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164:E12討伐準備-1

「壁を切り裂いて自動生成ダンジョンに逃げ込む……か。流石にその逃げ方は想定していなかったな」

 地上に戻った私は、直ぐにサロメへE12が何処かのダンジョンへと逃げ込んだことを知らせた。

 また、絶対にダンジョンの中に入らないようにも言っておく。

 そうしてサロメたちにE12が逃げ込んだであろうダンジョンの入り口を抑えてもらうと、私はルナに会い、ほぼ同様の説明を行った。


「そうね。私も考えていなかった。と言うか、自動生成系のダンジョンなら、その構築上、空間が複雑に捻じれていて、その捻じれが障壁のようになって、外からの不正な侵入を拒むはずなのよ。まさか、それを切れるだけの能力を相手が有しているとは思っていなかったわ」

「なるほどな。代行者の立場で見たとしても、異常な現象と言う事か」

 私とルナは揃ってため息を吐く。

 私はどうやればE12を探し出して仕留められるかという点から。

 ルナは、恐らくここからフルムス全体でどう対応していくべきかという点から。


「E12が逃げ込んだダンジョンの正確な情報は?」

「フルムス内の自動生成ダンジョン、それも迷路型となれば、候補は一つだけだ」

 ルナが棚から資料を取り出して、私に見せてくる。

 ダンジョンの名称は『フルムス遊水迷路』、『Full Faith ONLine』時代の推奨レベルは浅い層で10台、深層でも20台。

 クレセート周辺における自動生成ダンジョンのチュートリアル的ダンジョンのようだ。


「なんでこんなものが?」

「ゲーム的にはチュートリアル。現実的にはフルムス地下下水道で抑えきれない量の水が流れ込んだ時の遊水地。それにフルムス全体で発生している空間の歪みやモンスターなどの辻褄を合わせている場所じゃないかと言っている奴も居るな」

「辻褄合わせ?」

「資料や記憶を辿っていくと、ある程度以上に大きな都市には、必ずこう言う空間や領域が用意されているらしい。だから、ある種の緩衝地帯も兼ねているんじゃないかと言う憶測だ。未実装領域にも近いが……詳細はそれこそ神様たちでなければ分からないだろう」

「なるほど」

 存在理由についてはよく分からない、と。

 他は……資料を読む限り、私が行ったフルムス周辺のリポップ正常化の影響はきちんと受けているようで、中で発生したモンスターが外に出てくるようなことは無いらしい。

 ボスモンスターについても異常は見受けられない。

 なるほど、入口の管理さえきちんとしておけば、何かと便利な都市内ダンジョンとして、色々と使えるわけか。


「さて、私からまず出せるのはこれくらいだが……エオナ、E12については他にも色々と話せることがあるな」

「ええ、勿論あるわ」

 私はE12を追う事になった経緯から、戦闘の流れ、それから把握した能力について説明。

 これらの情報を聞いたルナは、直ぐにサロメたちへと連絡を飛ばし、改めて入口の封鎖に専念するように指示を出す。


「スィルローゼの代行者であるお前の封印が効果なし、か。となると拘束系の魔法やアイテムの類はまず効果がないだろうな。なるほど、確かに追うならきちんと準備を整えてからにするべきだ」

「そうね。元々の能力もかなり厄介だし、対策をきちんと練らないと、被害が拡大するばかりだと思うわ」

「それで?最近生まれたばかりであろうE12がこれほどの能力を持っている理由はなんだ?何か察しているんだろう?」

「……。完全な憶測よ?」

「構わない。それでも手掛かりにはなる」

 E12の能力の源泉。

 それについて私が察していることに、ルナも気づいているらしい。


「恐らくだけど、E12はスオウノバラの模造品よ。見た目じゃなくて能力面のね。そして、見た目だけならともかく、能力面での模造品を作ろうと思うのなら、現物を知らないとお話にならないでしょう。私の知る限り、スオウノバラの現物を知っていて、しかも模造品を作れそうな技術を持っている人間は……一人しか居ないわ」

「……。エオナの剣の製作者、G35と言う名前のプレイヤー、だったか」

 ルナには既にスオウノバラがどんなものかを話してある。

 だから、E12の能力とスオウノバラの能力が強さを除けば、非常に似通っている事も直ぐに通じる。

 その上で私が懸念を持っている事を伝えれば……結論は一つだ。


「その『ジェノレッジ』のG35がE12を名乗る魔剣の製作者である、お前はそう思っていると言う事でいいのか?エオナ」

 グミコが何かしらの理由でもってE12を生み出した、これ以外にない。


「ええ、問題ないわ。で、逆に聞きたいのだけど、今の『ジェノレッジ』の状況は?ポエナ山地に籠り続けてもらうのにしても、こちらに出て来てもらうにしても、連絡ぐらいは取ろうとしているんでしょ?」

「調査中、としか言えないな。『ジェノレッジ』と連絡を取りたいのは事実だが、現実となった今だとポエナ山地の危険度は跳ね上がっている。それこそ、浅層の調査ですら、大いに手こずるほどにな」

「そう、なら真実は今しばらくは不明、と言う事ね」

 だが、残念ながら現在の状況では『ジェノレッジ』がどうなっているのかさえ分からないらしい。

 ならば、製作者を追い詰めるのも、今しばらくは無理だろう。


「ルナ、私はE12の討伐に動くわ。それで……」

「討伐はエオナ自身を含めた6人1組の単独PTでやればいい。ダンジョンの大きさと敵の能力を考えたら、人数を増やしてどうにかなる相手でもないからな。私は出られないが、サロメは必ず連れて行け。金属で出来た剣を破壊するなら、サロメの魔法はあった方がいいし、お前のお目付け役が居ないと、ダンジョン丸ごと吹き飛ばそうという発想になりかねない」

「……。話が早くて助かるわ。じゃ、私は行くわね」

「ああ、よろしく頼む」

 そして、今一番に対応するべきは製作者ではなくE12。

 そうして私はサロメと合流するべく、フルムス遊水迷路の入り口へと向かった。

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