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138:エオナの検証-3

「で、何を確かめるの?」

 仕留めたフルムスセージの素材を回収してきたサロメが私に尋ねてくる。


「そうね……まずは補助魔法関係かしら」

「具体的には?」

「ここに居る私ではなく、『エオナガルド』に居る私を対象に魔法を使う事が出来るかを試してみてほしいの」

 まず試すのは、『エオナガルド』に干渉できるかどうか。

 私の許可がない場合は出来なくても当然だが、許可がある場合にどうなるかが気になる。


「なるほどね。じゃあ、これでいいわね。『バンデス・フレイム・エクイプ・フレイム=チェイス・アインス』」

 と言う訳で、サロメが攻撃に炎を纏わせる事で追加のダメージを与えられるようになるバンデス様の魔法を、私に向けて発動する。


「どうかしら?」

「んー、駄目っぽいわね。こっちの私にはしっかりかかってるけど」

「まあ、当然よね。私にはアンタの中がどうなっているかなんて分からないんだし」

「ま、そうよね」

 結果は失敗。

 『フィーデイ』に居る私が正拳突きを放った時には炎のエフェクトが生じているので、魔法自体はかかっているが、『エオナガルド』には影響は出ていないようである。


「エオナ様自身が使う場合には?」

「んー、ちょっと待ってね。『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・アインス』」

 私が私に使う場合には……


「ふんっ!あー、片方にしか発動してないわね。これ。と言うより、無意識的に、『エオナガルド』の中に居る私にだけ魔法をかけてるわ」

 駄目らしい。

 本来なら、炎のエフェクトと薔薇の花のエフェクトの両方が生じる筈なのに、片方ずつしか発動していない。


「じゃ、ちょっとパターンを変えて、中の私が詠唱して、魔法を発動出来るか見てみましょうか」

 私は誰も居ない方を向いて、手をまっすぐに伸ばす。

 そして『エオナガルド』に居る私に『スィルローゼ・ウド・ワン・ソンランス・アインス』を唱えてもらうが……。


「えーと?」

「何も起きないって事はそう言う事でいいの?」

「駄目みたいね。『エオナガルド』で魔法が発動してるわ」

 『フィーデイ』では魔法は発動せず、『エオナガルド』で茨の槍が出現してしまった。


「次元の壁は信仰値カンストの狂信者様でもそう易々とは超えさせてくれないって事かしら?」

「あるいは『エオナガルド』の安全保障上の問題として、ワザと出来なくなっているのかも。『フィーデイ』に居る私が致命傷を負っても『エオナガルド』には影響が出ないようになっているから、それの引き換えみたいな形で」

「それは有り得そうな話ですね」

「いや、私の台詞に突っ込みの一つでも入れなさいよ……」

 どうやら、『フィーデイ』で魔法を使ったり、能力を発動したりしたい場合には、きっちり『フィーデイ』に居る私が行使する必要があるらしい。

 厄介な話ではあるが……まあ、出来てしまうと、『エオナガルド』に居る複製体の人たちに補助魔法を山のようにかけてもらって、『フィーデイ』に居る私に桁違いの強化を施すなんて真似も出来るようになってしまうから、これは仕方がない事か。

 うん、魔法関係についてはこれくらいでいいだろう。


「他に気になる事と言うと……ワンオバトーの能力ね」

「ああ、例の決闘能力って奴ね。ファシナティオとの戦いでも、かなり有効だったとは聞いているわ」

「そうね。かなり強力な能力ではあるわ」

 次はワンオバトーの能力。


「便宜上、ターゲッティング、とでも呼べばいいのかしらね。ワンオバトーの能力は対象となった存在と使用者に一対一の戦いを強要する。この能力の影響下にある限り、外部からの干渉方法はかなり限られる。少なくとも普通の攻撃、回復、補助の魔法は弾かれるわ」

 ワンオバトーの能力はかなり強い。

 なにせ、能力の対象は私以外に干渉する事が出来なくなり、必殺の一撃も、逆転の為の補助も、致命的な傷を癒すための回復も自分だけでどうにかするしかなくなるのだから。

 それこそ一切の誇張を抜きに、ファシナティオとの戦いがフルムスの一角を更地にするだけで済んだのは、ワンオバトーの能力のおかげだと言っていいくらいでもある。


「そして、厄介な事にワンオバトー以外にもこの能力を保持しているボスはそれなりに居る」

「でしょうね。『Full Faith ONLine』じゃ、一対一での戦いを強要されるボスってのはそれなりに居た。そいつらの中には地形や罠の結果として、一対一になる奴も居たけれど、そうじゃないのも意外と居たはずだから」

「で、能力として一対一に出来るのであれば、便利な能力として残しておくのは当然ですよね」

 故に敵に回ると、桁違いに恐ろしくもある。

 強力な範囲攻撃を放つ直前にターゲッティングされてしまえば、どれほど広範囲かつ高威力の攻撃であってもターゲッティング能力を行使した当人にしか効かなくなってしまう。

 戦場全域に効果があるような継続式の補助魔法を使っているプレイヤーがターゲッティングされてしまえば、その補助魔法が突然消え失せる事になる。

 致命傷を負った人物、あるいは強力な回復方法を保有している者がターゲッティングされてしまえば、死が確定する。

 単純に使っただけでも、これほどに恐ろしい事態を引き起こせる能力なのだから、今後も同じ能力を持った敵が出てくることを考えたら対策は必須だと断言していいだろう。


「そういう訳だから、次はターゲッティングの検証と行きましょうか。特に壁や地形への影響は検査項目として重要そうだしね」

「そうね。調べた方がいいと思うわ」

「はい、エオナ様」

 そうして私たちは次の検証作業を始めた。

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