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145:新たな武器の為に-3

「随分と種類が多いみたいだけど?」

「剣、槍、盾、短剣はデータが必須なので分かりますけど、斧、刀、弓、鞭、棒……ゲームで使えた武器が一通りと言う感じですね。格闘武器が無いのは分かりますけど」

「アタシもどうかとは思ったんだけど、単純に今のアンタの動きを落ち着いて外から見てみたいって奴がいるみたいだよ」

 建物の外、修練場のようになっている場所には、木製の案山子(カカシ)と基礎訓練用であろう様々な種類の木製武器が並べられていた。

 そしてウルツァイトさんが指差した先には、『満月の巡礼者』所属と思しきプレイヤーたちが何人も屯している。

 どうやら、ちょうど今日が休みだった面々の一部が、何処かからか私の武器製作の話を聞きつけて見に来ているようだ。


「どうする?邪魔ならアタシが追い払うけど」

「別に問題ないわ。周囲の被害とか武器の強度を考えたら、魔法を組み合わせる形式はやれないし、それなら見られていてもどうということは無いから」

「そうかい。なら放っておくよ」

 まあ、見られていても問題は無い。

 武器を振り回す姿を見られた程度で講じられる対策などたかが知れている。

 むしろ、それで対策が出来たと思い込んでくれるのであれば、好都合なくらいだ。


「じゃ、案山子は此処に置いておくから、好きな順番で試してみてくれ」

「あ、案山子は大丈夫よ。ちょっと私自身の訓練も兼ねて、自前で用意するから」

「へえ?どうするつもりだい?」

 勿論、私を脅威に見て、行動を慎み、改めてくれるならもっと都合がいい。


「こうするのよ」

 と言う訳で、私は体から大量の茨を出現させて、それで私より頭半個分ほど大きい人形を作る。


「来なさい。ワンオバトー」

 そして、茨の人形にワンオバトーの意識を乗せる。


「ん?ここは……『エオナガルド』の外か。我に何の用だ?エオナ」

「へぇ……」

「流石はエオナ様ですね」

「「「!?」」」

 茨の人形が口を開き、言葉を話し始める。

 その光景にウルツァイトさんは感心した様子を見せ、メイグイは何度も頷き、ギャラリーは大きく目を見開いている。


「仕事よワンオバトー。スパーリングに付き合ってちょうだいな」

 私はそう言うとワンオバトーに木製の大剣を投げ渡し、ワンオバトーはそれを受け取る。


「相手は?」

「私。色んな武器を使った姿を見せることになっているのよ」

 が、私が相手だと聞いた瞬間。


「すみません、腹痛なので我を『エオナガルド』に帰してもらっ……てぐっ!?」

「あ?その体かつモンスターが腹とか壊すわけないでしょ」

 何故か大剣を捨てて腹を抑え込むフリをし始めたので、とりあえず顔面に跳び蹴りをかましておく。

 と言うか、毒餌や毒酒の類でも摂取したならば分かるが、そういった特別な要因もなく腹を壊せるほどにモンスターの内臓は柔ではないし、そんな食事を『エオナガルド』で出してもいない。

 そもそも、今のワンオバトーの肉体である茨の体に内臓などと言うものは存在していない。

 で、これを説明したところ。


「ストレスで胃がやられる場合だってあるだろう!それなら、物理的には胃が存在していないとか関係ないから!と言うか、人間の胃がやられる原因はだいたいストレスだと聞いたぞ!エオナにはそういう経験はないのか!?」

「そうなの?」

「まあ、エオナ様には無縁ですよね」

「モンスターの方が正論を言っているとか、悲しくなってくるね……」

「くっ……この外道神官に常識を求めた我が馬鹿だっ……ギャイン!?」

「いいから、武器を拾いなさいよ。ほら、時間は有限なのよ」

 ストレスがどうのこうのとか、サンドバッグは嫌だと言ったとか、無理ゲーは勘弁してくれとか、色々と言われることになった。

 とりあえず、時間がないので、とっとと話を進めたい。

 なので、私はちょっとした報酬を提示してやることにする。


「分かったわよ。それじゃあ、今日のスパーリングが終わった後に、食事、酒、嗜好品辺りの消耗品を要求するのなら、私が準備できる範囲で届けてあげるわ」

 報酬の内容はワンオバトーが求める消耗品の提供。


「本当だな……」

「茨と封印の神スィルローゼ様の名に誓いましょう」

「あ、本気ですね」

「本気だね」

「分かった。後で大量の酒と食事を要求して、スリサズとアユシの二人と一緒に楽しませてもらうぞ」

「それくらいで済むなら安い物だわ」

 と言う訳で、交渉成立である。


「さて、本来の我に比べるとだいぶ体のサイズが小さいが……これは人間の剣士を想定した扱いでいいのか?」

 ワンオバトーは早速、今の自分の状態を確かめる。


「ええそうよ。ちなみに防具は身軽さとダメージの軽減能力を両立したぐらいのラインね」

「ふむ。兜なし、肩当なし、小手、脚甲、股間に腹、胸に背はあるか。二の腕と頭、それに太ももの防御判定が無い扱いでいいのだな」

「ついでに首周りと鎖骨と鎖骨の間も防御が無い扱いで見て」

「分かった。ならば大剣ではなく、片手剣と盾の方がいいな」

「扱えるの?」

「本来の巨躯と防具ならば力任せに薙ぎ払った方が早いからあの装備が適切だった。が、今の我に求められている物を考えるならば、盾持ちは必須で、武器は剣か槍の二択だろう。魔法は……止めておいた方が良さそうだな」

 そして、私が渡した大剣ではなく、訓練用の木製剣と盾を手に取り、重量や重心の位置、それに動き方などを確かめていく。

 その動きは明らかに素人ではない。


「で、エオナ。貴様はどういう条件だ?」

「んー、武器は順々に、防具は無し扱い。魔法は使わない予定だけど、能力については使うかもしれないわね」

 対する私はとりあえず短剣を手に取り、その調子を確かめる。


「我の側は本気で打ち込んでも?」

「当然構わない。スパーリングと言ったけど、武器と魔法以外は実戦と同じと捉えてもらって構わないわ」

「分かった。では、そのつもりで行かせてもらうとしよう」

 ワンオバトーが右手に剣を、左手に盾を持ち、盾を持った側を前面に出した構えを取る。

 対する私は仁王立ちに近い姿勢で右手に短剣一本だけを持った状態で、構えらしい構えも取らない。


「よし、それじゃあ……」

 そうしてウルツァイトさんが開始の合図を告げる一瞬前。


「死に晒せえぇ!エオ……」

 ワンオバトーは勢いよく私に向けて駆け出そうとした。


「ナギャ!?」

「ふんっ!」

 同時に私はスリサズの能力で瞬時に最高速に達してワンオバトーに接近。

 左手でワンオバトーの頭を掴み、右膝をワンオバトーの顔面に叩き込む。


「せいっ!」

「はじ……め……?」

 で、とりあえずとして、そこから右手に持った短剣をワンオバトーの頭頂部、茨と茨の隙間に勢いよく刺し込んで、実戦ならば普通の敵を確実に一回は殺害する形をウルツァイトさんに見せた。

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