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14:再び枯れ茨の谷

「『スィルローゼ・プラト・エクイプ・ベノム=ソンウェプ・ノイン』」

「「「モグアッ!?」」」

 毒の茨の鞭に変わった剣によって、私の前に立ち塞がったカレイバモールたちは呆気なく上下に両断される。


「『スィルローゼ・プラト・ワン・ベノム=ソンボル・フュンフ』」

「ガギッ!?」

 続けて剣先から放たれた毒の茨によってカレイバコンドルが撃ち落とされ、絶命。


「『スィルローゼ・ウド・フロトエリア・ソンウェイブ・ズィーベン』!」

「「「!?」」」

 最後に地面から大量の茨を出現させ、現在枯れ茨の谷で唯一悪と叛乱の神ヤルダバオト側ではない私へと向かってきていたモンスターたちをまとめて飲み込み、死に至らしめる。


「はい、お終い。と」

 戦闘終了後。

 私は最低限の剥ぎ取りだけすると、『スィルローゼ・アス・フロトエリア・ベリ・ツェーン』で死体を埋めて処理し、谷の奥へ向かって歩いていく。

 きちんと検分しないのは、レベル40代の彼らが、レベル50以降の全てのモンスターが低確率で落とす悪神の種……いや、恐らく今は悪と叛乱の神の種になったアイテムを落とすことは無いからだ。

 勿論、現実になったことでレベル周りの仕様にも変わった部分があるかもしれないが……流石に一週間でレベル40代のモンスターがレベル50にまでレベルアップするとは考えづらいだろう。


「さて、折角だし道中色々と試してみましょうかね」

 『Full Faith ONLine』ではスキルはスキルブックによって習得するものである。

 習得したスキルはスキルスロットにセットすることによって使用可能となる。

 そして、メイン信仰10枠、サブ信仰10枠と言うスキルスロットは今も存在していて、スキルスロットの内容は意識すればカンニングペーパーのように視界の片隅に表示されていて、戦闘時またはダンジョン内でなければ、何時でも組み替える事が出来る。


「『スィルローゼ・ウド・エクイプ・エンチャ・ツェーン』」

「ーーー!?」

 私の魔法によって剣が青く輝き出し、煌々と青い光を放つ剣で斬りつけられた枯れた茨を巻き付けた袋状のモンスター……カレイバルンはHPが一定値以下で行う自爆行動の予兆すら見せることなく蒸発。

 剥ぎ取れる素材含めて、跡形もなく消え去る。

 だが重要なのはそこではない。


「やっぱり外なら組み換えの必要性は無いようね」

 重要なのは、『スィルローゼ・ウド・エクイプ・エンチャ・ツェーン』をスキルスロットに入れていなかったのに使えた、この点である。


「まあ、便利ではあるわね」

 ダンジョンの中でも使えるかは試してみなければ分からないが、少なくともダンジョンの外ではスキルスロットはカンニングペーパー以上の役割を今後は持たないらしい。

 だがこれはいいことだろう。

 私のようにスィルローゼ様の魔法ならば全部暗記していると言うのなら、単純に取れる選択肢が増えるだけなのだから。


「こっちはいけるかしら?『スィルローゼ・プラト・ワン・ベノム=ソンボル・ゼクス』」

 続けて私は習得していない階級の魔法を放とうとする。

 が、流石にこちらは駄目であるらしい。

 剣先からは何も放たれない。

 他の魔法の等級上昇に伴う細かい仕様の変化、『スィルローゼ・プラト・ワン・ベノム=ソンボル』と言う毒の棘を飛ばす魔法自体の理解、類似魔法との関係、そう言ったものは全て把握しているのだけど……それで駄目という事は、スキルブックには許可証のような側面もあるのかもしれない。


「後は……そうね、こう言うのはどうかしら?『スィルローゼ・ウド・ワン・ソンカペト・アインス』」

 三つ目に試してみたのは、私が既に習得している魔法に類似した、けれど全く存在しない未知の魔法。

 効果としては指定した場所に茨の絨毯を敷き詰めるようなものをイメージしたのだけど……やはり効果はない。

 まあ、これも当然か。

 現実になった以上、ゲームの枠の中で作られたものではない魔法が存在すること自体は出来るだろう。

 しかし『フィーデイ』の魔法とは神の力の一端を借りるもの。

 力を借りる神の許しもなく、勝手に新たな魔法を作ることなどできるはずもない。


「んー、なんと言うか。いっそのこと自分の力だけで放つような魔法の方が上手くいくのかもしれないわね」

 一先ずこの話については今はこれくらいで済ませておくとしよう。

 実験と検証、考察に思索を重ねる必要があるから、今やるべきことではない。


「さて……」

 そうして歩いている間に私の前にカミキリ城が見えてくる。


「初日に見かけた時よりも明らかに物々しい雰囲気になっているわね」

 枯れた茨に囲われた石造りの城であるカミキリ城は瘴気としか称しようのない黒色の煙を城のあちこちから吹き上げていた。

 城壁の上ではカミキリムシをモチーフにしたモンスターであるカミキリ兵たちが油断なく周囲を見渡していて、他にも何種類かのモンスターたちが争う事もなく城の周りに屯して、こちらの事を待ち構えている。

 とは言え、所詮は高くてもレベル50台の雑兵。

 魔蟲王マラシアカ以外は幾つかの範囲魔法を組み合わせれば一掃できるだろう。


「……。食料とかどうなっているのかしら。それともモンスターになってしまえば、生命維持には食料が必要なくなるとか?うーん、分からないわね」

 個人的には他にも色々と気になる事はある。

 あるが……こちらも先の新たな魔法と同じで、今は考えても仕方がないことだろう。


「とりあえず枯れ茨の谷の源泉水を回収してしまうべきね」

 私はカミキリ城へ向かう道から外れて、谷間へと降りる小道……と言うか枯れた茨の中でも太い茨が斜めに生えて、道のようになっているところを進む。

 この道を進めば谷底へ降りられ、そこから頭上にカミキリ城を望みつつも川の横の小道を歩いて進めば源泉に繋がる滝へ行ける。

 で、そこからは此処と同じようになっている茨を上がれば、枯れ茨の谷の源泉水……スィルローゼ様の力と特に親和性が高い水が手に入ると言う流れである。


「……。これは一筋縄ではいかないかもしれないわね」

 そうして、川の横を歩き続けカミキリ城に一番近くまで寄った時。

 私がスィルローゼ様の神官であるからなのか、それともゲーム中で何十度と一人で倒し続けた為だろうか、魔蟲王マラシアカの持つ力に変化が生じているのを感じた。

 『Full Faith ONLine』ではスィルローゼ様の木属性に弱かった土属性の魔蟲王マラシアカに、木属性に強い金属性が混じると言う厄介な変化を。

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