155:惨殺事件-2
「新たな生存者はなし。死者24名。怪しい物品、隠し通路、呪いの類などは確認できませんでした」
「分かったわ。報告ありがとう」
私たちは屋敷の中を一通り見て回ったが、探知魔法の結果通りに生存者も不審者も発見されなかった。
その後、後続の部隊が到着。
死体の回収に現場の記録と言ったものを本格的に始める。
この時点で私とサロメは現場に居る必要がなくなったため、ルナの下に移動、一先ず分かっていることについて報告すると共に情報を共有することになった。
「ケッハメイ枢機卿の部下が使っていた屋敷が襲撃されたか……しかし、死体の数が合わないと言う事は生き残りが居ると言う事か?」
「そうなります。ケッハメイ枢機卿の部下なら、五人ほど私の顔見知りが居ますが、彼らの死体はありませんでした。エオナが保護しているのが……」
「私が保護しているのはその五人の護衛だった、偽名ドラグノフの少女だけよ。そっちの五人については分からないわ」
「分かった。なら、こっちで探そう。何か知っているかもしれない」
まず第一に、被害者はケッハメイ枢機卿の部下たちだったらしい。
なんでもあの屋敷はケッハメイ枢機卿がフルムスに持っている拠点だそうで、事件があった時にはケッハメイ枢機卿直属の部下が指揮を執る形で、フルムスの復興及びルナの周囲で不正行為が行われていないかを調べていたらしい。
なお、その直属の部下は執務室と思しき部屋で、誰かと話をしている間に切り殺されたような状態で見つかっているそうだ。
「で、そのドラグノフと言う偽名の少女に話を聞くのは?」
「現時点では無理ね。『エオナガルド』に移動させても生命力を奪われるのが止まらなくて肉体は死亡。今は魂だけの状態。おかげで激しく混乱しているわ。話を聞けるようになるのは……早くても数日後でしょうね」
「そうか」
スヴェダに話を聞くのは当分無理だろう。
体を持って生きている時は諦観のおかげもあって落ち着いていたが、魂だけになった今は生前に受けた切られた痛みと呪いのようなものによって生命力を奪われていく感覚を思い出し、激しく動揺……一時的な物ではあるだろうが、狂気に陥っている。
精神の安定が早く進むように処置はしているが……これ以上の手出しはスヴェダの精神衛生の為に出来ない。
「ケッハメイ枢機卿への連絡は?」
「もうしてある。ただ、往復で数日はかかるだろうな」
連絡については……私からは何も言えない。
「さて、ここまでが状況の確認。ここからが現状分かっていることからの推測だが……エオナ、まずはスオウノバラについて話してくれ」
「分かったわ」
私はルナとサロメの二人にスィルローゼ様とヤルダバオトの神器であるスオウノバラについての話をする。
話の内容としてはウルツァイトさんとメイグイの二人に話したのとほぼ同じだ。
だが、幾らか付け加えておく点がある。
「スオウノバラが操れる所有者に制限はほぼ無いと思っていいわ。ゴーレムや人形と言った、別に術者が存在しているものであっても、制御権を奪って自分の使い手にしてみせるし、ゴーストのような実体を持たない存在であっても操れるはず。私の記憶が確かなら念動系の魔法で掴もうとしても操られたはずよ。だからたぶん、スオウノバラに操られないのは、神様たちぐらいでしょうね」
「なるほど……」
「そして、スオウノバラの刃には、触れたものの生命力を奪い取る力と、生半可な封印や金属程度なら難なく切り裂けるような切れ味、ついでにアルテ系の攻撃魔法でも刃こぼれ一つ起こさないような頑丈さがある。正に剣の神器の名に相応しい力を持っているのよ」
「なんて厄介な……」
それは所有者操作能力と剣としての能力の破格具合。
高難易度のクエストに登場する神器に相応しく、桁違いの能力を有しているのである。
また、能力の一つである刃に触れたもの生命力を奪い取る力については……『Full Faith ONLine』で能力が行使された際の描写と、屋敷で見た死体の状態が酷似している、これも私がスオウノバラの関与を疑った理由として挙げていいだろう。
「確かに死体と現場の状況だけを見るなら、スオウノバラが関わっていてもおかしくはなさそうだな。だが……」
「ええ、ゲームの時通りのスオウノバラなら、こんな静かにフルムスに入ってこれないし、行方をくらませることも出来ない。入ってくる時には目に付いた生き物を襲いながら入ってくるでしょうし、仮に静かに入って来れても何処かで大量の人間が切られて騒ぎになるか、自殺した死体のそばにこれ見よがしに転がっているかのどちらかになるはずよ」
しかし、『Full Faith ONLine』の頃のスオウノバラがそのまま入ってくることはあり得ない。
絶対に騒ぎになるはずである。
だからこそ私も後回しにして大丈夫だと判断していたのだ。
「つまり、スオウノバラが関わっているなら、そう言う方向で成長したと言う事か」
「ええ、そう言う話になるわ。ボスたちが自分の住むエリアから出られるようになったり、ゲーム時代には持っていなかった能力を持つようになったのと同じ流れでね」
けれど、それは間違いだった。
本当にスオウノバラが今回の事件に関わっているならば……スオウノバラは成長している。
それもとても厄介な方向に。
「エオナ、アンタに一つ聞きたいんだけど、いいかしら?」
「何かしら?」
「そもそもとして、スオウノバラはどうしてそんな能力を持っているの?大抵の封印はあっさり切れるって、どう考えても、スィルローゼの神器としては不適格だとおもうんだけど?」
「ああ、それね」
と、ここでサロメが根本的な部分に対する疑問を呈してくれる。
それに対する私の答えは非常に簡単だ。
「ゲームの設定上、スオウノバラはマスターキーなのよ。何かしらの事情でもって解く方法が失われてしまった封印をどうしても開ける時に用いる神器なの。だからこそ封印を司るスィルローゼ様の神器であり、悪と叛乱の神であるヤルダバオトが干渉してくる神器でもあるのよ」
「「!?」」
スオウノバラは解けなくなってしまった封印を解除する鍵なのだから。