137:エオナの検証-2
「説明を求めるわ。魔法無しでモンスターを倒せるなんて異常を見過ごすわけにはいかない」
サロメはそう言うと、右手に持った杖の先を私に向けつつ、私から見えない位置に自分の左手を持っていく。
完全に臨戦態勢であるが……まあ、当然の反応と言えるか。
「心配しなくてもヤルダバオトの力は使ってない。そしてスィルローゼ様の力も使ってないわ。これは純粋に私の力よ」
「どういう理屈なのかを聞いているのよ」
「理屈としては……大前提として今、この場に居る私は『エオナガルド』に居る私の本体とでも言うべき部分の端末でしかないと言うのがあるわね」
「?」
なので私は武器を向けられている事も気にせずにサロメの方へ戻ると、頭の中を整理しつつ、出来る限り論理的な説明を試みる。
「えーと、早い話が、今この場に居る私は魔法……と言うよりは代行者の能力かしらね。とにかくその力によって遠隔操作されている人形のようなものなのよ」
「あー、なるほど」
「話が少し見えてきたわね。それで?」
周囲に敵影は無い。
これならば、暫くは話し込んでいても大丈夫だろう。
私はそう判断すると、適当な岩に腰かける。
「詳細な判定までは分からないけれど、私の体が私の本体の力によって操られている以上、この場に居るだけでも私の体は魔法の力を帯びていると言っていい。そうでなくとも『エオナガルド』を亜空間に存在させるために力は行使されているはず。だからまあ……」
「ただ殴ってもダメージを与えられる、と」
「そう言う事ね」
理屈としてはそう難しい話ではない。
要するに、私をこの場に存在させるために発動している幾つもの魔法に能力、それらが組み合わさった結果として、最低限レベルの付与魔法が常時私の全身にかかっているような状態にあるだけなのだから。
「で、その後の茨は?」
「あっちは……単純に信仰値の問題だと思うわ。ほら、御使いモードの中にもあったじゃない?自分の攻撃のエフェクトに色々な特殊エフェクトが乗る奴。アレと私の今の状態が組み合わさった結果だと思うの」
「ああ、あったわね。花と芳香の神……だったかしら?御使いモードだと全部の行動でランダムに花弁が出現するエフェクトが乗るのよね。確か」
「へー。そんなのもあるんですね」
「あるわ。ただ……」
その次の祈りを捧げた後に放った拳の方についても、そんなに難しい話ではない。
「間違っても、物理的な破壊力なんて伴わないけどね」
「だからそこは信仰値の問題だって言っているじゃない。これが普通でない事は私も自覚してるわよ」
「ちなみにエオナ。貴方の今の信仰値は?」
「メニューから見れる画面での表記だと999で止まっているわね。内部的にはもっと行ってそうだけど」
「うわっ……」
「……」
要は私のスィルローゼ様に対する信仰心と私自身の魔力、それに私が纏う力場が組み合わさった結果として、物理的な破壊力を発揮するようになっているだけなのだから。
他の代行者が同じことを出来るかは分からないが、準神性存在である青龍などは魔法を用いずにブレス攻撃が出来るのだし、それと似たようなものだろう。
サロメからは凄い形相で睨まれているが。
「あー、とりあえず信仰と魔力の組み合わせって事は、ある意味では魔法の発動に必要な要件を満たしても居るのよね。自身の魔力を神様の力を呼び込むための呼び水にするのでは無く、物理的な現象に変換しているけど」
「そうね。そう言う見方も出来るとは思うわ。確かそっちは専門的に研究している奴も居た気がするから、一例として報告は挙げておくわ」
なお、見方によっては、私が放った一撃は原初の魔法の模倣とも言える。
『Full Faith ONLine』では世界に存在するものは言葉も含めて、全て神様たちが作ったものであり、言葉の誕生、魔法の使い方と言う部分については人類の誕生よりも後の話であるが、祈ると言う行為に魔力の存在は人類の誕生に同期するからだ。
まあ、魔法が確立されている今の『フィーデイ』でこの原初の魔法の模倣を使うとしたら、魔法を詠唱する暇もない状況ぐらいであるし、技を研ぎ澄ます対象としては優先度が低めか。
「そう言えば思ったんですけど。エオナ様って体から茨を出せますよね」
「出せるわよ。鞭に短剣ぐらいなら、ほぼノータイムね」
と、ここでメイグイが手を挙げて、質問をしてくる。
なので私は右手の手首から茨の鞭を、左手の掌から大きな茨の棘を基にした短剣を複数本出現させる。
「で、それがどうしたの?」
「その……体から出した茨の鞭や短剣ってどういう扱いになっているんですか?魔法を改めて乗せる必要があるのか、武器扱いになっているのかとか、結構重要な話だと思うんですけど」
「ああ、その事ね」
「確かに気になる話ではあるわね」
メイグイの質問はもっともである。
と言う訳で私はリポップしたらしい二体のフルムスセージに向けて無造作に短剣を投げつけ、鞭を振るう。
「「ーーーーー!?」」
結果は……どちらも即死。
が、短剣の方がサイズ差や攻撃の威力の差を考慮してもなお、原形を留める形で敵を葬っていた。
「鞭は私の一部にして武器と言う扱いね。短剣の方はより武器の性質が強くなっているみたい。一分もすれば、ちゃんと魔法を付与する必要性が生じそうね」
「ふうん、面白い結果ね。つまり短剣は使う直前に生み出せって事ね」
「そうなるわね。ま、その代わりに短剣は他の人にも普通に渡せるけど。あれかしらね、鞭は魔法による生成物に近くて、短剣は素材に近い扱いなのかも」
私はサロメに棘の短剣を投げ渡し、空中で器用に受け取ったサロメは興味深そうに短剣を眺めた後にアイテム欄に収納。
アイテム欄の詳細も興味深そうに窺っている。
「しかし、こうなってくると他にも色々と検証するべき事がありそうね。アンタの体は」
「そうね。確かに色々と調べる必要はあると思うわ」
サロメが再び短剣を取り出す。
そして、手の内で何度か軽く弄んだ後。
「『ルナリド・ムン・エクイプ・エンチャ・アインス』。せいっ!」
魔法をかけた上で遠くに居たフルムスセージに向けて投擲。
勢いよく回転しながら飛んでいった短剣はフルムスセージの体を中ほどから切断して絶命させ、その後ろの地面に勢い良く突き刺さる。
どうやら、他の人間でもきちんと武器として使えるらしい。
「ま、そう言う事だから手伝ってくれると助かるわ。サロメ、メイグイ」
「ま、手伝ってあげるわ。知らないと色々と拙そうだし」
「私に出来る範囲で有れば」
そうして私たちは次の検証事項に移った。