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147:新たな武器の為に-5

「意外な結果になったな」

「んー、流石に技術を必要とする武器は使い慣れていないと駄目ね」

 ウルツァイトさんが用意してくれた武器は一通り試し終わった。

 なので、私はウルツァイトさんが結果をまとめている間に、スパーリングの相手になってくれていたワンオバトーと反省会をする事にする。


「それでもこれは想定外だろう。と言うより……」

 私とワンオバトーの視線が十数本の矢に向けられる。

 射手は当然私。

 使ったのは木製の本体に普通の糸を張った、強度だけはある弓であり、矢についても先端が綿にくるまれた安全性に配慮がある物である。

 であるが……


「放った瞬間に矢の先端に茨の棘が生え揃って、向かう先が金属性魔法で生み出された鋼鉄の壁でもなければ、容易く削り取っていくなど想定できるはずが無い」

 うん、しっかりと矢の中ほどまで、土で出来た壁、煉瓦で出来た壁、石畳の通路などに突き刺さっている。

 それも一本や二本ではなく、十何本も、それぞれてんでバラバラの位置で。


「尤も、それ以上に想定外なのは貴様の弓の腕前が嫌な意味で壊滅的な事か」

「不思議な話よねぇ。矢に棘が生えるのは使い慣れない武器だから、思わず力がこもってで納得いくんだけど……」

 そして、弓矢の扱い方を見る間、ワンオバトーも私も、開始地点から一歩たりとも動いていなかった。


「なんで、狙った方向から160度近くも逸れるなんて現象が起きるのかしら」

「本当に謎だ。我にもまるで理屈が分からん」

 なのに、どうしてか私が放った矢は一本たりともワンオバトーに向かわなかった。

 それどころか、射手である私の背後で屯していた『満月の巡礼者』のメンバーの顔を掠めるように飛んでいき、その後ろの壁に突き刺さるなどと言う珍現象かつ非常に危険な事態まで引き起こした。


「普通に考えて有り得ないわよね」

「我は弓に詳しくないが、魔法の類が働かなければ有り得ないとは思うぞ」

 その一射を以て、私の弓の扱い方を見るのは中止となった。

 まあ、妥当な判断だろう。

 私も流石に武器を試している最中に死人は出したくない。


「謎ね」

「とりあえずエオナ。貴様の遠距離攻撃は頼むから投擲と魔法だけにしておいてくれ。流石に危険すぎる」

「そうしておくわ」

 とりあえず、ワンオバトーの言うとおり、今後私が弓を扱うのは止めておくべきだろう。

 訓練するにしても、事故が起きらないと断言できる『エオナガルド』でだ。


「後は……やっぱり斧とか刀とか、そう言う普段扱っていない武器の扱いは苦手だったわね。特に斧」

「手斧ぐらいならばともかく、大型の斧については本当に駄目そうだったな」

 他に相性が良くなかった武器と言うと……斧、それも大斧と呼ばれるような、両手で扱う人並みの大きさを持った斧か。

 筋力的には何の問題もなく扱えるはずなのだが、どうしても重量や重心の位置に慣れる感じがなく、制御不能な状態で振り回される形になっていた。


「まあ、納得は行くんだけどね。斧は木を切る物。今の私にとっては在り方の相性がよくないから」

「なるほど。面白い理屈だな」

「それに困る話でもないわ。斧なんて使う予定無いし」

「それもそうか」

 まあ、弓と違って相性が悪い理由は分かっている。

 今の私は人の姿こそ見せているが、本質的には植物に近い。

 ならば、植物、特に木を切るために使われるような斧との相性がよくないのは妥当だろう。

 他に鎌や手斧も相性がよくない感じだったし、これでほぼ間違いないはずだ。


「……」

「ん?」

 問題はこの仕様が『Full Faith ONLine』の頃から実は隠れて存在していたのか、それとも『フィーデイ』になってから現れた仕様なのかだが……まあ、気にしても仕方が無いか。


「どうかしたのか?エオナ」

「大丈夫、ちょっと考え事をしていただけよ。じゃ、ワンオバトーご苦労様。肉の供給の目途がついたら、試食も兼ねて料理と酒を振舞わせてもらうわ」

「……。分かった。スリサズ、アユシの二人共々楽しみにしている」

 一通りの反省会が終わったと言う事で、私はワンオバトーを『エオナガルド』に戻す。

 ウルツァイトさんの様子は……ちょうどいい感じか。


「情報、十分かしら?」

「応用部分についてはそうだね。色々と面白い物を見させてもらったよ」

「……」

 現在の時刻は既に日が暮れ始めている。

 ウルツァイトさんの視線は、あの矢の一件で逃げていった『満月の巡礼者』のメンバーたちが居た場所に向けられている。


「あれ、ワザとじゃないわよ」

「……。だからこそ性質が悪いんだけどねぇ」

「エオナ様、今後絶対に弓は使わないでください。私、生きた心地がしなかったので」

「ワンオバトーにも言われたから大丈夫よ。とりあえず外では使わないわ」

「と、そう言う話じゃなかったね」

 色々と言いたそうにしつつも、視線を戻したウルツァイトさんが私の情報をまとめた紙を束ねると、話を進める。


「とりあえず作る武器については予定通り6種類、剣、盾、格闘用の拳甲と脚甲、槍、短剣で進めさせてもらうよ。他の武器は作っても意味がないか、要らぬ危険を招きそうだ」

「分かったわ」

「で、明日にでも今度はその6種類を使った基礎的な動作をこっちの指示に従ってやってみてもらう事になるね。今日はエオナの戦い方は見れたけど、その辺は見られなかったからね」

「うん、問題ないわ」

「後、細かく色々と見たいから、悪いけど今日は武器を置いていってくれ」

「ま、一日ぐらいなら大丈夫だろうし、了解よ」

 どうやら、武器作成の為の動作確認は今日一日では終わらないらしい。

 だが、これがより良い武器の製作に繋がるのであれば、やり甲斐もあると言うものである。

 なので私は一度大きく頷くと、求められたとおりに私の武器全てと追加の薔薇結晶をウルツァイトさんに渡す。

 それから、この場を後にして、今日の『フィーデイ』での活動を終えた。

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