前へ次へ
148/284

148:肉の為の話-1

 さて、今日の『フィーデイ』の活動は終わった。

 だが、今の私の活動は『エオナガルド』で行われるものもある。


「『スィルローゼ・サンダ・ミ・オラクル・ツェーン』」

 そして、『エオナガルド』で考えたそれをスィルローゼ様に伝えるために、私は神託魔法を使った。


「夜分遅く申し訳ありません。スィルローゼ様」

「こんばんわ。エオナ。以前も言いましたが、時間は気にしなくても大丈夫ですよ」

 スィルローゼ様の御前へ意識を飛ばした私は、スィルローゼ様の前で跪き、挨拶をする。


「それで用件は……『エオナガルド』で飼育する生物についてですね」

「はい、その通りです。こちらが『エオナガルド』の住民からの要望を私なりに取りまとめた物とルナリド様のご助言を合わせてみた案になります」

「読ませていただきますね」

 私はスィルローゼ様にまず三枚の紙を渡す。

 スィルローゼ様はじっくりとその紙の内容を読まれていく。


「なるほど、黄金の毛の羊、純銀の牙の猪、素銅(すあか)の羽の鶏、ですか。これならば肉や動物素材を得るだけではなく、作り方によっては他にも色々と出来そうですね。『エオナガルド』の特産にも出来そうです。しかし、数をどうするかの要望が書かれていないようですが……」

「申し訳ありません。私ではそれらの生物の創造にどの程度のリソースが必要になるかや、私の体でどの程度の数までなら維持が出来るのか分からなかったものでして」

「ああ、それは確かに。経験のないエオナだと分からないですよね。ちょっと待ってください。ルナリド様に相談してみます」

 スィルローゼ様が三枚の紙をスマートフォンのような端末で撮影した後、端末を操作する。

 すると直ぐに返事が来たらしく、スィルローゼ様が可愛らしく頷かれる。


「今からルナリド様がこちらに来られるようです。一緒に居たとかで、プログラーム様も……あれ?」

「ちょうど手が空いていたから来たよ。スィルローゼ、エオナ」

 そして、スィルローゼ様が返事を言い終える前に何処からともなくルナリド様が現れて、声を上げる。


「ルナリド様。プログラーム様は?一緒に居るから、エオナに紹介すると書かれていましたが……」

「僕もそのつもりだったんだけどね。エオナに会うと言った途端に雲隠れしたんだよ。彼にしては珍しい反応だった」

「確かに珍しいですね」

「?」

 どうやらルナリド様は『Full Faith ONLine』のメインプログラマーであったプログラーム様を連れてくるつもりであったらしい。

 たぶん、私が提案した生物を作成するにあたって、プログラーム様の助力があった方が何かとやりやすいからだろう。

 が、何故かプログラーム様は私と会う事を拒否して、雲隠れしたようだった。


「エオナ、一応聞くけど、プログラームが会う事を拒否するようになる心当たりはあるかい?」

「いえ全く。その、私が無意識的に嫌われるような真似をしていた可能性とかは否定できませんけど」

「だよねぇ。それに、無意識に嫌われるねぇ……バグが見つかったら見つかったで、どうしてバグが起きているのかを嬉々として調べて、自己進化に繋げる様な彼だし。君はチート行為やハラスメント行為とは無縁と言うか、むしろ制する側だったしなぁ……」

「そもそもとして、プログラーム様は会う方の好き嫌いとか殆ど無かったですよね。『世界は万事、学びの種である』とか言っていましたし」

 私には当然心当たりはない。

 と言うか、プログラーム様の名前自体、私が知ったのは『フィーデイ』に来てからだ。

 そしてルナリド様とスィルローゼ様にもプログラーム様の行動の理由は分からないらしい。


「んー、エオナの血縁に何かあるのかな?後でちょっとアチラの世界で調べてみるよ」

「アチラの世界……地球ですか」

「そうそう。先々まで考えて、出来るだけ事を荒立てずに今回の一件を終わらせるべく、今は情報封鎖による未確定領域状態にしてあるんだけど、過去を探るのは別に問題ないからね」

「未確定領域状態?もしかして……」

「おっと、この話は『フィーデイ』ではまだ広めないでくれ。君はもうこちら側だから構わないけれど、何も知らない方が処理がしやすくていいんだ」

「……。分かりました」

 ルナルド様は如何にも「しまった」と言う感じの表情を浮かべるが……どう考えてもワザとだろう。

 詳しいことは分からない。

 しかし、今の言葉だけでも分かる事がある。


「問題の元凶が片付かないと、無駄に希望を持たせるだけの話ですものね」

「何の事かなー」

「ルナリド様、流石にわざとらしすぎませんか……」

 やはり元の世界での私たちは居なくなっている。

 そして『Full Faith ONLine』の運営である神様たちは、『フィーデイ』に飛ばされたプレイヤーを元の世界に帰そうとしてくれている。

 その際に可能な限り元の時間に近い時間に帰そうとしてくれているのだろう。

 だから、情報封鎖によって、世界の外からの観測者をゼロにして、元の世界で事件発生から経過した時間を無かったことにしようとしているのだろう、たぶん。


「ま、元の世界の話やプログラームについては今は置いておこう。それよりもエオナが持ってきた『エオナガルド』で飼育する生物についてだ」

「はい、こちらが資料になります」

「ふむ……」

 話を打ち切ったルナリド様がスィルローゼ様から紙を受け取り、内容を読み始める。


「決められていない詳細部分については、こちらで決めてもいい、または僕たちに相談するべき事柄だと判断したのかな?」

「はい、その通りです」

「うん、ならば合格点だ。では、詳しい仕様を今から決定するとしよう」

「ほっ、良かったですね。エオナ」

「ありがとうございます。スィルローゼ様、ルナリド様」

 どうやら合格は貰えたらしい。

 スィルローゼ様、ルナリド様、それに私の話は、そのまま、詳細を決定する話に移っていった。

前へ次へ目次