133:お肉の話-1
「さて朝ね」
『フィーデイ』の体を起こした私は、直ぐに沐浴を行う。
「スィルローゼ様。今日も一日よろしくお願いします」
そして、沐浴によって身を清めた後に、私はスィルローゼ様へと祈りを捧げる。
その後、続けてルナリド様、サクルメンテ様へ祈りを捧げる。
「朝ご飯までは……もう少し時間があるわね」
私は時刻を確認。
メイグイが来て、朝ご飯になるまでにまだまだ時間はある。
「茨と封印の神スィルローゼ様。朝早くから申し訳ありませんが、貴方様が代行者エオナが求めます。どうか私の問いにお答えくださいませ。『スィルローゼ・サンダ・ミ・オラクル・ツェーン』」
なので私は隠蔽スイッチを切った上で、『スィルローゼ・サンダ・ミ・オラクル・ツェーン』を発動。
スィルローゼ様の御前へと私の意識を飛ばす。
「おはようございます。エオナ」
「おはようございます。スィルローゼ様。朝早くから申し訳ありません」
「ふふっ、大丈夫です。私だって神様ですからね。時刻調整くらいは問題ありません」
スィルローゼ様は私に微笑みを向けてくれている。
どうやら、神様の世界ではある程度の時刻調整が利くらしく、『フィーデイ』が夜明け頃なのに対して、スィルローゼ様の姿などには特に変化は見られない。
もしかしたら、そう見えるようにしてくださっているのかもしれないが……気遣っていただいたならば、表面上は気づかずに、けれど内心と行動で感謝の念を示すべきだろう。
うん、後で感謝の祈りと『エオナガルド』の神殿の大掃除をしなければ。
「それで、用件は何でしょうか?」
「はい、二つほどあります。一つはフルムスで行ったファシナティオ封印に関わる件でして……」
さて本題である。
まず私はルナから頼まれた案件、ファシナティオ封印の聖地にスィルローゼ様の名前や像を出すかどうかについて。
「お断りします。私の名前と姿は出さなくていいです」
「分かりました。では、ルナたちにはそのようにお伝えします」
それに対するスィルローゼ様の答えははっきりとNoを告げるものだった。
だから、私も素直にそれを受け入れて、頭を下げる。
「あ、断る理由については、私の名前と姿が広まりすぎることを懸念していると伝えてください」
「はい。他の封印の安全の為に、ですね」
「その通りです。私の名前が広まりすぎるのは、やはりよくありません。どうしても封印を執行した者の名前と姿が必要だと言う場合は……エオナ、申し訳ありませんが、貴方にお願いします」
「分かりました。貴方様の代行者として、誠心誠意努めさせていただきます」
「お願いします」
私の名前と顔如きでスィルローゼ様の御威光を隠しきれるとは思えないが……それでもやれるだけの事をやらせてもらうとしよう。
私はスィルローゼ様の代行者なのだから。
「それでエオナ。もう一つの要件と言うのは?」
「こちらは『エオナガルド』の住民から上がった要望なのですが……」
続けて私はゴトスから伝えられた『エオナガルド』に動物が居ない件について伝える。
すると、私の言葉をスィルローゼ様は少し考えこむ様子を見せ……
「これは私たちの手落ちですね。人々が肉と言うものをどれだけ大切に考えているのかを甘く見ていましたね」
「手落ちだなんてそんな……気づかなかったのは私も同じです。スィルローゼ様」
「いえ、それでもやはり私の手落ちは手落ちです。過度の願いを叶えるのは駄目ですが、この願いは安寧を保つためにも叶えなければいけない願いですね」
「スィルローゼ様……」
直ぐに私の方を見て……より正確に言えば私の中にある『エオナガルド』で生活している人々を見て、決意を固められる。
その凛とした表情に私は思わずうっとりしそうになるが……うん、此処はスィルローゼ様の御前、軟弱な様子は見せられない。
「それにしても肉……ですか。うーん、技術的には特に問題は無いですけど、ただ肉そのものをあげるのは、彼らが外に出た後の事まで考えるとちょっと良くないですよね」
「そうですね。折角肉を得られるようにするのであれば、一緒に何かしらの技術を得る事が出来るようにした方が、彼らの自我確立の為にも良いと思います」
「となると、やはり形式的であっても、狩猟の形態をとれるようにした方がいいでしょうか?」
「良いと思います。今の『エオナガルド』では対人以外の戦闘訓練を行えませんし、今後を考えるならば、モンスターとの戦闘経験は増やした方がいいと思いますから」
ただ肉を与えるのではなく、狩猟の形態を取る。
私が用意した生物を『エオナガルド』の住民たちが狩り、解体し、糧とする。
うん、実に良い流れだと思う。
狩られた生物のリポップにしても封印の技術を利用すれば、問題なく『エオナガルド』内で完結させられるはずだろうし。
「となると、後の問題は肉の種類ですけど……『フィーデイ』の社会で一般的な肉と言うと羊、豚あるいは猪、鳥、それから一歩引いて馬に牛、もう一歩引いて各種モンスターの肉でしたよね」
「ええ、それでいいはずです」
それからスィルローゼ様と私は生み出す生物の仕様についての話し合いを始める。
「複数種類の生物を用意して、一定数を保ち続けるのは流石に負担が大きいでしょうから……キメラにしちゃいましょうか」
「そうですね。基本を草食にして、羊と猪と鳥を主体とする大型のキメラを作れば、一頭で一日分の肉を確保することも可能ですし、それならば私でも管理できると思います」
「対モンスターを想定した訓練に使うなら、ブレスの一つでも吐けた方が良いですよね?」
「そうですね。火の一つでも……」
大まかな方針としては、複数の草食動物の特徴を持ち、食肉としても、戦闘訓練の相手としても有用な大型のキメラ。
そこまで決めて、次に細かい仕様を私たちが決めようと思った時だった。
「はい、ストオオォォップ!!君たちは『エオナガルド』の住民に食肉を与えたいのか、トラウマを与えたいのかどっちなのかな!?」
「ルナリド様?」
「どうかされましたか?」
「ーーーーー(駄目だこりゃあ……)」
何故か、慌てた様子のルナリド様と、呆れた様子のサクルメンテ様がスィルローゼ様と私の会話に入り込んできたのだった。
07/28誤字訂正