146:新たな武器の為に-4
「なんというかねぇどっちもどっちだねぇ……」
私はワンオバトーから離れて、ワンオバトーが構え直すのを待つ。
暫く待つとワンオバトーも顔を手で覆って、軽く左右に振りながら立ち上がり、剣を構え直す。
「開始の合図を聞く気なしですもんねぇ……」
と言う訳で二回戦を開始。
私は先程と同じように瞬時に最高速に達してワンオバトーの前にまで移動、胸を短剣で突き刺そうとする。
が、ワンオバトーはそれを盾で防ぐと、直ぐに剣による反撃を試みてくる。
「ただまあ、どっちもひどくはあるが……」
なので私は横回転しつつしゃがんで攻撃を回避すると、ワンオバトーの右手側に潜り込み、回転の勢いを乗せた短剣でワンオバトーの右わき腹を深く抉る。
生きた人間ならば、肝動脈が傷つき、致命傷となる傷だ。
で、ついでに背中を勢いよく蹴り飛ばして、十分な距離を取る……と、見せかけてワンオバトーの首に手首から生やした茨を予めかけておいて、首をへし折る。
「エオナ様の方が全体的にヒドイですね」
勿論、今のワンオバトーは茨の人形なので、首の骨などないし、何なら全身が吹き飛んでも本体の肉体には一切のダメージは無い。
ワンオバトーもそれは分かっている。
だから、地面に倒れても直ぐに立ち上がりつつ……足元の土をすくって私の方へと投げつけてくる。
「スパーリングってなんでしたっけ?ウルツァイトさん」
対する私は短剣を投擲。
目つぶしの砂など意にも介さず、短剣は勢いよくワンオバトーの首に向かって飛んでいく。
ワンオバトーはそれを盾で防ごうと、盾を動かし始める。
「意味合いとしては準備運動とか実戦に近い訓練。だったと思うよ」
そのタイミングで私はスリサズの能力を使って、短剣が届くよりも早くワンオバトーの横に移動。
舌打ちをしたそうにしているワンオバトーの後頭部に蹴りを叩き込んで、自分の構えた盾と額を衝突させ、体勢が崩れたところで短剣がワンオバトーの胸に深々と突き刺さる。
「んー、短剣一本だとこんなところかしらね。他にも色々と出来そうだけど……魔法の使用が前提になるわね」
「あー、本当に人形でよかったと思う。人形の体でなければ、我は最低でも三度は死んでいたことになるしな」
ワンオバトーが短剣を引き抜き、私へと勢い良く投げ返しつつ、ゆっくりと立ち上がる。
対する私はワンオバトーの投げた短剣をキャッチすると、同じサイズの短剣を武器置き場で手に取り、両手に一本ずつ持つ。
「次、二刀流で行かせてもらうわ」
「エオナ、我はその言葉を信じない……と言うか、現在進行形で背中に何本か貼り付けてあるだろ、貴様」
「……。流石にあからさまだったかしら?」
「そこで呆然としているような連中には通じるだろうさ」
ワンオバトーは呆れた感じを出しつつも、戦いの構えは解かない。
なお、指摘された通り、私の背中では髪の毛の裏側に隠す形で、体から生やした茨を結びつけることで四本の短剣を持っている。
ワンオバトーが気付かなければ、二本の短剣を防いだところで不意打ちを放つ予定だったが……気づかれたなら止めておこう。
「じゃ、普通に行かせてもらうわ」
「はぁ、普通とは何だろうな……」
私は背中の四本の短剣を最高速で投擲すると、それに合わせる形で私自身も接近。
本当に普通に切りかかる。
が、流石に普通に切りかかると対応が可能なのだろう。
ワンオバトーは私の攻撃を適切に盾と剣と足捌きで防ぎ、避け、攻撃を受けないように立ち回る。
スリサズの能力をオンにしたり、オフにしたりすることで緩急も付けているが、それでも崩し切れない。
掠り傷ならば与えられているが、致命傷には程遠い感じだ。
「うーん、やっぱり短剣だと不意を衝かないと厳しいわね。魔法もないし」
「はぁはぁ……受ける我にとっては、かなり厳しい手数差なのだがな……」
私とワンオバトーの間に距離が出来る。
なので、私は持っていた全ての短剣をその場に落とし、短剣でのスパーリングが終わりである事を示す。
うん、やはり短剣での戦いだと、正面切ってではなく、不意を衝いたり、毒を利用したりと言った搦め手を用いた方が良さそうだ。
「じゃあ次は槍で行きましょうか」
「いいだろう」
私は細身の槍を手に取って、両手で構える。
対するワンオバトーの構えは変わらないが、呼吸は落ち着いているし、最初と違って自分から動き出す気配もない。
やはりファシナティオの魅了が無ければ、ワンオバトーはちゃんと頭が回るようだ。
「次は槍みたいだね」
私は防がれると分かった上で、ワンオバトーに向けて突っ込む。
すると当然のようにワンオバトーは槍を盾で防ぎ、剣で槍の柄を叩きにかかる。
「こっちは割とシンプルですかね?」
なので私は直ぐに槍を引いて攻撃を避けると、ワンオバトーの剣を持った手目掛けて槍を再度突き出し、剣を落とさせる。
実戦ならば、これでワンオバトーは片手を失って、戦闘不能だろう。
「堅実、と言い換えた方がいい感じじゃないかな?」
と言う訳で、私もワンオバトーも後ろに飛び退いて、一度距離を取る。
そして直ぐに次の一合が始まったと言わんばかりに、お互いに前に向かって駆け出す。
「それにしても、エオナ様はいったい何処で槍の扱い方とか覚えたんでしょうか……」
槍の間合いの内側に入る事で自身の有利を取ろうとするワンオバトーを、私は槍の柄で殴りつけたり、蹴りと当身で弾き飛ばすなどの形で間合いの外へと追い出す。
筋力による力押しではなく、遠心力を利用して、攻撃の勢いを増していく。
で、十分に体勢が崩れたところで頭に向かって一撃を放ち、一本を取る。
「さあ?ただまあ、少なくとも、あの動きで独学ってことは無いと思うよ」
その後も私は様々な攻めを展開する。
跳び回り、跳ね回り、大道芸のような動きでワンオバトーの動きを乱した上での一撃。
単純にとにかく力を込めた一撃を何度も勢いよく叩き込んでの攻め。
槍を全力投擲した上で、殴りかかると言うのもやった。
ワンオバトーに通用する動きもあれば、通用しない動きもあったが、ウルツァイトさんの頼みを満たすだけでなく、単純な訓練としてもいい動きをする事が出来た。
「じゃ、次は剣で行きましょうか。まずは盾も合わせてね」
「いいだろう。ドンドン来るがいい。我としても、心躍る思いになってきたぞ」
ワンオバトーのテンションもいい感じに上がってきている。
なので、私はそれから数時間かけて、ウルツァイトさんが用意してくれた武器を一通り試した。