居るから、安心しなさい」

「分かったわ」

 で、E12自身が外に出てきた場合の備えもある程度は出来ている、と。

 どこまで通用するかは分からないが、確かに何も出来ずにと言う心配はしなくてよさそうだ。


「それで?」

「それで?」

「アンタ、策を練るとか言ってたでしょ。草案ぐらいはあるんでしょ?教えなさいよ」

「そうね。話を進めましょうか」

 さて、外の守りが問題ないと分かったところで、E12をどう討伐するのかと言う本題である。


「まず前提として、E12はスィルローゼ様の神器であるスオウノバラの模造品(デッドコピー)、能力を模倣したものと私は考えているわ」

「それは分かってる」

「だから、E12との戦いでも、スオウノバラとの戦い方を一部だけど流用しようと考えているわ」

「ま、妥当な話ね。それで?」

 E12はスオウノバラの模造品。

 この点については、私はもう疑っていない。

 だから、私がかつて『ジェノレッジ』と共にこなしたクエストでの経験は活かせるだろう。


「とりあえず、今の持ち手については骨の欠片も残さないレベルで焼き尽くす事になるわ」

「……。そのレベル?」

「そのレベルよ。ゲーム時代の話だけど、スオウノバラを握ったモンスターのHPがゼロになった程度なら、体内に微かに残る生命力を搾り取る事でスオウノバラは持ち手を操り、平然と暴れ続けるのよ。アンデッド化能力まで手にしたE12なら……骨だけになっても構わず動き続けるでしょうね」

「まあ、私なら実現できない火力ではないわね……」

 私はスオウノバラのクエストの内容を思い出しながら、話を進める。


「その上でE12をどう破壊するかだけど……これについては火属性の遠隔攻撃魔法を中心に削り切るしかないでしょうね。馬鹿みたいに頑丈そうだけど、神器ではないから、壊すこと自体は可能なはず。ああ、出来るだけ範囲系の魔法を使った方がいいわね」

「拘束、封印系の魔法は通用しないから、新たな持ち手の登場を防ぐ意味でも、と言う事ね」

「そう言う事よ。細かい部分は他のメンバーを決めてからになるけど、大筋はこんなところね」

 攻撃面については……サロメが居る時点でそれほど心配はしていない。

 サロメは遠隔攻撃魔法の専門家であるはずだし、今の状況には最も適していると言えるからだ。


「問題は……掠り傷すら致命傷にする呪いと石の壁でも難なく切り裂く切れ味、この二つにどう対処するかと言う防御面の話よ」

 だから問題は、敵の攻撃にどう対処をするのかである。

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