143:新たな武器の為に-1
「ケッハメイ枢機卿?あの人が良すぎて逆に疑われるタイプの人がどうかしたのかい?」
「あー、うん。いきなり聞いて、返ってくる答えがそれって事は、本当に真っ白なのね」
翌日。
装備について幾つかの話があると言う事で、ウルツァイトさんの下にメイグイを連れて行った私は、開口一番にケッハメイ枢機卿に聞いてみた。
その結果がこれである。
「白も白、真っ白さ。ゲーム時代でもクレセート中心に活動していると色々と助けて貰う事になるし、『悪神の宣戦』以降でも、低レベルのプレイヤーたちを中心に見返りを求めずに囲って、真っ当な仕事の世話をしているようだし、ファシナティオの一件でも魅了されていただけのプレイヤーを何人も助けてる」
「ふうん」
「アタシも護身用の装備をプレイヤーたちに与えたいって事で直接会った事があるけど……立場相応の強かさはあっても、自分の懐に財を貯め込んだり、あくどい真似をしてでも自分を有利にしたいと考えるタイプじゃないね。金払いについても一切出し惜しみなしで、いい仕事をさせてもらったよ」
「なるほどね」
やはり、どう転んでもケッハメイ枢機卿自身はシロで見てよさそうだ。
もしかしたら、腹の中は真っ黒なのかもしれないが……仮に黒だとしても、相当先まで見通す事が出来て、そこでツケが返ってくるのを理解しているからこそ白く動く、と言う対処する必要のない黒でいいだろう。
「で、どうしてそんな話を唐突にしたのさ」
「簡単に言えば、フルムスを舞台に政争が起きようとしていて、ケッハメイ枢機卿の手の者が私に接触を試みてきたのよ」
「へぇ……ま、分からなくもないか。アンタを味方に出来れば、ケッハメイ枢機卿の下に高レベルプレイヤーが居なくても、力押しに対処出来るようになるだろうしね」
「動くなら、私独自にを徹底させてもらうけどね」
ウルツァイトさんが複数の書類を机の上に広げていく。
どうやら、私の素材についての調査をした結果であるらしく、一つ一つの素材について事細かに書かれている。
「そうだね。そうしてくれると『満月の巡礼者』としても助かるよ。代行者と言うか準神性存在を自由に使えるなんて話、噂が立っただけでも面倒事になる予感しかしないからね」
「でしょうね。クレセートに他の高レベルプレイヤー中心のギルドがないわけじゃないだろうし、ルナに対する嫉妬が強まるってのは、流石に私でも分かるわ」
素材の効果としては……やはりスィルローゼ様の代行者である私の体の一部であるためだろう、全体的に木属性に特化した力を有しているようだ。
また、封印や麻痺と言った動きを制限するタイプの状態異常に対しても強い働きを見せているようだ。
後、特筆する点としては……夜間に効果が微増する点と、耐久度の向上効果が見られる点、これはルナリド様とサクルメンテ様への信仰を私が持っている影響だろう。
「ん?薔薇水晶は空白なの?」
「あー、アレね……」
と、私は薔薇水晶の書類がほぼ白紙状態になっているのを見つける。
一個しかなかったとはいえ、流石に他の書類に比べて書かれている量が異常に少ない。
なので、私は手に取ってきちんと読んだのだが……ウルツァイトさんが何処か遠い目をしている理由を直ぐに察することになった。
「加工不可って。何?」
「文字通りさ。削る、割る、叩く、焼く、煮る、溶かす、色々と試してみたんだけどね。レベル90のプレイヤーがフルバフかつ総アダマンタイト製のハンマーを使って、全力でぶっ叩いても、傷一つ付かなかった。生産部隊としては満場一致で特殊な加工方法を必要とする素材枠行きだよ」
「うわぁ……」
ウルツァイトさんがもう一枚の書類……どのような加工方法を試したのかを書いたものを出す。
それを読んだ私としては……私が生み出した素材ながら、どうなっているんだこれは、と言う感じの声を漏らさずにはいられなかった。
「堅い、ではないのね」
「ああ。破壊を試みた側が壊されるのは、普通の水晶でも壊れる様な柔な素材で何かをしたパターンだけだった」
「各種計測は受け付ける」
「膨大な魔力を秘めているのも確かだね。目に見えるくらいだし。ただ、吸収魔法とかは受け付けなかったね」
「ああ、アルテ系の金属性魔法でも駄目だったと書いてあるわね」
私の薔薇水晶を加工する方法は、ざっと見ても百種類以上の方法が試されている。
中には先程ウルツァイトさんが言ったような破れかぶれとしか思えないような方法も試されている。
だが、いずれの方法でも傷一つつかなかったし、加工するのに使った道具や魔法にダメージが返ってくることもなかった。
一先ず、結論としては準神性素材の落とす特殊素材であり、そのポテンシャル自体は非常に高い。
しかし、何かしらの条件を満たさなければ加工が不可能な特性を有している、と言う形で落ち着いたようだ。
「んー、薔薇水晶については、ちょっとこっちでも調べてみるわ。私にも加工方法は分からないけど、私が生み出しておいて、生み出した当人にすら加工する方法がないって言うのも妙な話だと思うから」
「よろしく頼むよ。薔薇水晶なしでもかなりの物が出来上がるのは間違いないけれど、アタシは職人としてこの薔薇水晶を使いたい」
「分かったわ」
「あと、出来ればもう一つ同じものを用意してもらえるかい?古式ゆかしい方法なら削るくらいは出来るかもしれないから」
「ん、後で生み出しておくわ」
とりあえず、薔薇水晶……正式名、エオナの薔薇水晶については、『エオナガルド』の方で色々と調べてみるとしよう。
何か手はあるはずである。