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163:状況が変わる-4

「死ねぇ!!」

 フルムス地下下水道の石で出来た壁を破壊しつつ、E12の巨大化した刃が私目掛けて迫ってくる。


「くっ!?」

 それを私は正面から剣で受け止めるが……重い。

 魔法での強化は重ねてあるが、代行者としての姿を現していないために魔法の出力も落ちている今の状態では、E12の攻撃はかなりキツいもののようだ。


「貴様ら!人間は!我の糧に!なっていれば!いいのだ!!」

「やけに苛立っているわね……」

 が、E12がどれほど激しく攻撃を仕掛けてこようとも、逃げ場がなく、武器で攻撃を受け止めるしかない現状で代行者としての姿を現すのはリスクが大きすぎる。

 なにせ代行者としての姿を現せば、私の手に持つ剣は植物化するし、そうなれば常用している魔法の都合上、私の一部として認識されるようになる。

 するとE12の能力は私の剣を通じて、私本体にまでかかってくる可能性が高い。

 能力の詳細が分からない現状でそれは致命傷以外の何物でもないだろう。


「私は事実しか言った覚えが無いのだけど」

「黙れええぇぇ!!」

 幸いと言うべきか、今のE12は激昂していて、その剣筋はとても素直な物になっている。

 何かしらの能力によって巨大化した自分を力任せに振るわせているだけで、技術と言うものがまるでない。

 これならば、剣が保つ限りは攻撃を防げるだろう。

 そして、これだけの破壊を周囲に撒き散らしているのなら……


「っつ!?」

「ま、こうなるわよね」

 フルムス地下下水道の天井が崩れ落ち始める。

 巨大な瓦礫が何個も落ちて来て、粉塵を巻き上げる。


「くっ……こんなもの……!」

 E12はそれでも私を仕留めるべく自分を振らせるが、持ち手である男の体に瓦礫が幾つも当たるため、私を仕留められるよう満足に振る事は出来ていないようだ。

 私の位置も把握できていないようであるし、その姿ははっきり言って隙だらけと言えた。


「グマッ!」

「バウッ!」

「何ッ!?」

 そして、そんな隙を見逃すようなアユシとスリサズではない。

 二人は自分の体を小型化してE12に接近し、間合いに入ったところで私に許可を求めて本来のサイズにまで巨大化。

 アユシは金属化した腕を振るって男の上半身を吹き飛ばす。

 スリサズは吹き飛んだ男の上半身に追い付くと、二の腕に噛みついて食い千切る。


「!?」

「ナイスよ。二人とも」

「バウッ」

「ガウッ」

 男の肘から先だけになった手と、元のサイズに戻ったE12が壁に叩きつけられる。

 アユシに殴られる前に死体になっていたためだろう、男の体からの出血は殆どなく、流れ出る血にしても赤よりも黒に近い。

 そして、壁に血痕を残しながら、ゆっくりと、意思なくずり落ちていく。

 そうして下水道の床に転がる姿は、傍目には戦闘能力を失ったようにも見えるが……私たちは知っている。


「ただ、問題は此処からなのよね。腕だけで行動できるのはサメトレッドの件で分かってるし」

「「……」」

 E12はこの状態からでもまだ動ける。

 だから私は勿論のこと、スリサズとアユシも警戒は解いていない。

 開いた天井からは、日光と何が起きたのかとざわつく人々の声が聞こえてきているが、そちらに割く余裕のようなものは私たちには無い。


「さて、どう攻めましょうか」

 私たちは三人で相手を囲むように位置取りを変える。

 E12に動きはない。


「……」

 E12の倒し方は……とりあえず刃を叩き折るのは確定でいいだろう。

 誰がどんな風に作ったのかは分からないが、刃を叩き折ってしまえば、それだけでも出来る事は殆ど無くなるはずだ。

 その後は……浄化関係の魔法をこれでもかと掛けた上で溶かしてみて、様子を見てみるくらいで適切か。


「『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン=ベノム=スィル・ツェーン』」

 私は死んだふりとでも言うべき姿を晒しているE12を抑えるために、拘束魔法を放つ。


「!」

「む……」

 が、E12は自分の死んだふりが通じていない事を察したのか、私が魔法を発動すると同時に自分の体を動かして、絡みつこうとした茨を全てを難なく切り捨てる。

 その光景は私に一つの疑念を持たせるのには十分な光景だった。


「バウッ?」

「二人とも気を付けなさい。本人は無銘の数打ちと思い込んでいたようだけど、アレは出来のいい模造品と言った方が正しいわ。オリジナルに比べたら玩具のようなものかもしれないけど、それでも私と今の貴方たちにとっては天敵に近い」

「グマ?」

「アレで切られたら、最悪『エオナガルド』に居る貴方たちの本体が地獄以上の苦しみと共にエネルギーを吸い取られ続けるようになりかねないって事よ」

「「……」」

 この疑念が正しいかについては戦闘が終わってから、確かめるとしよう。

 ルナならば、何か知っているはずだ。

 それよりも今は、目の前の事。

 私はE12の攻撃をスリサズとアユシが受けた際に、自分の意志で今の茨の肉体を捨てて『エオナガルド』に戻れるように調整を施す。


「構えなさい。死んだふりがバレている以上、かかってくるわよ」

「バウ」

「グマ」

「……」

 E12がゆっくりとその場に浮かび上がる。

 どうやら、誰かが持っていさえすれば、その誰かの体を浮かすことで、動き回る事が出来るらしい。

 そしてE12は……


「!」

「しまった!?」

 逃げ出した。

 他の水路へでもない。

 大きく開いた天井でもない。

 自分が叩きつけられた壁の向こう側に広がる空間へ、素早く壁を切り裂いて行ってしまった。

 当然、私はE12の後を追おうとした。


「うげっ……」

 だが、壁の向こうに広がる光景を見た時点で、私には踏み込む事を諦める選択肢しか残っていなかった。


「自動生成ダンジョン、それも迷路型……」

 そこに広がっていたのは入る度に構造が変化する自動生成系のダンジョン。

 それも私が最も苦手とする、複雑に入り組んだ通路のみで構築されている迷路型のダンジョンだった。


「閉じた……」

「バウ……」

「ガウ……」

 そして、不正な方法で開かれた入り口だったためだろう、私が入る事を躊躇っている間に壁に切り開かれた入り口は閉ざされ、中に入る事は出来なくなってしまった。


「上に行くわよ。急いでルナに話さないといけないわ」

「バウッ」

「グマッ」

 私はスリサズに跨り、アユシを子熊サイズにして抱えると、E12が開けた天井から地上へと移動した。

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