149:肉の為の話-2
「じゃあ、こんな感じかな」
「そうですな。これでよいでしょう」
「これだけの数と種類が居れば、困る事もないでしょう」
「……」
私の提案した『エオナガルド』で飼育する三種類の生物の詳しい仕様について決定する会議だったが……気が付けば多数の神様が集まる会議になっていた。
何を言っているのか分からないと思うが、私にもよく分からない。
スィルローゼ様、ルナリド様、私の三人だけが居たはずの空間に、十何柱もの神様が集まっていたのだ。
「えーと……」
「困惑しているようですね。ですが、こうなる事は必然でもあるのですよ」
私の困惑を察しての事だろう。
陽と生命の神サンライ様と思しき、紫色の衣をまとった女神様が私に柔らかい笑みを向けてくる。
「と言うのもですね。『フィーデイ』はヤルダバオトの支配下にあるとはいえ何かと不安定で隙もある世界。『エオナガルド』は貴方が自由に出来る世界です。故にどちらの世界も正規の手順に従って干渉をするのであれば、そこまで大きな話にはなりません」
「は、はぁ……」
「しかし、それでもなお新たな種類の生物を生み出すと言うのは大変な事業なのです。既存の環境や社会に与える影響の考慮は当然必要ですし、生み出した生物が直ぐに滅びないようにするための根回しだっていります。リソース、法則、後は各自の権能の問題もありますね」
「なるほど」
サンライ様の仰っている事は分かる。
最初から決まっている仕様として、新たに生み出した生物そのものが『エオナガルド』の外に出ることはほぼ無いことになっている。
しかし、生物そのものが出ることは無くても、その生物が基になった物は幾らでも『エオナガルド』の外に出ていくことになる。
その際の影響は当然考慮するべきだろう。
「だから、シビメタ様にバンデス様、鳥や羊と言った生物を司っていそうな神様が居るんですね。御力をお借りするために」
「そう言う事ですね」
そして、新たな生物を作るにあたっては、木属性のスィルローゼ様と陰属性のルナリド様の二人だけでは色々と無理がある。
生命を司っているのはサンライ様であるし、五行で鳥が含まれる火を司っているのはバンデス様、羊と猪が含まれる金気を司っているのはシビメタ様だからだ。
だから、新しく生み出す生物に関わりのある神様たちがこうして一堂に会することになったのだろう。
あまりにも数が多すぎて、度肝を抜かれることになったが。
「そう言えば……」
と、此処で私はふと思う。
ルナリド様の本名がツクヨミノミコトであるならば、サンライ様の本名はその姉であるあの御方なのではないかと。
「あ、違いますよ。私はルナリドの姉ではありません。同じ太陽を司るものとして、親交はありますけど。後、エオナが元居た世界と私の関わりは『Full Faith ONLine』だけです。これでもう分かりますよね」
「……。はい」
心を読まれたのだろう。
サンライ様は私の想像を優しく否定する。
まあ、世界が地球と『フィーデイ』の二つだけしかないと言うのが妙な話であるし、つまりサンライ様は外なる世界の神様なのだろう。
それもクトゥルフ神話のような外なる世界の神様を扱った作品ですら記述されていない神様と見ていいはずだ。
「そうなると、何かしらの機会に恵まれて本名を知って、調べても、半分くらいは誰も知らない神様になりそうですね」
「半分どころか4分の3以上は分からないんじゃないかしら。スィルローゼのように極めてマイナーな存在も居る……っと、これは失言だったわね」
サンライ様の言葉に私は思わず片眉を上げる。
理由は単純。
サンライ様の言葉が事実ならば、スィルローゼ様は地球の歴史に何かしらの形で情報を残している神様と言う事になるのだから。
「サンライ様。私、絶対にヤルダバオトをシメて、他のプレイヤーを元の世界に戻して見せます。そして、その際ですが、私の体を一つくらい元の世界に送ってもよろしいでしょうか?」
「それは別に構わないけど……うーん、本当に失言だったわねぇ。くすくす」
調べなければいけない。
なんとしてでも。
スィルローゼ様の代行者として、これは譲れない。
邪魔をする事が確定しているヤルダバオトは……潰す、絶対に潰す。
既に決定事項ではあったが、私は決意を新たにする。
「エオナ、『エオナガルド』に生み出す生物の案が決まりました。問題がないか、確認してください」
「あ、はい。分かりました」
と、ここで他の神様と話し合いをしていたスィルローゼ様が私を呼んで下さったので、私はスィルローゼ様に近づき、書類を読ませてもらう。
そして、妙な仕様が無いかを確認。
もしも私に理解できない仕様があるならば、それについての説明をしてもらう。
元々『Full Faith ONLine』と言うゲームを作り出した神様たちだけあって、説明も含めてこう言う仕事がお好きなのだろう。
嫌な顔一つせずに懇切丁寧に説明をして、私を納得させてくれる。
「皆様、本当にありがとうございます。『エオナガルド』の為にこれほどまでに力を尽くしていただき、感謝の念しかありません」
「ま、ちょうどいい息抜きでもあったからね。気にしなくてもいいよ」
「ふふふ、エオナが喜んでくれて、私も嬉しいです」
そうして最終的に五種類の生物を『エオナガルド』で飼育することになり、私は大きく頭を下げた。
「それではエオナ。陽と生命の神サンライの名において、『フィーデイ』の時間でおおよそ一週間後にこれらの生物を『エオナガルド』に送らせていただきます。楽しみにしていてくださいね」
「はい、お待ちしています!」
やがて神託魔法の効果時間が切れた為だろう、私の意識は『フィーデイ』へと戻されていった。
08/13誤字訂正