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158:一夜明けて-2

「おや、久しぶりっすね。エオナ様」

「あ、お久しぶりです。エオナ様」

「シー・マコトリスにシヨンじゃない。久しぶりね」

 ウルツァイトさんが居る鍛冶工房に向かった私とメイグイの前に現れたのは、ロズヴァレ村で出会い、別れたシヨンとシー・マコトリスの二人だった。


「えーと?」

「説明するわ。メイグイ。彼女はシヨンと言って、『悪神の宣戦』以降にロズヴァレ村で会ったプレイヤーよ」

 私はメイグイにシヨンについての説明をする。

 シー・マコトリスについては……説明しなくても大丈夫だろう。

 マコトリス行商協会は『Full Faith ONLine』のプレイヤーなら、大なり小なり世話になっているはずだし。


「あっしの説明は無しっすか」

「マコトリス行商協会の十女。これ以上の説明が今必要?」

「ま、必要ないっすねー。むしろ今必要なのは、そこの『満月の巡礼者』所属の神官様についてっすね」

「メイグイについてね。分かったわ」

 で、話をスムーズにするために、メイグイについても二人に説明をする。

 そうして、一通り話をすると……


「エオナ様のお付き……」

「厄介ごとを押し付けられた感が半端ないっすねぇ」

「ははははは……」

「まあ、スィルローゼ様の代行者である私の付き人ってだけでも面倒事を持ち込む奴はいそうよね」

 シヨンは少々羨ましそうに、シー・マコトリスは哀れむような視線をメイグイに送り、メイグイは乾いた笑い声をあげる。

 それに対して私が感想を述べると、どうしてかシー・マコトリスの視線に込められる哀れみが強まったが……何か心当たりでもあると言う事なのだろうか?

 まあ、これについてはまた今度でいいか。


「ま、お互いについてはこれくらいでいいでしょ。それで、二人はどうして此処に?フルムスに居るのは奪還について何処かで知ったからでしょうけど。此処は鍛冶工房よ?」

「鍛冶工房だからでやんすよ。あっしとシヨンは行商人。街から街へと荷を運び、売り捌くのが仕事でやんす。売る物によっては何処にだって持ち込むでやんすよ」

「ふうん」

 そう言うとシー・マコトリスは鍛冶工房の敷地内に停められている馬車を指で示す。

 恐らくだが、鍛冶工房で使う素材か道具のどちらかを積んでいるのだろう。

 で、無事に買い取ってもらえたなら、他の物を積んで、次の街へ、か。


「そう言うエオナ様の用件はなんでやんすか?」

「この鍛冶工房で私の武器を作ってもらっているの。今日尋ねたのもその一環ね」

 私はシー・マコトリスの横を通り、鍛冶工房のドアをノックする。

 反応は……ない。


「シー・マコトリス。貴方はもうこの鍛冶工房の人間には?」

「会ってないでやんす。煙突から煙は上がっているし、『満月の巡礼者』から売買の許可証を貰えた以上、誰かが居るのは間違いないはずでやんすが、もう10分ほど居留守を使われていることになるでやんすね」

「……」

 シー・マコトリスの出した許可証には『満月の巡礼者』の紋章が描かれたハンコと責任者であろう人物の署名が記されている。

 一応、メイグイに視線を寄越して、本物かどうかを尋ねるが、大きく頷いていることからして本物で間違いないだろう。


「シー・マコトリス。貴方はケッハメイ枢機卿の部下たちが殺されたことは?」

「瓦版の範疇でなら知っているでやんす。サメトレッドと言う行商人についてはよく知らないでやんすが……呪われた品を扱ってしまった辺り、品を探し出す目はあっても、品を評価する目は無かったようでやんすねぇ」

 私は鍛冶工房から少し離れて、異常が無いかを確かめる。

 シー・マコトリスの言うとおり、鍛冶工房は正しい位置から煙を上げている。

 人の気配……ちょっとした物音の類なども幾らかは感じる。


「んー、警告一回と言うところかしらね」

「は?」

「へ?」

「まあ、そう言う話になるでやんすよね」

 微妙なところだが、異常なしと見るには少々今はフルムス全体が不穏すぎるか。

 と言う訳でだ。


「ウルツァイトさん!10秒以内に何かしらの反応を示さなかった場合、窓をぶち抜いて侵入するわ!!」

 私は確実に鍛冶工房の中にも伝わるような声量で声を出す。

 そして、クラウチングスタートの姿勢を取り、その時を持つ。


「10、9、8……」

 魔力を全身に漲らせ、スリサズの能力の起動準備も当然しておく。


「7、6、5……」

 内部が酸欠状態になっている可能性を考えて、代行者の面を表に出し、光合成を一気に進めるための準備もしておく。


「4、3、2……」

「待った!待つんだよ!エオナ!!」

 が、杞憂で終わったらしい。


「まったく。居るならちゃんと反応しなさいよ。ウルツァイトさん」

 鍛冶工房の入り口から青い顔をしたウルツァイトさんが下着姿のまま、勢いよく飛び出してくる。


「勘弁してくれよ……。昨日は夜遅くに何処かの誰かさんによって叩き起こされて寝不足なんだから……。う、頭が痛い……」

「……」

 そして、うん、どうやらウルツァイトさんが出てこれなかった原因は……私にあったらしい。

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