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152:肉の為の話-5

「と言う訳なのだけど……どうかしら?」

「「「……」」」

 私は私の考えた案をゴトスたちに伝えた。

 そして、私の話を聞いたゴトスたちは揃って顔を青ざめさせていた。


「必要な物があるなら、事前に言ってもらえれば……」

「それ以前の問題だ。エオナ」

 ゴトスが勢いよく私の両肩を掴む。

 その目はなんか色々と吹っ切れた感じで……簡単に言ってしまえば、据わっている。


「わ、我は断固として拒否するぞ!公開処刑される趣味は無い!」

「同じく!俺も全力で拒否する!」

「無理!痛いのヤダ!無理だから許して!!」

 ワンオバトーたちも慌てた様子で私の提案に対しての拒否をする。

 その姿には演技の類は一切なく、私の提案を本気で拒否しているのが見て取れた。


「そんなに嫌なの?」

「俺もワンオバトーたちと同意見だ。絶対に断らせてもらうぞ」

 私の肩を掴むゴトスの手に力が込められる。

 どうやら、本気で嫌らしい。


「うーん、エキシビジョンと言うか、パーティの催し物としては割とアリだと思うんだけど……」

「無い。絶対に無い。むしろドン引きする。とりあえず肉は食えねえよ」

「盛り上がるのはお互いの力量が拮抗しているからだと、我は言わせてもらうぞ」

「血なまぐさい気配なんぞ俺の毛皮と加工された肉だけで十分だっての……」

「ノー!絶対にノー!断じてノー!」

 ああうん、これは駄目か。

 私以外の誰一人として私の案……神様たちが作り出す生物5種類の中に含まれている、高度な実戦訓練の相手としての用途も持つ生物に人間とモンスターの混成PTを組んで挑むと言う見世物に参加する気がない。


「と言うか、どうしてもエキシビジョンマッチの類を見せたいなら、エオナが戦えばいいだろ。アンタなら問題なく倒せるようになっているんだろ」

「当然なっているわ。と言うより基本案はスィルローゼ様と私が組み上げたものだし、『エオナガルド』の特性上、私より強い生物なんて置いておけないわ。でも、だからこそ私は挑めないのよ」

「と言うと?」

 ゴトスの提案は考えなかったわけではない。

 だが、その提案には大きな問題がある。


「相手が何をしてくるのか一から十まで分かっていて、おまけに自分より弱い相手と戦って、客が喜ぶと思う?」

「よし、今の発言の後半部分を俺たちにも適応してくれ。明らかに俺たちは、お前が持ち込もうとしているその生物よりも弱い」

「そう?」

「そうだとも」

 これは……ブーメランと言う奴だろうか?

 ゴトスの言葉にワンオバトーたちも頷いているし、どうやらゴトスたちは本気で自分たちでは勝てないと思っているようだ。

 そして、面白くもならないと思っているらしい。

 うーん、私の見立て通りなら、むしろちょうど良いくらいで面白くなると思うのだが……本人たちにやる気が無いのであれば、やはり中止するしかないか。


「仕方が無いわね。じゃあ、当日はお披露目だけにしておきましょうか」

 私の言葉にゴトスたちは分かり易く安堵の息を漏らす。

 少々残念ではあるが、まあ、仕方がない。


「それで、これで話は終わりでいいのか?」

「ええ、話は終わり……」

 なんにせよ、これで連絡事項は終わり。

 後は一週間かけてゴトスたちにパーティの準備をしてもらい、当日に備えるだけである。

 だから私は話を切り上げようとした。

 その時だった。


「ん?」

「どうした?」

「まだ何かトラブルが?」

 私は妙な感覚を覚える。

 『エオナガルド』ではなく『フィーデイ』で。


「向こうで何かトラブル……かは分からないけど、妙なことが起きたみたいね」

「妙な事?」

「ええ、ドラグノフって偽名の少女に、所有権が私に残ったままの私の一部を持たせてあるんだけど……彼女から私の体が離れたわ」

「?」

 位置をトレースしていた、ドラグノフが持つ私の素材。

 その素材がドラグノフの手を離れた。

 だがそれは渡されたとか、譲渡されたとか、捨てられたとかではない。

 思わず落とした、そう評するのが正しい動きでだ。


「むっ……」

 そして切られた。

 素材が切られて、生命力を奪われて、私との繋がりも断たれて、塵に還った。

 刃物のような鋭い何かで。


「エオナ……」

「『フィーデイ』に戻るわ。これは対処をしないと拙い案件だから」

 分かったのはそれだけ。

 それだけであるが、看過してはいけない異常事態が『フィーデイ』で起きている事だけは間違いない。


「スリサズ、行くわよ」

「バウッ」

 だから私は意識を『エオナガルド』にある体から、『フィーデイ』にある体へと移動させる。

 そして直ぐに窓から飛び出して、真夜中のフルムスの道路に着地。


「『スィルローゼ・ウド・ミ・ブスタ・ツェーン』、『スィルローゼ・プラト・ラウド・ソンカペト・ツェーン』、『サクルメンテ・ウォタ・サクル・エクステ・フュンフ』、『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』」

 向かった先での戦闘を想定し、十分な強化を施した茨の領域を発生させ、それをまとめる事でスリサズの肉体を作り上げ、スリサズの意識を移し、跨る。


「うーん、予備の武器ぐらいは用意しておくべきだったわね。しくじったわ」

 スリサズに跨った私は、素材の気配が途切れた場所へと補助魔法をかけて戦闘の準備を整えつつ向かう。

 同時に右手に茨の棘で作った即興の短剣を生成しておく。

 全ての武器をウルツァイトさんに預けてしまったのはミスだと思うが……こうなってしまっては仕方がない。

 手持ちでどうにかするしかないだろう。


「さて……コレはひどいわね」

「……」

 そうして私が辿り着いた先で見たのは、住民の血で彩られ、むせ返るような血の匂いで満たされた一軒の屋敷だった。

08/16誤字訂正

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