131:『エオナガルド』-4
「うーん、相変わらずの素晴らしい出来ね」
「そうですね。空気も綺麗で……心身が引き締まる感じがあります」
「世界遺産の教会、って感じはするよな」
『エオナガルド』最大の神殿、正式名称は特になく、礼拝堂の作りも一般的な七大神の神殿と大して変わりはない。
しかし、通常の七大神の神殿とは大きく異なる点が一つ。
それは礼拝堂最奥の祭壇に祀られている大きな神様の像の数が七つではなく、九つである事。
ルナリド様たち七大神に加えて、スィルローゼ様とサクルメンテ様も加わっているのである。
また、礼拝堂の側面の壁には大小様々な大きさの祭壇が用意されており、その内の幾つかには既に木像が置かれている。
それはミラビリス様たちを象った像であり、最終的には『フィーデイ』に存在する全ての神様の像が置かれるとのことだが……像を置くかどうかはそれぞれの神様の自己判断で、置く像そのものも各自で用意していただくことになる都合上、揃うのは当分先になりそうである。
「掃除についてはゴトスたちがやっているのよね」
「ああ、住民が持ち回りでやることになっていて、現状は問題なしだ。祭儀については……今はそっち方面に詳しい方の奴が自主的にやっている感じだな」
「ミラビリス様の時は私が務めさせてもらってます」
「うん、うん、それは素晴らしい事ね。偉いわよ。シュピー」
「えへへ……」
神殿のサイズとしては、詰めれば10人程が座れるであろう椅子が一列に付き二つあり、それが20列ほど入口から祭壇まで並ぶと言う、非常に大きなものとなっている。
バルコニーもある事を考えれば、500人ほどの人間が一度に入る事も可能だろう。
また、外から見て四階建ての建物並の高さがある事からも分かるように、天井もとても高く、ステンドグラスから射し込む月光もあって、非常に神秘的な雰囲気を醸し出している。
「しかし、スィルローゼ様はよくど真ん中に像を置くことを許したよな。ロズヴァレ村の祠からして、目立つのは嫌いそうなんだが……」
「そこは流石に押し切らせてもらったわ。『エオナガルド』はスィルローゼ様の代行者である私の一部、なのにその『エオナガルド』に置かれた神殿の主神の位置にスィルローゼ様が居ないのでは、場が締まらないなんてものではないもの」
私は腕を組んで、その時の事を思い出しつつゴトスに向けて話す。
実際、この神殿の位置でスィルローゼ様の像がなかったら、そちらの方が問題だろう。
私が如何なる神様を一番に信仰しているのか、『エオナガルド』と言う世界が誰の力を主体として運用されているのかが分からなくなってしまう。
だから、ルナリド様とサクルメンテ様にも協力してもらい、スィルローゼ様を説得。
顔や衣服、髪の詳細などは分からないようにしつつも、体に絡む茨や薔薇の花でスィルローゼ様だと分かるような像を作り、置かせてもらったのだ。
スィルローゼ様の指示に合わせて調整した結果として、何処となく木像の一部が私にも似ている気がするが……うん、私如きとスィルローゼ様を見間違えるとかあり得ないし、問題は無いだろう。
「なんにせよ、神殿の方は問題が無いようね。じゃあ、次はアッチね」
「そうだな。さて、何処まで進んだのやら……」
「鬼が出るか、蛇が出るかって感じはありますよね……」
さて、先述通り、この七大神の神殿はとても大きく、広いものである。
だが、礼拝堂だけでその巨大さが出来ているわけではない。
神殿には付随する建物や施設と言うものが付き物である。
通常の七大神の神殿ならば、それは宿舎の類であるが、ここ『エオナガルド』では少々特殊な施設が私の意思とは無関係に併設された。
「まあ、貴方たちの意見は否定しないわ。私もそう思うところはあるし」
私は礼拝堂の隅に付けられた扉を開け、併設された施設……『エオナガルド魔法図書館』とわざわざ別の名前を付けられた建物へと足を踏み入れる。
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「蟹と救助の神クラレスキユなんて居たんだな……」
「えーと、これはウォーハ様の本ですね」
「いやはや、とんでもない量だな」
現在の『エオナガルド魔法図書館』は、まだ空いた本棚ばかり。
礼拝堂の倍ぐらいの床面積はあるが、二階以降の部分は無い状態である。
そう、今はまだ。
「調子はどう?」
「おおっ!クイーン・エオナ!いやぁ、素晴らしいですねこの図書館は!!」
「最高です!クイーン・エオナ!図書館の外には持ち出せないし、内容も暗記しないといけないとは言え、見たこともないスキルブックが何十冊もあるんですから!」
「天国ですよ!私みたいな本好きにとっては本当に天国です!」
「そ、そう……」
だが直に本が一冊も入っていない本棚は無くなるだろうし、何処からともなく別の階に移動する階段も現れて、上下に拡張されていくことだろう。
なにせ、こうして図書館にこもって作業をしている複製体の人間たちと話している間にも、何処からともなく本が現れて、未分類エリアとして紐で囲まれた場所にある祭壇の上に出現しているのだから。
そして、出現している本もただの本ではなくスキルブック、それも使い捨てではないタイプである。
「確かエオナは図書館の製作時点から関わっていないんだよな」
「関わってないわね。街中で取れる素材と一緒で、私の余剰エネルギーを利用して製作しているとは聞いているけど」
そう、この図書館で本の生成機構として働いているのは、私がルナリド様から授かった規格外魔法である『オル・オル・レコード・リド=ライ=スキルブク=エンサイクロペディア・アウサ=スタンダド』。
この魔法によって生み出せる、使い捨てでないスキルブックを蔵書とする形で、『エオナガルド魔法図書館』は充実していっている。
私の意思が関わっていないため、生成されるスキルブックは完全なランダムであり、中には私が存在すら知らなかった神……例えば乱と混沌の神のイヴ=リブラのスキルブックである『イヴ=リブラ・カオス・ワン・バレト・フュンフ』なども置かれている。
読める読めないは……まあ、本人の適正次第と言うところか。
私には『イヴ=リブラ・カオス・ワン・バレト・フュンフ』のスキルブックの中身は訳の分からない計算式や図表が並んでいる事しか分からなかったし。
「ぶっちゃけ、ここの管理だけは常任の個体を置いておいた方がいいんじゃないか?誰かがコントロールしておかないと危険だろ」
「検討しておくわ……」
恐らくだが、迂闊に読ませるわけにはいかない本と言うのも、その内出てくるだろう。
そうなると、必然的にそう言う本には封印処理が必要になる訳で……うん、ゴトスの言うとおり、管理用の個体くらいは置いておいてもいいのかもしれない。
「とりあえず、今日出現した本の目録を」
「こちらになります。クイーン・エオナ」
何にせよ、今はまず、目録の確認である。
と言う訳で、私はゴトスとシュピー=ミナモツキに手伝ってもらいつつ、目録と実物の確認を進めていった。
07/26誤字訂正